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第四章
第41話 失策続きのバーギュ・オムレス (第三者視点)
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領主バーギュ・オムレスは執務室であいかわらず筆を走らせていた。
だが以前と違ってとても不機嫌そうに、苛立ちを隠せないままに。
そんな彼の机にはいつも以上の書類が溜まっている。
その多くは以前と同じ開拓資材などの申請書などだ。
ただその中には市民の政務是正依頼などの書類も数知れず紛れている。
それというのも、ここ最近のリーベルトの町はかなり荒れている。
原因は無茶な開拓計画によって繰り返される突貫作業と仕様変更の嵐。
それに加えて魔物の襲撃の頻度からなる予定の遅延。
多くの作業員や冒険者、憲兵を投入してもなおその問題は未だ解決していない。
おかげでこの二週間、ほとんど進展無し。
加えてあのチャージングラビットが残党を集めてまた縄張りを広げようとする兆候が見られるというのだから泥沼化は必然となる。
これではもはや魔物の進軍を待っているのと同義。
遅々として進まない開拓計画に、動員させられるハメとなった町の人々の不満と悲鳴が噴出しているのだ。
そして市民が怒っている理由は何もそれだけでは無かった。
「バーギュ様、経過報告に参りました!」
「うむ、入れ」
側近の兵士が一人、小さな箱を抱えてバーギュの下を尋ねてくる。
するとバーギュは彼を招き入れたと共にすぐさま右手をスッと差し出した。
「出来たか?」
「はっ! 今度こそはと工房班から伺っております」
すぐさま箱を受け取るバーギュ。
もはや遠慮もせずに黒塗りの箱の止め金具を「パチリ、パチリ」と外していく。
そんな様子を兵士は緊張で固まったまま見つめていて。
箱の蓋が開かれた時、バーギュは思わず目を見開いた。
「こ、これは……」
「如何でしょう? 今度はもう商品に――」
「……ふざけるな」
「えっ?」
「ふざけるなと言った! これのどこが完成だと言うのだ愚か者めが!」
そして激昂。
あまりの怒りに手が震え、蓋が手から零れて床へと落ちる。
しかし全く意に介さない。それほどまでにバーギュは怒り狂っていた。
「私は言ったはずだ! あの黄金像と! 同じ物を! 作れと!」
「は、はい!」
「だがこれはなんだ!? 私を馬鹿にしておるのか!? これが黄金像だと本気で言っているのかあああ!!!??」
「ううッ!?」
「こんなものは黄金の女神像などではなぁい! どう見てもクソにまみれた醜女像ではないか! 貴様はこんな汚物が欲しいかあ!? どうなんだ!? 言ってみろお!!?」
「い、いえ……」
「ぁあ!? ならなぜこんな物を持って来させたあああ!!!!!!!!!」
遂には怒りが頂点に達し、像を手に取ると兵士へと投げつける。
像は兵士の鎧に当たって跳ね、ついには床へと落ち、バカリと半分に割れた。
丈夫さだけは本物よりもあったようだ。
ただし像自体は実に酷い出来栄えだった。
粘土を型にしっかりと仕込んでいないが故に、形状は至る所が不完全。
焼き方もまるで足らず、割れた中から粘土が崩れて出てくる。
塗装に至っては金色の発色にすら至れずに茶色となってしまっている。
その結果、とても美しいとは言えない女のような何かが祈っている像が出来上がってしまった。
この出来栄えにはバーギュが怒り狂ってしまうのもいざ仕方がない。
「……やはりあの流民たちをすぐに追い出したのは失敗だったのではなかったのでしょうか」
しかしその責任の所在は、当然ながらバーギュにあると言っても過言ではない。
そのことをわかっているからこそ、兵士はついこう零してしまった。
彼も恐らくこの数日で相当に鬱憤が溜まっているのだろう。
なにせ工房が造った物を運ぶだけでここまで言われなくてはならないのだから。
