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第31話 塔攻略にこそ彼等は輝く

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 スーパーアスレチックダンジョン、ドオンの塔。
 石床と砲弾がとめどなく飛び交う、殺意満点のステージ攻略が遂に始まった。

 しかし、ただ躱して飛び乗ればいいという訳では無い。
 中にはバグ石床が存在し、乗る事が出来ないものまであるという。
 ゆえに反応と身体能力、そして判断力と冷静さが問われるステージなのだ。

「いいでっすか翔助様、よく見ていてくださぁいでっす!」
「お、おう……」

 にも拘らず、あのユーリスが石床へ向けて意気揚々と飛び跳ねる。
 普段は反射神経の弱さが目立つ彼女も、こんな時だけはやる気満々だ。

『ユーリスは倒れた』
「つまりここを飛び降りればいいんだな!? よしッ!!」
「お待ちくだされ翔助殿。ユーリスはこの際いないものとしてカウントして構いませぬ」
「ジャンプ台犬とか乗り捨てドラゴンだと思っていいわ」
「そうか。なのにアイツ、一人で無駄死にしやがって……!」

 そんなユーリスが奈落の溶岩流に消えたので再び呼び出す。
 それで気を取り直し、俺もダウゼンとウィシュカが選び乗った石床へと続いた。

『ユーリスは倒れた』
「もう呼び出さなくてもいい?」
「呼んでおいても問題はありませぬが、気分に任せます」
「完全に空気扱いだな」

 まぁ正直、俺でも割とギリギリだけども。
 石床もほぼ止まらずに動き続けているからな。
 速度を落とさずに反転・往復するから飛び乗るのがすごく怖い。

 慣性を無視する所はファンタジーっぽいやら、バグっぽいやら。

「翔助殿、こちらへ!」
「よし! つぉあッ!」
「掴まえたわ! せぇいっ!」

 ただ多少は失敗しても平気そう。
 足が少し届かなくても、ダウゼンとウィシュカが掴んで引っ張り上げてくれるんだ。
 こういう協力プレイがあるのはアクションの弱い俺的にとても助かる。

 こんな感じで石床を三つほど乗り越え、ようやく固定床へ。
 それでふと床下を覗くと、既に一階層がぼんやりとしていた。
 もうだいぶ高い所に到達していた様だ。

「ここはまだまだ序の口ですぞ」
「これから先はどんどんと難易度が上がっていくわ。注意して」

 それでもまだ二層目に過ぎない。
 上を見上げれば果てしないほど高い景色が見える。
 奥の石床の動きも明らかにおかしく、縦回転したり、バレルロールしたり。

 あんな動き、ゲームでも見た事ねぇよ!!
 あんなのに一体どうやって乗れって言うんだ!?

「なんで皆、ここまで詳しいんだ……?」
「このダンジョンは難易度が高いから、修練の時に専用の訓練を受けさせられるのよ」
「最上階までの攻略までしっかり叩き込まれましたぞ。最速攻略を目指して!」
「ここだけ無駄に力入ってない!?」

 けど仲間達にとっては、それらの対策も全て熟知済みらしい。
 かつての勇者や祖先が積み重ねた攻略法を習得した事によって。
 そう至るまでにどれだけの犠牲が出たかは予想も付かないが。

「例えば次のステップですが、動く石床を使うと回り道過ぎてリスクが高く危険でする。ですので道を変え、あの遠くの固定床へ一気に行くのです」
「そこでまずユーリスを呼び出して――放り投げるわ」
「いきなりえげつない攻略法きた」

 そんな攻略法に従い、ウィシュカがその固定床へと向けてユーリスを放り投げる。
 そして空かさず走り飛び、ユーリスの顔を踏みつけて空高く跳ね上がった。

 その姿は美しく、迷い無く。
 マゲを備えたスモウレスラー美女が今、目的地へと舞い降りる。

「さすがですな。ウィシュカの一族は特にこのダンジョンで活躍すると聞きますし」
「でもユーリスの一族に恨まれたりしてない?」
「問題ありませぬ。踏まれた事を認識しないまま倒れますゆえ」
「いや、色々と問題だろう。罪悪感とか」
『ユーリスは倒れた』

