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第二章
第十八話 ピギャー!
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「俺の名はダンゼルという。お前さんは?」
「僕はレコ――あ、ミルーイではないレコです」
「お前さん、少し誤魔化し方を学んだ方がいいぞ」
僕は今、闇商人ダンゼルさんの輸送機に乗せてもらって空の上だ。
国外脱出の協力要請を受け入れてもらったおかげでね。
もちろん僕側の借りが大きいのはわかっているよ。
だから出来る事なら借りを返したい所だ。
その為ならしばらくお手伝いをしてもいいかなとも思っている。
出来る事があるなら、だけど。
「しかしお前さんがあの噂の皇帝殺しのレコだとはねぇ」
僕自身はいわば重犯罪者だ。
真偽はともかく、皇国じゃ有無を言わさない破壊対象なんだろう。
そんな僕が手伝ったらダンゼルさんに迷惑が掛からないか、それだけが心配。
まったく、こっちは事情を知らないのにホント嫌~な話だよ。
「やっぱり噂になってるんですね。けど僕自身は事情を全然知らなくて」
「色々と根も葉もない様な噂も立ってるぜ。権力争いに使われただの、横暴な皇帝を罰した神の遣いだのなんだのと」
「神格化まで行っちゃってるの!?」
「皇帝を憎む奴ぁ国内外に限らずごまんといたからな、そいつらにとっちゃ英雄みたいなもんなのさ」
おまけに民衆は噂が好きだから、巷は妙な噂で溢れているときた。
皇帝陛下を憎む人がそんなにいたのも驚きだけど、神格化まで行くともう意味がわからないよ。
だから気分はとても複雑だ。
僕は陛下が好きなのに暗殺した張本人とされて。
そんな陛下が嫌いな人は僕を英雄と言う。
でも僕はそんな勝手な事を言う人達が嫌いだし、やめて欲しいとも思ってる。
なんなんだろうね、この謎の三角関係。
「流れて来た話によれば、獣魔との最終決戦に送り出した後、皇帝一派が先んじて祝勝会を催していたらしい。その最中にお前さんが皇帝の個室で暗殺したそうだ。アールデューと共謀してな」
「そもそも僕ごとき新兵が皇帝陛下の個室になんて行ける訳ないんだけどなぁ」
「まぁその話も出たが、すぐに消えちまったよ。『事実は理に流されず』ってな」
こうして大事な事は噂にならないし。
余計な噂ばかりが先行して、渦中の僕ばかりがどんどんと不幸になっていく。
なんだろう、みんな僕の事が嫌いなのかな?
そう思えてしまって落胆を隠せない。
そのせいで遂には肩を落として項垂れる。
あまりにも理不尽過ぎて溜息さえ出ないよ。出せないけど。
「ま、俺にゃあ関係無いこった。お前さんを国外に連れて行ったらそれで終わり――なッ!? てめぇいったいどこから入って来やがったァ!?」
「……へ?」
そうガッカリしていたら、突然ダンゼルさんが妙に叫び始めて。
それでふと操縦室へとカメラアイを向けてみたのだけど。
なんかコンテナちゃんが操縦中のダンゼルさんと格闘してた。
君、いつの間に降りてたの!?
ていうかなんでそこにいるの!?
そんでもって何してるのォォォ!!??
「待てェ、それぁ俺のオヤツだ! 勝手に食べるんじゃあねぇ!」
「あの、ちょっと」
「おいコラァ! 逃げるなァ! あイテェ! この野郎噛みやがったなァ!」
「おーい」
「調子に乗んなこのガキャア!」
「ピギャーーーッ!」
んで色々あった挙句「ゴチン!」という音と共に少女らしい悲鳴が聴こえ、やっと騒動が収まった。
初めて聴いた声が「ピギャー」なのは何とも複雑な気分だけれども。
「あ、その子は僕が保護した子で」
「なら出すんじゃねぇよ! 俺ァガキが嫌いなんだ!」
「でも僕の言う事聞いてくれないんですよ……」
「だってきく必要ないんだもん」
「酷いな君!? ……え?」
でもその時、僕は聴覚センサーを疑ってしまった。
聞いた事の無い声をまたしても拾ってしまったから。
コンテナちゃんが、喋っていたんだ。
それも自然と、まるで当たり前の様に。
それでまた僕の下に歩み寄り、よじ登っていて。
僕の頭部の横に座り、側頭部をてしてしと叩く。
「やっとしゃべれるようになったー」
「君、しゃべれたんだ……」
「あたりまえ! あたしは人間だもん!」
「そ、そうだね」
僕はてっきり彼女がしゃべれない子なのかと思っていた。
気が強そうな所だけは予想と間違っていなかったけど。
でもなんでしゃべれなかったんだろうか?