しかも毎度と、あまりにも理不尽な仕打ちだ。
市民もまたこういった理不尽さをどこかで受けているからこそ不満を上げている。
これは明らかにバーギュの失策の結果でもあったのだ。
「う、うるさい! そもそもなぜ流民に出来て正規市民に出来ない!? 正規市民ならば奴らが出来ることも出来て当然であろうが!」
「そ、そんなことはありません! 流民とて技術を持てばそれは立派な職人です! 正規市民とてその領域に至るには修行や教育が必要となりましょう! それなのに技術を持たない者に任せて出来るなどと……」
「ならば今すぐ技術を学べ! 作れるよう努力してみせよ!」
「でしたらバーギュ様がやってはどうです!? それと同等なのですよ!」
「貴様……この私に盾突くかぁ!?」
「ええもうこの際だから言わせて頂きます! 工房も市民ももう限界なんですよ!」
「ぬ、ぬう!?」
もうこうなれば兵士も止まらない。
相手が貴族だろうが、横暴に次ぐ横暴にもはや我慢ならなかったのだ。
彼もまた一市民であり、町の人間たちの事情もよく知るからこそ。
何より、元流民区の惨状があまりにも酷すぎて。
「居住区はまだいいのです! ですが工房は以前にも報告があった通り、一部装置が未完成とも言える状態でロクに動きません! 像の成型方法もわかりませんし、塗料の合成比率もわかりません! 塗布方法も特殊なようで知識が無いとまず無理なんですよ!」
「ううう!?」
「それだけではありません! 浄水システムもまた未完成状態だったと説明したはずです! 装置の中には浄水システム自体が無いんですよ! おかげで今、あの工房は地獄と化していますよ!」
「うぐっ!? で、ではスキルか何かで代用を――」
「そんな便利なスキルなんて存在するんですか!? そんな夢みたいなことで言い訳しないでください! あなたも兵として名を上げた一人でしょう!?」
もはや完全論破である。
バーギュは兵士に完全に言い負かされ、もう何も言い返せない。
「おかげで今、工房の人間は耐えがたい汚臭に我慢できず、撤収準備さえ始めています」
「撤収だと!? どこへ行こうと――」
「国に帰ると。もともと開発計画の増員でやって来た者達ですからね、彼らは!」
「あ、うう……」
「他の増員でやって来た者達も不満を次々に上げています。その現実をしっかり受け止めてください。それでもなお私を処分するというのでしたら、どうぞお好きになさってくださってかまいません。私も国に帰らさせて頂きますゆえ」
兵士も多く悩みを抱えていたに違いない。
バーギュからの圧力もさることながら、市民たちの声にも応えようとして必死で。
でももう限界だったのだ。
失策に次ぐ失策。
魔物への対処の遅さ。
そしてピクトら流民を手放したことによる技術損失と圧倒的戦力不足。
それら失敗が重なり続けた今、もはやリーベルトに開発計画を進める力は無い。
「う、うぐぐ……!」
もちろんバーギュもそこまで間抜けという訳ではなく、心のどこかでは理解していた。
自分のしでかしたことがどれだけ重かったのかに気付かなかっただけで。
しかし今、ようやく理解させられる。
言い返すことも出来ないほどに現実を突きつけられたことによって。
故に、バーギュには兵士が去るのを引き留めることさえも出来なかった。
ただ悔しさの余りに拳を握り、怒りを噛み締めることしか叶わなかったのだ。
――だが。
「た、大変ですバーギュ様!」
今しがた去っていったはずの兵士が急に戻ってくる。
それもなぜか慌てながらに声を荒げて。
「奴が……あ、あのピクト・グラムが訪ねてきました! この、屋敷に!」
そしてこの時、バーギュはただ唖然とするしかなかったのだ。
それは単に、「なぜ追放したはずの流民が自身の敷地にまで来られているのか?」という疑問を抱いたからこそ。
突如現れたピクトの意図は。