 更にはウィシュカが石を括りつけたロープを振り回し、こちらへ投げ付けていて。
 空かさずダウゼンが片手で掴み取り、更には俺の腕をも掴み取る。

「なに――おおッ!?」

 するとその途端、俺達の身体が宙に跳ね飛んだ。
 ロープが凄まじい力で引かれた事によって。

 なんとウィシュカが更に先の動く石床へと移り、ロープを端に引っかけていたのだ。
 石床の動きを利用して俺達を牽引したのである。

 これがプロフェッショナルの仕事かよ……!

「翔助殿、ロープを掴んでくだされッ!」
「えっ!? わ、わかったあッ!」

 しかも今度はダウゼンが俺にロープを掴ませてくれて。
 その途端、固定床を滑りながらも俺を抱え上げる。

「ぬぅおりゃあああーーーッッッ!!!!!」
「うっおおおッッッ!!?」

 で、その勢いのままに、俺をウィシュカの下まで放り投げた。
 己がそのまま奈落へと落ちる事をも恐れずに。

「狼狽えてる暇は無いわッ! 飛ぶわよッ!」
「なんッだってえッ!!!」

 それでも止まらない。
 ウィシュカが俺の腕を引き、共に今の石床上をまた跳ね飛んだ。
 直後、石床は反転し、視界からスッと消えた。

 ギリギリだ。
 だが最良のタイミングでもある。
 石床の勢いを利用し、更なるショートカットを狙うのに丁度良いほど。
 ここまで計算尽くしているのかよ!?

 だが――

「クッ! 勢いが足りないッ!」
「なんだってぇ!?」

 僅かに届かない。
 先の固定床はまだ遠いのに、失速し始めていて。
 俺が一瞬躊躇したせいで跳ねる力が足りなかったんだ。

 このままでは二人揃って奈落へ、ゲームオーバーになっちまう!!

「こンのおおおーーーッッッ!!!!!」

 そう思った矢先、ウィシュカが身をよじらせた。
 これでもかという程に、ロープごと腕と体を引き込んで。

 そして突如、逆回転。
 まるで駒の如く高速で回り始めたのだ。

 それも俺ごと回す程に強く激しく。

「いっけぇぇぇーーーッ!!」

 その回転力が遂には俺を跳ね上げた。
 強く激しく、届かなかったはずの固定床まで届かせる程に高く。

「ぐぅあッ!?」

 床上に転がる俺。
 落ちていくウィシュカ。

 彼女は俺の為に自らを犠牲にしたのだ。
 最速を選ぶがゆえに、これが最良と判断して。
 全ては勇者の為にと。

 これをどうして憤らずにいられようか。

「……ぐッ、ふっざけんなあッ!! 俺は、俺はそんなの絶対に認めねぇぞォォォ!!!」

 例え残機があろうとも。
 例え重要な目的があろうとも。
 自分の身代わりとなった者を見て、いい気持ちになんてなれるはずがない。

 ゆえに憤ったのだ。
 己の不甲斐なさを許せなくて。
 こんなミスを犯した事が悔しくて。

 ――だからこそ俺は、手に掴んだロープを力の限りに引っ張り上げていた。

「やるじゃない、翔助……!」
「タイトルホルダー狙うんだろ? だったらこんな所で殺してられないよな……!」
「フフッ、なら一歩近づいたわね。ここで私が死ぬのはお決まりだったんだから」

 仲間達の犠牲を目の当たりにして、ようやく俺にも火が付いた様だ。
 だからといってこれ以上役に立つかどうかはわからないけどな。

 でもやるなら、とことんやってやる。
 言っとくが俺は、ハマるとのめり込むタイプなんでな……!



 と、こうして気合いが入った訳だけど。
 その直後、ウィシュカは引き上げられようとした所で砲弾に撃ち抜かれた。
 
 この塔、クッソ容赦ねぇ……!
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