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第一章
閑話 エンベンタリア、十二年前からの歴史
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事の始まりは曜星歴七二八年、その中頃の事でした。
突如として星外から巨大隕石が飛来、とある地方へと墜落。
余りの巨大さゆえに成層圏で燃え尽きず、地表へと到達しました。
本来、このサイズの隕石が落ちれば多量の粉塵が舞い上がり、世界が深い暗雲に覆われる事となります。
しかしこの隕石は地表に大きな影響を与える事も無く、減速しつつゆっくりと大地へ突き刺さったというのです。
すると直後、内部に潜んでいた漆黒の生物達が流出。
たちまち周辺地域の街や村を襲い始めました。
それを知った【エンベンタリア】の人々はこう噂します。
〝魔王が降臨し、魔物を魔界から呼び寄せた〟のだと。
以降、人は件の隕石を【魔王の卵】と呼び、恐れました。
そして世界各国が勇者や英雄を派遣し〝魔王討伐〟へと乗り出したのです。
しかしその頃、人は未だ剣と魔法を用いた戦いを主としていました。
時代が流れるにつれて変わったのは身の回りの道具や戦術のみ。
騎馬が魔導バイクになったり、魔法使いの炎弾砲撃が輸送機から行われるようになったという程度です。
勇者達もまた、高位強化魔法の備わった量産型聖剣や魔導鎧装を用いることで縦横無尽に駆け回れるというだけ。
そんな前時代的な装備では〝魔物〟と戦うのも容易ではありません。
おかげで勇者や英雄達でも一進一退を繰り返さざるをえませんでした。
それから隕石が落下しておよそ半年が過ぎた頃。
遂に勇者の一団が魔王の卵へと到達します。
しかし、その成果は大した事なかったそう。
隕石に残っていたのはたった数匹の魔物で、中はもぬけの殻だったとして。
そう、中に潜んでいた者達は既に解き放たれた後だったのです。
しかも最も強大な存在は地中へと潜り、存在さえ秘匿していて。
その事実にも気付かず、人類は歓喜していました。
勇者達が魔物を蹴散らし、魔王を討伐したなどと。
かの勇者達もまた偉業を成し遂げたと高らかに誇ったものです。
けれどその二年後、人類は思い知る事となります。
自分達が戦っていた物は所詮、大した事のない雑兵に過ぎなかったのだと。
ある日、村一つの村民が丸ごと消えて。
次に、ある国の首都が一夜にして消滅しました。
その事態に気付いた時、人は初めて【獣魔】という存在を認識したのです。
超巨大型獣魔・エイゼム級、その存在を目の当たりにする事によって。
当初、エイゼム級は一体のみとされていました。
そこからベベル以下が生み出され、国を襲っているのだと。
ゆえに多くの国がそのエイゼム級を討伐する為に出兵。
勇者や英雄までもがこぞって戦いに出向き、平和を勝ち取ろうと奔走します。
けれど、その結果は散々たるものでした。
獣魔の戦闘力は明らかに群を抜いており、人などではどうしようもなかったから。
勇者も英雄も、その圧倒的な力を前には無力。
全てが討ち死にし、世界はどんどんと絶望へ染まっていく事となります。
この時点で獣魔が来てから三年半が過ぎ去っていました。
その後、世界各国は獣魔を共通の敵と認定。
協力して戦う事で合意し、更には兵力の増強に注力を注ぎました。
来たるべき決戦に備え、独立兵器としてのゴーレムを量産して。
しかしそれも失敗でした。
恐るべき事に、ゴーレムでは獣魔に傷一つ付ける事が叶わなかったのです。
その原因は、ゴーレムが生物ではないから。
実は獣魔には不思議な特性がありました。
生物以外の攻撃をある程度無効化するという特殊能力が。
魂の放つ生命波動が攻撃に籠っていなければ通用しないのです。
