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第八話

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「そんな訳で以上です」

 ちょちょ……短ッ!!
 待ってくださいよディレクタァァァァァァ!!!!

 たった三〇九文字分の異世界体験記って。
 これは幾ら何でも酷過ぎません!?
 確かに『最速異世界転移』って題目が資料表紙に書いてありますけどォォォ!!

 想像を絶し過ぎて冷静さ保っていられる自信無いんですけど!?

「リアルタイムで換算すると大体一.四秒くらいですね、異世界に滞在出来たのは。最速なんじゃないですか? これだけ短い時間の滞在って」

 さ、さすがですねプロ候補ゲーマー、コンマ秒も算出出来るとは。

 にしてももう一体何が起きていたのか、話からでは全く推測出来ません。
 これは是非とも説明して頂かねば……。

「多分勘の良い方や体験者ならすぐわかるんじゃないですかね。要はヘッドショット喰らったんですよ。見事に開幕一撃死って奴です」

 へっどしょっと……あー!

「そう、俺の行った世界は対戦型FPSころしあいの世界だったんですよ。それもトップランカーがゴロゴロいる様な超高難易度の。一分一秒油断したら死ぬ世界ですね。しかも再配置リスポーン無しという」

 それはまたえらいハード世界モードなことで。

「えぇ、新世界って何の事かと考えちゃったのがマズかったんですよ。それでダッキングかがむの忘れて。雰囲気感じ取れればすぐ反応出来た筈なんですけどねーダメでした。瞬殺でしたわ」
 
 もう完全に一秒以下の世界ですよね。
 お話だけでプロの厳しさをひしひしと感じてしまいます。

 異世界に飛んだ瞬間からもう戦いが始まってるとか厳し過ぎでしょう。
 今までに色々紹介してきましたけど、これはこれでなかなかキツい。

「多分現地入りにも誤差があったんだと思います。俺はその中でも遅い方で、だから説明とかも受けられずに死んじゃった感じ。んでもって起きたら五年後ですよ。何しに異世界に飛んだの? っていう」

 寝耳に水どころか放水車のジェット水流喰らってますね。ウワーッ!って。

「おまけに事情聴くと、なんか他のプロ選手とかも皆同じ様に昏睡状態になってたっていうじゃないですか。皆、俺と同じ時期に起きたみたいですけど。そこで気付きましたね、皆同じ異世界に行って、皆で殺し合ってたんだって」

 始まって五年後にきっと戦いが終わったんでしょうね。
 それで魂が全部帰って来たのだと。

 命を無駄にしない所は優しさを感じますが、転行そのものには容赦無いですね。
 まさしくデスゲームさながらというか。

「あ、でも一位になったって奴だけは帰ってこなかったですね。体験者で一度集まった機会があったんですけど、二位の奴がそう零してました。『一位の奴はまだ起きてない。俺を倒したっていうのに、クソッ!』なんて」

 それ、見る限りではかっこいいですけど。
 でも網野さん側から見るとなんか印象違いますね。

「だよね。こちとら順位争いにすら入れなかった雑魚だし。モブというか撃墜数の足し扱いみたいな。そんな扱いしたお前等の自己満足に付き合わせるなと」

 これが協力ゲームならまだわかるんですけどねー。 

「他の奴もそうさ。おかげ様で被害者にはPTSDで引き籠った奴も多かったよ。『モブ原人め、死ねぇぇぇ!!』なんて罵倒されて容赦無くキルされる事もザラだったみたいだから。すげえ痛いし。そりゃ異世界転行したからって主人公になれる訳無いもんね。期待してただろうし、落ち込みも酷そう」

 それ聞くと、なんか網野さんの境遇がむしろ救いなんじゃないかって思えてきました。
 ガチ勢きっつい。(笑)

 しかしまさにその通りです。
 異世界転行出来たからといって主人公になれるとは限らないのだと。

 どうやら網野さんは主人公では無くモブ扱いとして転移させられた様です。
 恐らく主人公は一位の方で、その引き立て役として呼ばれたのかもしれません。
 帰ってこれない理由はわかりませんが、きっと今頃異世界か神の御許でヨロシクしているのでしょう。

 世界的には失敗しているかどうかはわかりませんけど、呼ばれた方は堪りませんよね。
 多分何人も同様の方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。

「うん、世界中のFPS上位ランカーから三〇〇人呼んだらしいんで、相応に多いですね」

 さんびゃく……多過ぎィ!!
 今までになかなか例の無い人数ですよそれは!

