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第36話 裸の付き合い(ただしエロではない)

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「いやーっはっは、参りましたな。まさか街一つが崩壊する事になるとは」
「笑いごとじゃないけど、もう笑うしか無いよな、はは……」

 ウィシュカ・セディナウテス事件から数時間後。
 辛うじて助かった俺は今、仲間達と共に海岸の砂浜へと座り込んでいた。
 夕日に向けて途方に暮れながら。

 それも、全員全裸で。

 俺とウィシュカは事件当時のまま。
 ダウゼンは浴場で入浴中に事件と遭遇。
 ユーリスは全裸で寝ていた所に巻き込まれて。

 おまけに所持品は全て海の藻屑に。
 買う所も人も全て沈んだので、着る物が一切無い状態なんだ。

 幸い、ビジュアルに関係無いドリルだけは付けたまま。
 だから冒険に支障は無いものの、「裸は不味いよなぁ」って呆けていた所だ。
 運よく衣服が打ち上げられる事を祈って。

「ごめんなさい、ほんッとごめんなさい……」
「気にするなよ、みんな無事だったしさ」
「そうですぞ。街の一つや二つ崩壊する事など、よくある事です」
「所で翔助様、なんで裸――」
「よし! こうなったら最初の街に戻って装備を整え直そう! 転送魔法だ!」

 ただ、そういう期待は出来なさそう。
 なのでさっさと転送魔法で移動したい所なんだが。

 ユーリスが俺とウィシュカから視線を離そうとしてくれない。

 ずっと疑いの目を向けて来るんだよ。
 二人の間に一体何があったんだって目力で訴えて来るんだよ。
 それで魔法を頼んでも一向に使ってくれそうもないんだ。

「そうですな、第九の街までは歩いて四日ほどかかりますゆえ。その間ずっと全裸という訳にもいきますまい」
「そんなにかかるのか! じゃあ転送魔法必須だな!」
「それは置いといて翔助様、なんで裸――」
「そうねー! いつまでも服が打ち上がるのを待っていられないものねー!」

 ユーリスとの事も喋っていないから、ウィシュカとの事も黙っておくつもりだった。
 けどそれが逆に火を付ける原因となってしまったらしい。

 ちぃ! 勘のいい娘はこれだからッ!!

 敢えてまた言っておくが、どっちもあの流れになった理由は知らない。
 突然スイッチが切り替わったかの様に、気付いたら宿ラブホにいたんだ。
 それはユーリスだってウィシュカだって気付いているはず。

 だからユーリス、お前だけが特別なんじゃないぞォォォ!!

 そんな女の子の扱いに悩んだ挙句、バリバリと頭を掻きむしる。
 この面倒臭い状況を打開できる術が思い付かなくて。

「フハハハ!! 勇者ショウスよ、一向に来ないからこちらから来てやったぞ!」
「うわぁ! こんな時に限ってもっと面倒臭い奴がきやがった!!」

 しかも状況を更に泥沼化させるイベントまでが発生した。
 邪神王子ギュリウスが飛んでやってきたんだ。

 クッソ面倒くせぇぇぇい!!!!!

「さぁ我と戦え――って、なんでお前ら揃って全裸なんだよ!?」
「知らん。神獣セディナウテスに聞いてくれ」

 もはや構う事さえしんどい。
 なので適当にあしらって、希望の見えない波打ち際を再び眺め始めた。

「もしかして、またそういうやり過ごし方なの? そろそろ泣くよ我?」
「俺達の今の気持ちを察する事が出来ないなら、それでもいいんじゃない?」
「そういう小難しい事ばかり言わないでさー戦おうよーねーえー」
「武器もねぇんだわ」
「OH……」

 なんたって現実は非情だからな。
 勇者の証も無い今、インベントリさえ開けないんだから。
 仕様が助けてくれればいいんだけど、こういう時に限って役に立ちはしない。

 そこでとシスメさんになんとか頼み込もうと思ったんだけどね。
 まさか彼女まで消えるとは思わなかったよ。

 それでこうやって途方に暮れるしかないって訳だ。





 それから半刻ほどが過ぎた。
 相変わらず状況は変わっていない。

 ただ一つ変わっている所があるとすれば、ギュリウスも全裸になっていた事か。

「どうしてそうなった」
「だって我、お前等の気持ちを知りたいと思って」
「着ていた装備は?」
「火炎魔法で燃やした」
「徹底してんなー」

 けど俺達と違って、変に恥じらいを感じるけどな。
 腕で胸と股間を隠したままで。
 確かに、鎧の中は思っていたよりずっと細いし恥ずかしいのはわかる。
 しかし全てを失った俺達と違い、そこまで徹底する事は出来なかった様だ。