そのせいでゴーレムの攻撃は弾かれてしまい、戦力として一切役に立たず。
当時その兵力に頼り切っていた人類は出鼻をくじかれ、後退を余儀なくされたのです。
よって獣魔が来てからおよそ五年で、十一の国が滅びました。
しかもその時より、獣魔が本格的な侵攻を開始する事に。
一体かと思われていたエイゼム級がなんと六体、同時に進撃を始めたのです。
その猛攻は凄まじく、人類はもはや抑える事だけで一杯一杯で。
更にはその間にも国が一つ二つと潰され、逆に敵は次々と増えていく。
そんな悪循環が人々の恐怖を煽り、多くの者を戦意喪失させてしまっていて。
遂には平民の中で自殺者が増える事態にまで発展。
そういったリスクのある者達を徴兵し、微々たる戦力として扱い始めるまでに。
人々の心はそれほどまでに荒み、疲弊していたのです。
そして来たるべき七年目、遂に獣魔が世界の半分を支配しました。
【没落の七星】と呼ばれた時代の到来です。
ですが、この不遇な俗称は一方で契機をも示しています。
人類が獣魔への反抗を開始した時代をも意味するのですから。
実は獣魔が本格的に侵攻を開始した頃、人類は一つの計画を練っていました。
獣魔とより効率的に、確実に戦える超兵士の製造計画を。
きっかけを作ったのはとある天才魔導科学者。
権威級でありながらも人の世に出てこなかった世捨て人です。
でも、そんな彼女も人類の危機を感じ取り、力を貸す事を決めました。
彼女もまた自分なりに世界を愛していたからこそ。
そうして生まれたのがあの転魂装置とヴァルフェルです。
獣魔到来五年目、ヴァルフェル試作一号完成。
テストパイロットはアールデュー=ヴェリオ。
ただし起動試験は失敗、暴走して科学者を三名殺傷。
その一年後、ヴァルフェル試作三号機完成。
テストパイロットは変わらず、起動試験は成功。
だが戦闘能力を持たせられず、即座に機能停止へ。
更にその一年後、ヴァルフェル試作六号機完成。
テストパイロットは変わらず、起動試験、実働試験共に成功。
この時点での転魂回数は二回と少ないが上々の成果とされました。
そして来たるべきセヴンスフォールズ終焉の時が来たのです。
ヴァルフェル実戦運用試験の開始によって。
当時のパイロットはアールデュー、ツィグ、レティネ他、他国精鋭合わせて五十名。
その成果は決定的で、獣魔の根城となっていた都市の奪還に成功。
ヴァルフェルの性能と効果を確立する戦いともなりました。
よって以降、試作六号を基に残存各国で共同製造戦線を確立。
ヴァルフェルを量産し、転魂対象者の育成に注力を注ぐ事に。
更には協定を結び、当兵器を対人戦争行為に使用しないと確約します。
その協定を機に、件の魔導科学者は再び世間から姿を消しました。
ただ、既に設計開発プランは軌道に乗っていたそうです。
彼女がいなくても発展が可能な状態にまで。
おかげで年月を置くごとに一度の転魂回数が増加。
ヴァルフェル自体も転魂者が間に合わなくなる程に増産されていきました。
そんな飽和戦力の投入は効果的で、各地の獣魔達の撃滅に次々と成功。
更にはエイゼムバスターカノンの開発により、エイゼム級の一撃撃破が可能に。
人類は獣魔を退ける手段を得て、遂に平和を夢見られる時代へ到達したのです。
そして現在、ようやく最後の獣魔が討伐されて。
人類はとうとう獣魔という脅威に打ち勝つ事が出来たのでした。
でも、人という生き物は常に争いを求めるもの。
例え脅威が過ぎ去ろうとも、平和を求めようとも。
むしろヴァルフェルという過度な武器だけが残ったからこそ、その闘争本能は更に刺激されてしまうのかもしれません。
そうして生まれた闘争本能は果たして、獣魔と何が違うのでしょうか……。
これは、そんな時代へと移り行く世界に身を投じた、人ならざる戦士の物語。
彼は一体何を見て、何を思い、生きていくのか。