 そしてその大半がモブとして消された訳ですか。悲惨過ぎます。

「真面目な話として悲惨ですよね。現代じゃ昏睡原因もわからない訳ですし。その所為でフルダイブVRは使用禁止になって、今では全て禁制品扱いですよ。加えて、意識をバーチャル世界に移行する技術は開発すら禁止になりました」

 そりゃもう、そんな人数が同時に昏睡状態になったら禁止もされますよー。
 これは神様の采配にちょっと不備を感じざるをえません。

 大規模にしたかったんでしょうけど、人間側の都合も少しは考えないと。
 確かに似た境遇の世界はありますけども!

 それ、どうしてデスマッチゲームで再現しようと思ったのー!?

「しかもその中でトップは五年間も戦い続けてるんですからね、ハッキリ言うと根性凄まじ過ぎだろって。さすがにこの界隈に入ろうとは思えなかったですね。なのでこの一件から私はきっぱりとゲーマー卒業しました。今ではちょろっと遊ぶくらいです」

 えぇ、ゲームは暇潰しくらいでも全然楽しめますから。
 それに、のめり込み過ぎると何かを犠牲にしかねません。
 なので丁度良い機会だったのかもしれませんね。

 ゲームはせめて一日八時間、休憩一時間にしておきましょう。

「それ、パプリエルさんのプレイ時間でしょ(笑)」



 転移・転生に拘らず、この様な境遇は決して稀ではありません。
 成功どころかスポットさえ浴びない事もあるのです。
 そう、今回の網野さんの様に完モブとして喚ばれるなどで。

 となれば活躍どころか「お前いたんだ?」的な扱いさえされかねません。

 その原因となるのはやはり多人数召喚。
 スポットを浴びせない人物までをも喚んでしまう恐ろしい行為です。
 しかもただのモブ扱いだけならまだ良いのですが。
 時には途端に極悪人へと豹変させ、主人公の標的にさせる事も多いのだとか。

 なので「いやいや、現代から来たんですからある程度の倫理観くらいはありますって。だったら蔑む相手は主人公よりまず異世界人じゃありません? まずは客観的に見ませんか不遇装備とかいう見えない根拠を信じる前にィ!」なんて思われる事もザラでしょう。

 しかしこれ、実は創造神の仕組んだ事だったりします。

 それというのも、転行システム内にはとある機能がありまして。
 なんと転行者の倫理観を消去、悪意を増大させる精神変質機能という物が。

 これを我々は通称【パワーSS当てウマシステム】と呼んでいます。
 多少は使用を許されていますが、やり過ぎると今回の様に多大な被害が生まれてしまうもの。
 なので創造神には注意して扱って頂きたい所ですね。
 恐怖! ご利用は計画的に。

 こう言った様に転行には多くの罠が存在します。
 これらを掻い潜れるのは相応に類稀なる強運の持ち主か、あるいは実力者だけです。
 それ以外は恐らく引き立て役にしかならないでしょう。

 ですが、モブと呼ばれる人々にも命があり、生活しています。
 モブという言葉では片付けられない程の生き様を持って。

 そんな人々を無碍にするのはとても悲しい事です。

 ならせめてスポットを当てるべき人物としてもっとフォーカスしませんか?
 普通の被害者の様な人物をただ悪戯に増やすのではなく。

 どこまで彼等の命を大事に扱えるか。
 その采配にそ、世界の価値を引き上げる秘訣が隠されているかもしれませんよ。

 少なくとも、弾丸一発よりもずっと重みある価値のものがきっと。

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