そう思い首を傾げていた時だった。
コンテナちゃんがふと服の中をまさぐり、何かを取り出す。
小型コンソールだ。
しかも皇国軍・軍事技術研究所のエンブレム付きの。
あそこって確か、備品持ち出し不可の徹底隔離施設だと思ったんだけど。
「しゃべれなかったのは、皇国の土地に【えーてるしんふぉないざー】がしこまれてるから。声あげると、個人の魔力が検知されていばしょがばれるの」
「そ、そうだったんだ……なんで君、そんな事知ってるの!?」
「だってしってるもん」
「そ、そう……」
おまけにやたらと知識が深い。
エーテルシンフォナイザーなんて僕、聞いた事無いんだけど?
でも確かに、言われてみると人探しとかすぐ解決すると思った。
僕も軍に抜擢された時は外出中だったのに、兵が真っ直ぐ僕の下まで来たし。
おそらくその装置を扱う機関組織があって、すぐ人の居場所を探せるようになっているんだろうね。
「そうだよ。【とくむちょうさきかん・うるふぁす】っていうの」
「へぇ、そう――って、ええ!? 僕そんな事聞いてた!?」
「こころのなかでおもってた。だからおしえたげたの」
「なんで思ってた事知ってるの!?」
「だってここに出るもん。えーてりんく波長あわせたからもにたりんぐできるの」
しかもそんな疑問を彼女が訊く前から答えてくれて。
更には衝撃的事実まで添えて、コンソール画面を僕に向けた。
そうしたら驚くべき事に、今までの心の声がログとして吐き出されていたんだ。
「『こころのこえがろぐとしてはきだされて~』」
「待って、僕の心の声を音読しないで!?」
迂闊だった。
この子は最初から僕の心を読んでいたんだ。
だから反応する必要も無いし、従う必要も無かった。
心を読んだ上で自分で判断できる思考力が彼女にはあったから。
という事は、今までの愚痴とかも聞かれてた訳で。
これはとてもまずいぞ。
僕、心の中で結構酷い事言ってた気がするッ!
「レコ」
「はい」
「あたしはきにしてないよ。まもってくれて、ありがと」
「え……」
でもそう慌てる僕を前に、コンテナちゃんはこう応えてくれて。
それでそっと僕の頭部に背を預け、またてしてしと叩いてくれた。
きっとこれが彼女なりの感謝の証なんだろう。
小さい子なのに、なんて思慮深いのだろうか。
とても五~六歳風な子とは思えない賢さだと思う。
もしかしたら、こんな聡明さがあったから良くしてもらえたんだろう。
彼女を逃がした科学者からも、コンソールなどを預かったりなどして。
だからこそ、僕も守ってあげたいと思った。
こんな特別性を感じる子だからこそ、惨めに殺させちゃいけないんだって。
その為になら僕は、彼女の為の騎士となる事も厭わない。
「レコ、なのでおやつをごうだつせよ」
「ダメです。それだけはダメです」
「ピギャーーー!」
でもこれとオヤツ強奪は話が別だ。
ちゃんと正式な手順を踏んでから頂かないといけません。
なので泣き叫ぶコンテナちゃんに、両手指でバツを描いて言い聞かせる。
けどその代わり、僕がダンゼルさんに頼み込んでオヤツを分けて貰った。
ちゃんとこういう交渉を行う事も大事だって教えなきゃね、騎士として。
「僕はレコ――あ、ミルーイではないレコです」
「お前さん、少し誤魔化し方を学んだ方がいいぞ」
僕は今、闇商人ダンゼルさんの輸送機に乗せてもらって空の上だ。
国外脱出の協力要請を受け入れてもらったおかげでね。
もちろん僕側の借りが大きいのはわかっているよ。
だから出来る事なら借りを返したい所だ。
その為ならしばらくお手伝いをしてもいいかなとも思っている。
出来る事があるなら、だけど。