 率先して全裸になってくれた勇気は勇者並み――いや、それ以上あると思うけどな。

「困った事があったら我、相談に乗るよ?」
「お前、本当はいい奴だったんだな。気持ちは嬉しいよ。けどそれは服を燃やす前に言って欲しかった」
「そうか、また我は暴走してしまったのだな。よく部下に怒られるのだ。『王子はアホなのだから自重してください』と」
(やはりアホだったんだな)
(にしても部下にまで言われるコイツって一体)

 それ以上にアホだった説が濃厚だが。
 考え無しに動き回るのはもはや敵味方周知の事実だったらしい。

 とはいえ、今だけはなんとなく擁護したい気持ちではあるけども。

 ……にしてもなんだか妙に色っぽいな。
 これが女ならわかるが、男なのだからけしからん
 男、特に王子なら堂々とするべきだと思えてしょうがない。

「その暴走を直せるかはわからんが、堂々としていろとは思う。せめて今くらいは裸くらい晒したって恥ずかしくなんかないぞ。全員そうだからな」
「勇者ショウス……そうか。我は少しお前を見直した。よし、勇気を出してみよう」

 で、せっかくだからと諭してみたんだが。
 その時、俺達は想像もしえない光景を目の当たりにする。

 股間がフラットだった。
 あとついでに言えば、胸もフラットだった。

 邪神王子、お前女だったのかよォォォォォ!!!!!

「すまない、なんかすまない……ッ!」
「気にするな。我は今とても清々しい。お前の言う通りに出来た事がとても誇らしいぞ! フハハハ!」

 いや、普通気付かねぇだろ!
 だって王子だし!? 名前ギュリウスだし!?
 どう考えても娘要素ゼロじゃねぇかァァァ!!!
 後付けにも程があるだろォォォォォォ!!!??

 そんな娘が今度は股間を開いたまま立ち上がり、無い胸を張って高笑いだ。
 やめて、それ以上自分の価値を貶めるのはやめて!!!

 アホの子練度がレベルアップしちゃう!!!!!

「一つ訊いていい?」
「なんだ? 言ってみろ!」
「なんで邪神王子なの? なんでギュリウスなの?」
「我のポジは代々王子なのだ。性別容姿に関係無く邪神王子ギュリウスと名乗るのが使命! どうだ、格好良かろう!?」
「うん、そだねー」

 あと、堂々としろと言ったこっちが恥ずかしくなるくらい無防備だコイツ。
 俺はもしかして、変な扉を開かせてしまったのだろうか。

 そう思うとなんだか罪悪感を感じてならないよ。

「よし決めた。我はお前達の気持ちを知る為に共に行く事にする」
「だからどうしてそうなる」
「わからん! でもそういう気持ちになったのだ! きっとこれが裸の付き合いという奴なのだな!」
「そういう事にしておこう(これ多分断っても付いてくるやつだー……)」

 しかも勝手に仲間に入りやがりました。
 シスメさんの声は聴こえないけど、そういうログが出てきそうだよ。

 ま、敗けバトル展開され続けるよりはずっとマシだけどな。



 そんな訳で、なし崩し的に五人目の仲間が加わった。
 その名も邪神王子ギュリウス(♀)。

 なんとなく、いつかこうなるんじゃないかって思ってもいたけれども。
 まさかこんな形で実現するとは思っても見なかったよ。
 しかも驚愕のヒロイン枠でな。

 アホの子だが、これも扱い慣れれば平気だろう。
 ユーリスが二人になったと思えば苦ではない。

 だがその分、実力は申し分ないはずだ。
 伊達に俺達を苦戦させる為に用意された存在キャラじゃないだろうからな!



 ――と思っていたがこの後、ギュリウスは通りがかりの魔物に即殺された。
 レベル1に戻って、かつドリル未装備だったがゆえの悲しい事故である。
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