もしかしたらその生き様は、生物としてより純粋な在り方なのかもしれません。
己を敬い過ぎた人類よりも、ずっと。
突如として星外から巨大隕石が飛来、とある地方へと墜落。
余りの巨大さゆえに成層圏で燃え尽きず、地表へと到達しました。
本来、このサイズの隕石が落ちれば多量の粉塵が舞い上がり、世界が深い暗雲に覆われる事となります。
しかしこの隕石は地表に大きな影響を与える事も無く、減速しつつゆっくりと大地へ突き刺さったというのです。
すると直後、内部に潜んでいた漆黒の生物達が流出。
たちまち周辺地域の街や村を襲い始めました。
それを知った【エンベンタリア】の人々はこう噂します。
〝魔王が降臨し、魔物を魔界から呼び寄せた〟のだと。
以降、人は件の隕石を【魔王の卵】と呼び、恐れました。
そして世界各国が勇者や英雄を派遣し〝魔王討伐〟へと乗り出したのです。
しかしその頃、人は未だ剣と魔法を用いた戦いを主としていました。
時代が流れるにつれて変わったのは身の回りの道具や戦術のみ。
騎馬が魔導バイクになったり、魔法使いの炎弾砲撃が輸送機から行われるようになったという程度です。
勇者達もまた、高位強化魔法の備わった量産型聖剣や魔導鎧装を用いることで縦横無尽に駆け回れるというだけ。
そんな前時代的な装備では〝魔物〟と戦うのも容易ではありません。
おかげで勇者や英雄達でも一進一退を繰り返さざるをえませんでした。
それから隕石が落下しておよそ半年が過ぎた頃。
遂に勇者の一団が魔王の卵へと到達します。
しかし、その成果は大した事なかったそう。
隕石に残っていたのはたった数匹の魔物で、中はもぬけの殻だったとして。
そう、中に潜んでいた者達は既に解き放たれた後だったのです。
しかも最も強大な存在は地中へと潜り、存在さえ秘匿していて。
その事実にも気付かず、人類は歓喜していました。
勇者達が魔物を蹴散らし、魔王を討伐したなどと。
かの勇者達もまた偉業を成し遂げたと高らかに誇ったものです。
けれどその二年後、人類は思い知る事となります。
自分達が戦っていた物は所詮、大した事のない雑兵に過ぎなかったのだと。
ある日、村一つの村民が丸ごと消えて。
次に、ある国の首都が一夜にして消滅しました。
その事態に気付いた時、人は初めて【獣魔】という存在を認識したのです。
超巨大型獣魔・エイゼム級、その存在を目の当たりにする事によって。
当初、エイゼム級は一体のみとされていました。
そこからベベル以下が生み出され、国を襲っているのだと。
ゆえに多くの国がそのエイゼム級を討伐する為に出兵。
勇者や英雄までもがこぞって戦いに出向き、平和を勝ち取ろうと奔走します。
けれど、その結果は散々たるものでした。
獣魔の戦闘力は明らかに群を抜いており、人などではどうしようもなかったから。
勇者も英雄も、その圧倒的な力を前には無力。
全てが討ち死にし、世界はどんどんと絶望へ染まっていく事となります。
この時点で獣魔が来てから三年半が過ぎ去っていました。
その後、世界各国は獣魔を共通の敵と認定。
協力して戦う事で合意し、更には兵力の増強に注力を注ぎました。
来たるべき決戦に備え、独立兵器としてのゴーレムを量産して。
しかしそれも失敗でした。
恐るべき事に、ゴーレムでは獣魔に傷一つ付ける事が叶わなかったのです。
その原因は、ゴーレムが生物ではないから。
実は獣魔には不思議な特性がありました。
生物以外の攻撃をある程度無効化するという特殊能力が。
魂の放つ生命波動が攻撃に籠っていなければ通用しないのです。
そのせいでゴーレムの攻撃は弾かれてしまい、戦力として一切役に立たず。
当時その兵力に頼り切っていた人類は出鼻をくじかれ、後退を余儀なくされたのです。
よって獣魔が来てからおよそ五年で、十一の国が滅びました。
しかもその時より、獣魔が本格的な侵攻を開始する事に。