「しかしお前さんがあの噂の皇帝殺しのレコだとはねぇ」
僕自身はいわば重犯罪者だ。
真偽はともかく、皇国じゃ有無を言わさない破壊対象なんだろう。
そんな僕が手伝ったらダンゼルさんに迷惑が掛からないか、それだけが心配。
まったく、こっちは事情を知らないのにホント嫌~な話だよ。
「やっぱり噂になってるんですね。けど僕自身は事情を全然知らなくて」
「色々と根も葉もない様な噂も立ってるぜ。権力争いに使われただの、横暴な皇帝を罰した神の遣いだのなんだのと」
「神格化まで行っちゃってるの!?」
「皇帝を憎む奴ぁ国内外に限らずごまんといたからな、そいつらにとっちゃ英雄みたいなもんなのさ」
おまけに民衆は噂が好きだから、巷は妙な噂で溢れているときた。
皇帝陛下を憎む人がそんなにいたのも驚きだけど、神格化まで行くともう意味がわからないよ。
だから気分はとても複雑だ。
僕は陛下が好きなのに暗殺した張本人とされて。
そんな陛下が嫌いな人は僕を英雄と言う。
でも僕はそんな勝手な事を言う人達が嫌いだし、やめて欲しいとも思ってる。
なんなんだろうね、この謎の三角関係。
「流れて来た話によれば、獣魔との最終決戦に送り出した後、皇帝一派が先んじて祝勝会を催していたらしい。その最中にお前さんが皇帝の個室で暗殺したそうだ。アールデューと共謀してな」
「そもそも僕ごとき新兵が皇帝陛下の個室になんて行ける訳ないんだけどなぁ」
「まぁその話も出たが、すぐに消えちまったよ。『事実は理に流されず』ってな」
こうして大事な事は噂にならないし。
余計な噂ばかりが先行して、渦中の僕ばかりがどんどんと不幸になっていく。
なんだろう、みんな僕の事が嫌いなのかな?
そう思えてしまって落胆を隠せない。
そのせいで遂には肩を落として項垂れる。
あまりにも理不尽過ぎて溜息さえ出ないよ。出せないけど。
「ま、俺にゃあ関係無いこった。お前さんを国外に連れて行ったらそれで終わり――なッ!? てめぇいったいどこから入って来やがったァ!?」
「……へ?」
そうガッカリしていたら、突然ダンゼルさんが妙に叫び始めて。
それでふと操縦室へとカメラアイを向けてみたのだけど。
なんかコンテナちゃんが操縦中のダンゼルさんと格闘してた。
君、いつの間に降りてたの!?
ていうかなんでそこにいるの!?
そんでもって何してるのォォォ!!??
「待てェ、それぁ俺のオヤツだ! 勝手に食べるんじゃあねぇ!」
「あの、ちょっと」
「おいコラァ! 逃げるなァ! あイテェ! この野郎噛みやがったなァ!」
「おーい」
「調子に乗んなこのガキャア!」
「ピギャーーーッ!」
んで色々あった挙句「ゴチン!」という音と共に少女らしい悲鳴が聴こえ、やっと騒動が収まった。
初めて聴いた声が「ピギャー」なのは何とも複雑な気分だけれども。
「あ、その子は僕が保護した子で」
「なら出すんじゃねぇよ! 俺ァガキが嫌いなんだ!」
「でも僕の言う事聞いてくれないんですよ……」
「だってきく必要ないんだもん」
「酷いな君!? ……え?」
でもその時、僕は聴覚センサーを疑ってしまった。
聞いた事の無い声をまたしても拾ってしまったから。
コンテナちゃんが、喋っていたんだ。
それも自然と、まるで当たり前の様に。
それでまた僕の下に歩み寄り、よじ登っていて。
僕の頭部の横に座り、側頭部をてしてしと叩く。
「やっとしゃべれるようになったー」
「君、しゃべれたんだ……」
「あたりまえ! あたしは人間だもん!」
「そ、そうだね」
僕はてっきり彼女がしゃべれない子なのかと思っていた。
気が強そうな所だけは予想と間違っていなかったけど。
でもなんでしゃべれなかったんだろうか?