彼との再会にバーギュはどう動くのか。
二人の思惑が今、再び交錯しようとしていた。
だが以前と違ってとても不機嫌そうに、苛立ちを隠せないままに。
そんな彼の机にはいつも以上の書類が溜まっている。
その多くは以前と同じ開拓資材などの申請書などだ。
ただその中には市民の政務是正依頼などの書類も数知れず紛れている。
それというのも、ここ最近のリーベルトの町はかなり荒れている。
原因は無茶な開拓計画によって繰り返される突貫作業と仕様変更の嵐。
それに加えて魔物の襲撃の頻度からなる予定の遅延。
多くの作業員や冒険者、憲兵を投入してもなおその問題は未だ解決していない。
おかげでこの二週間、ほとんど進展無し。
加えてあのチャージングラビットが残党を集めてまた縄張りを広げようとする兆候が見られるというのだから泥沼化は必然となる。
これではもはや魔物の進軍を待っているのと同義。
遅々として進まない開拓計画に、動員させられるハメとなった町の人々の不満と悲鳴が噴出しているのだ。
そして市民が怒っている理由は何もそれだけでは無かった。
「バーギュ様、経過報告に参りました!」
「うむ、入れ」
側近の兵士が一人、小さな箱を抱えてバーギュの下を尋ねてくる。
するとバーギュは彼を招き入れたと共にすぐさま右手をスッと差し出した。
「出来たか?」
「はっ! 今度こそはと工房班から伺っております」
すぐさま箱を受け取るバーギュ。
もはや遠慮もせずに黒塗りの箱の止め金具を「パチリ、パチリ」と外していく。
そんな様子を兵士は緊張で固まったまま見つめていて。
箱の蓋が開かれた時、バーギュは思わず目を見開いた。
「こ、これは……」
「如何でしょう? 今度はもう商品に――」
「……ふざけるな」
「えっ?」
「ふざけるなと言った! これのどこが完成だと言うのだ愚か者めが!」
そして激昂。
あまりの怒りに手が震え、蓋が手から零れて床へと落ちる。
しかし全く意に介さない。それほどまでにバーギュは怒り狂っていた。
「私は言ったはずだ! あの黄金像と! 同じ物を! 作れと!」
「は、はい!」
「だがこれはなんだ!? 私を馬鹿にしておるのか!? これが黄金像だと本気で言っているのかあああ!!!??」
「ううッ!?」
「こんなものは黄金の女神像などではなぁい! どう見てもクソにまみれた醜女像ではないか! 貴様はこんな汚物が欲しいかあ!? どうなんだ!? 言ってみろお!!?」
「い、いえ……」
「ぁあ!? ならなぜこんな物を持って来させたあああ!!!!!!!!!」
遂には怒りが頂点に達し、像を手に取ると兵士へと投げつける。
像は兵士の鎧に当たって跳ね、ついには床へと落ち、バカリと半分に割れた。
丈夫さだけは本物よりもあったようだ。
ただし像自体は実に酷い出来栄えだった。
粘土を型にしっかりと仕込んでいないが故に、形状は至る所が不完全。
焼き方もまるで足らず、割れた中から粘土が崩れて出てくる。
塗装に至っては金色の発色にすら至れずに茶色となってしまっている。
その結果、とても美しいとは言えない女のような何かが祈っている像が出来上がってしまった。
この出来栄えにはバーギュが怒り狂ってしまうのもいざ仕方がない。
「……やはりあの流民たちをすぐに追い出したのは失敗だったのではなかったのでしょうか」
しかしその責任の所在は、当然ながらバーギュにあると言っても過言ではない。
そのことをわかっているからこそ、兵士はついこう零してしまった。
彼も恐らくこの数日で相当に鬱憤が溜まっているのだろう。
なにせ工房が造った物を運ぶだけでここまで言われなくてはならないのだから。
しかも毎度と、あまりにも理不尽な仕打ちだ。
市民もまたこういった理不尽さをどこかで受けているからこそ不満を上げている。
これは明らかにバーギュの失策の結果でもあったのだ。
「う、うるさい! そもそもなぜ流民に出来て正規市民に出来ない!? 正規市民ならば奴らが出来ることも出来て当然であろうが!」