一体かと思われていたエイゼム級がなんと六体、同時に進撃を始めたのです。
その猛攻は凄まじく、人類はもはや抑える事だけで一杯一杯で。
更にはその間にも国が一つ二つと潰され、逆に敵は次々と増えていく。
そんな悪循環が人々の恐怖を煽り、多くの者を戦意喪失させてしまっていて。
遂には平民の中で自殺者が増える事態にまで発展。
そういったリスクのある者達を徴兵し、微々たる戦力として扱い始めるまでに。
人々の心はそれほどまでに荒み、疲弊していたのです。
そして来たるべき七年目、遂に獣魔が世界の半分を支配しました。
【没落の七星】と呼ばれた時代の到来です。
ですが、この不遇な俗称は一方で契機をも示しています。
人類が獣魔への反抗を開始した時代をも意味するのですから。
実は獣魔が本格的に侵攻を開始した頃、人類は一つの計画を練っていました。
獣魔とより効率的に、確実に戦える超兵士の製造計画を。
きっかけを作ったのはとある天才魔導科学者。
権威級でありながらも人の世に出てこなかった世捨て人です。
でも、そんな彼女も人類の危機を感じ取り、力を貸す事を決めました。
彼女もまた自分なりに世界を愛していたからこそ。
そうして生まれたのがあの転魂装置とヴァルフェルです。
獣魔到来五年目、ヴァルフェル試作一号完成。
テストパイロットはアールデュー=ヴェリオ。
ただし起動試験は失敗、暴走して科学者を三名殺傷。
その一年後、ヴァルフェル試作三号機完成。
テストパイロットは変わらず、起動試験は成功。
だが戦闘能力を持たせられず、即座に機能停止へ。
更にその一年後、ヴァルフェル試作六号機完成。
テストパイロットは変わらず、起動試験、実働試験共に成功。
この時点での転魂回数は二回と少ないが上々の成果とされました。
そして来たるべきセヴンスフォールズ終焉の時が来たのです。
ヴァルフェル実戦運用試験の開始によって。
当時のパイロットはアールデュー、ツィグ、レティネ他、他国精鋭合わせて五十名。
その成果は決定的で、獣魔の根城となっていた都市の奪還に成功。
ヴァルフェルの性能と効果を確立する戦いともなりました。
よって以降、試作六号を基に残存各国で共同製造戦線を確立。
ヴァルフェルを量産し、転魂対象者の育成に注力を注ぐ事に。
更には協定を結び、当兵器を対人戦争行為に使用しないと確約します。
その協定を機に、件の魔導科学者は再び世間から姿を消しました。
ただ、既に設計開発プランは軌道に乗っていたそうです。
彼女がいなくても発展が可能な状態にまで。
おかげで年月を置くごとに一度の転魂回数が増加。
ヴァルフェル自体も転魂者が間に合わなくなる程に増産されていきました。
そんな飽和戦力の投入は効果的で、各地の獣魔達の撃滅に次々と成功。
更にはエイゼムバスターカノンの開発により、エイゼム級の一撃撃破が可能に。
人類は獣魔を退ける手段を得て、遂に平和を夢見られる時代へ到達したのです。
そして現在、ようやく最後の獣魔が討伐されて。
人類はとうとう獣魔という脅威に打ち勝つ事が出来たのでした。
でも、人という生き物は常に争いを求めるもの。
例え脅威が過ぎ去ろうとも、平和を求めようとも。
むしろヴァルフェルという過度な武器だけが残ったからこそ、その闘争本能は更に刺激されてしまうのかもしれません。
そうして生まれた闘争本能は果たして、獣魔と何が違うのでしょうか……。
これは、そんな時代へと移り行く世界に身を投じた、人ならざる戦士の物語。
彼は一体何を見て、何を思い、生きていくのか。
もしかしたらその生き様は、生物としてより純粋な在り方なのかもしれません。
己を敬い過ぎた人類よりも、ずっと。
応援ありがとうございます!
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