そう思い首を傾げていた時だった。
コンテナちゃんがふと服の中をまさぐり、何かを取り出す。
小型コンソールだ。
しかも皇国軍・軍事技術研究所のエンブレム付きの。
あそこって確か、備品持ち出し不可の徹底隔離施設だと思ったんだけど。
「しゃべれなかったのは、皇国の土地に【えーてるしんふぉないざー】がしこまれてるから。声あげると、個人の魔力が検知されていばしょがばれるの」
「そ、そうだったんだ……なんで君、そんな事知ってるの!?」
「だってしってるもん」
「そ、そう……」
おまけにやたらと知識が深い。
エーテルシンフォナイザーなんて僕、聞いた事無いんだけど?
でも確かに、言われてみると人探しとかすぐ解決すると思った。
僕も軍に抜擢された時は外出中だったのに、兵が真っ直ぐ僕の下まで来たし。
おそらくその装置を扱う機関組織があって、すぐ人の居場所を探せるようになっているんだろうね。
「そうだよ。【とくむちょうさきかん・うるふぁす】っていうの」
「へぇ、そう――って、ええ!? 僕そんな事聞いてた!?」
「こころのなかでおもってた。だからおしえたげたの」
「なんで思ってた事知ってるの!?」
「だってここに出るもん。えーてりんく波長あわせたからもにたりんぐできるの」
しかもそんな疑問を彼女が訊く前から答えてくれて。
更には衝撃的事実まで添えて、コンソール画面を僕に向けた。
そうしたら驚くべき事に、今までの心の声がログとして吐き出されていたんだ。
「『こころのこえがろぐとしてはきだされて~』」
「待って、僕の心の声を音読しないで!?」
迂闊だった。
この子は最初から僕の心を読んでいたんだ。
だから反応する必要も無いし、従う必要も無かった。
心を読んだ上で自分で判断できる思考力が彼女にはあったから。
という事は、今までの愚痴とかも聞かれてた訳で。
これはとてもまずいぞ。
僕、心の中で結構酷い事言ってた気がするッ!
「レコ」
「はい」
「あたしはきにしてないよ。まもってくれて、ありがと」
「え……」
でもそう慌てる僕を前に、コンテナちゃんはこう応えてくれて。
それでそっと僕の頭部に背を預け、またてしてしと叩いてくれた。
きっとこれが彼女なりの感謝の証なんだろう。
小さい子なのに、なんて思慮深いのだろうか。
とても五~六歳風な子とは思えない賢さだと思う。
もしかしたら、こんな聡明さがあったから良くしてもらえたんだろう。
彼女を逃がした科学者からも、コンソールなどを預かったりなどして。
だからこそ、僕も守ってあげたいと思った。
こんな特別性を感じる子だからこそ、惨めに殺させちゃいけないんだって。
その為になら僕は、彼女の為の騎士となる事も厭わない。
「レコ、なのでおやつをごうだつせよ」
「ダメです。それだけはダメです」
「ピギャーーー!」
でもこれとオヤツ強奪は話が別だ。
ちゃんと正式な手順を踏んでから頂かないといけません。
なので泣き叫ぶコンテナちゃんに、両手指でバツを描いて言い聞かせる。
けどその代わり、僕がダンゼルさんに頼み込んでオヤツを分けて貰った。
ちゃんとこういう交渉を行う事も大事だって教えなきゃね、騎士として。
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