「そ、そんなことはありません! 流民とて技術を持てばそれは立派な職人です! 正規市民とてその領域に至るには修行や教育が必要となりましょう! それなのに技術を持たない者に任せて出来るなどと……」
「ならば今すぐ技術を学べ! 作れるよう努力してみせよ!」
「でしたらバーギュ様がやってはどうです!? それと同等なのですよ!」
「貴様……この私に盾突くかぁ!?」
「ええもうこの際だから言わせて頂きます! 工房も市民ももう限界なんですよ!」
「ぬ、ぬう!?」
もうこうなれば兵士も止まらない。
相手が貴族だろうが、横暴に次ぐ横暴にもはや我慢ならなかったのだ。
彼もまた一市民であり、町の人間たちの事情もよく知るからこそ。
何より、元流民区の惨状があまりにも酷すぎて。
「居住区はまだいいのです! ですが工房は以前にも報告があった通り、一部装置が未完成とも言える状態でロクに動きません! 像の成型方法もわかりませんし、塗料の合成比率もわかりません! 塗布方法も特殊なようで知識が無いとまず無理なんですよ!」
「ううう!?」
「それだけではありません! 浄水システムもまた未完成状態だったと説明したはずです! 装置の中には浄水システム自体が無いんですよ! おかげで今、あの工房は地獄と化していますよ!」
「うぐっ!? で、ではスキルか何かで代用を――」
「そんな便利なスキルなんて存在するんですか!? そんな夢みたいなことで言い訳しないでください! あなたも兵として名を上げた一人でしょう!?」
もはや完全論破である。
バーギュは兵士に完全に言い負かされ、もう何も言い返せない。
「おかげで今、工房の人間は耐えがたい汚臭に我慢できず、撤収準備さえ始めています」
「撤収だと!? どこへ行こうと――」
「国に帰ると。もともと開発計画の増員でやって来た者達ですからね、彼らは!」
「あ、うう……」
「他の増員でやって来た者達も不満を次々に上げています。その現実をしっかり受け止めてください。それでもなお私を処分するというのでしたら、どうぞお好きになさってくださってかまいません。私も国に帰らさせて頂きますゆえ」
兵士も多く悩みを抱えていたに違いない。
バーギュからの圧力もさることながら、市民たちの声にも応えようとして必死で。
でももう限界だったのだ。
失策に次ぐ失策。
魔物への対処の遅さ。
そしてピクトら流民を手放したことによる技術損失と圧倒的戦力不足。
それら失敗が重なり続けた今、もはやリーベルトに開発計画を進める力は無い。
「う、うぐぐ……!」
もちろんバーギュもそこまで間抜けという訳ではなく、心のどこかでは理解していた。
自分のしでかしたことがどれだけ重かったのかに気付かなかっただけで。
しかし今、ようやく理解させられる。
言い返すことも出来ないほどに現実を突きつけられたことによって。
故に、バーギュには兵士が去るのを引き留めることさえも出来なかった。
ただ悔しさの余りに拳を握り、怒りを噛み締めることしか叶わなかったのだ。
――だが。
「た、大変ですバーギュ様!」
今しがた去っていったはずの兵士が急に戻ってくる。
それもなぜか慌てながらに声を荒げて。
「奴が……あ、あのピクト・グラムが訪ねてきました! この、屋敷に!」
そしてこの時、バーギュはただ唖然とするしかなかったのだ。
それは単に、「なぜ追放したはずの流民が自身の敷地にまで来られているのか?」という疑問を抱いたからこそ。
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二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
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