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第41話 帝都攻略作戦開始

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 とうとう帝国領の攻略が始まった。
 魔物の勢力がひしめく最後の砦だ。

 実は別大陸の攻略はすでに終わっている。
 グライオス軍と現地国との共闘で戦った成果である。
 どうやら情報よりもずっと魔物の侵略率が低かったようだ。
 なので今、こちらに戦力を回そうと行動しているらしい。

 でも増援なんて待ってはいられない。
 もうこちらも充分な戦力を整えられたから。

 おかげで最初の街の制圧はすぐに終わった。
 魔物達の悲鳴が実によい狼煙になったと思う。

 そうして最初の街を足掛かりにし、私達はどんどんと帝国領を突き進んだ。

 続き第二、第三の街をも解放へ。
 私達精鋭部隊が切り込み、後続の魔導人形部隊が活路を開く。
 今までと変わらない、追い込み式の殲滅戦術よ。

 そんな戦いを繰り返しておよそ一ヵ月後。
 遂に私達の視界に巨大な都市らしき壁が見え始める。

「あれは帝都だ! 間違い無い!」
「ようやく来たのか、この時が……!」

 そう、私達はとうとう帝都へと辿り着いたのだ。
 巨大な防壁に囲まれた要塞とも言うべき都市へ。

 言った通りここはもはや魔物の要塞。
 城壁がそのまま魔物達を守り、背の高い住居が盾となってしまう。
 それにもしかしたら魔導人形ではどうにもならない魔物も出てくるかもしれない。

 けど恐れる事は無いわ。
 こんな時こそ私達精鋭部隊が輝くのだから。

「では、これより帝都攻略作戦を始める! まずはあの外壁の先で安全確保を最優先に、私率いる精鋭部隊で一気に奴等を蹴散らすわよ!」
「「「了解!!!」」」

 休憩? そんなもの必要は無い。
 いつ何時戦いになるかもわからないから、常に誰かが戦えるように準備し続けて進んで来たもの。
 それにこんな近くで悠長に休憩していても奇襲されるのがオチよ。
 ならこっちから奇襲してやった方がずっと速くて効率的なんだから。

 それと、帝都の中心で助けを待っている者達がいる。
 生き残った人々は今日までの長い間、帝国城で籠城し続けて耐えているのよ。
 城を守る魔防領域に守られて、ずっと。

 彼等を救い出さなければならない。
 周囲の魔物をすべて駆逐して。

 そのためにも、立ち止まってなんていられないんだ。

「ンッフフ、奇襲ならアタシ達に任せなさあいッ! 魔術兵団、五層魔導式・展開!」

 まず手始めとして、叔母上達魔術兵団による奇襲攻撃が始まった。
 私が伝授した多連層魔導式技術を駆使する砲撃部隊の洗礼だ。 

「「「魔導式展開完了!」」」
「爆撃砲弾術、放てぇ~~~!」

 放たれたのはいずれも低級魔術の火炎弾ファイアボール
 しかし五層式によって強化・増幅された威力は通常の最上級魔術さえ超える。
 そんな物が大量に放たれれば、おのずと結果は見えて来るものだ。

 ――途端、街中からいくつもの大爆発が巻き起こる。
 それも外壁を内側から破壊してしまうほどの。

 壁なんてもう必要無いのよ。
 魔物なんて、もうここ以外には残っちゃいないんだから。

「やるじゃないかイーリス。ならしんがりは僕がいく」

 そうして壁が崩れて道が拓けたと同時に、エルエイスが軽々と街へ乗り込んだ。
 爆炎がなお轟々と燃え盛っている中だろうとかまう事無く。

 けどアイツなら心配なんて必要ないわ。

 現に今、魔物がいくつも宙を跳ね飛んでいる。
 煙の先で大暴れしているのでしょうね。
 このままじゃ私達の相手がいなくなってしまいそう。

「我々も行くぞ! ヴァルグリンドナイツ、敵を殲滅せよ!」
「我等も負けるな! この戦にこそ我等の真価を叩き込む時ッ!」
「「「ウゥオオオーーーーーーッッッ!!!!!」」」

 そこにラギュース達ヴァルグリンドナイツと貴族騎士団もが乗り込んでいく。
 エルエイスに手柄を持っていかれまいと彼等も必死ね。
 もうこれ以上武勲なんていらないでしょうに。

 するとそんな矢先、街中からいくつもの影が飛び出した。
 あれはエルエイスが飛ばした物じゃない。

 有翼型魔物――しかもその数はもはや数えきれないほどに多い。

「あーもぉー! なんで飛ぶんですかぁー! 自分の仕事増えちゃうじゃないですかーっ! ニートになりたい人生だったーっ!」

 ただそんな相手にはレスティがいる。

 彼女が手に握った斧槍を奮えば、一瞬にして無数の敵が真っ二つに。
 その正体は射出式刃とそれを繋ぐワイヤー。
 ドレスギア技術を組み込んだワイヤーバイスが敵を狙って確実に切り裂くのだ。

 さすが元々飛べるだけあって、空中戦は彼女の独壇場。
 空の悪魔と呼ばれるガーゴイルでさえ一瞬で肉塊よ。
 これではもはや誰が悪魔なのやら。

 こうして仲間達が切り拓いた道を、私も低空飛行で突き進む。

 今はもう私が先行しなくてもよくなったから。
 誰かが前を進めば他が後に付く――気付けばそんな戦術が生まれていたし。

 その代わり、後始末は任させてもらう!

 今、仲間達が突き進んだ道を塞ぐように大小無数の魔物達が包囲し始めている。
 この展開速度だと魔導人形部隊の到着は間に合わない。

「……普通ならその戦術で勝てるのでしょうね。でも私達相手にはしょせん愚策でしかないのよ、それはッ!」

 ゆえに私は〝ドレスギア・トリザート〟のリボンユニットを射出・展開させた。

 これは意思だけで自由に操作できる、分離・変形・飛行可能な独立転送砲台。
 私の放った魔術を空間転移させ、各砲台から発射できるというものよ。
 しかもその転送された魔術は威力増幅、発射数さえ増加する。

 そんなものに広域魔術の拡散魔光弾ライトスプリッターを撃ち込めばどうなるか。

「背を向けた事を後悔すればいいわ。裁きの烈光に焼かれながら」

 当然、射線上一帯が光のカーテンで覆い尽くされる事となる。
 背後より迫る破壊の光に飲み込まれ、魔物の集団が次々と炭化して消えていった。
 多少強かろうが関係無い、肉の一片たりとも残さず蒸発させてあげたわ。

「続きは魔導人形部隊に任せましょうか。私には別のやる事があるものね」
 
 でも私の役目はこれでひとまず終わり。
 戦いも今回は仲間達に任せると決めてあるから。
 あとは背負った大荷物を帝都中心部へ送り届けなければいけないの。

 ま、とても女王の役目とは思えないけどね。

 なので「フフッ」と微笑みつつ、中央へ向けて再び飛行する。
 レスティが大暴れする中を掻い潜るようにして。

 するとそんな時だった。

「ギャオオオーーーーーーッッッ!!!」
「ッ!? ダークネスドラゴンッ!?」

 すさまじい雄叫びと共に、地上から巨大な黒い物体が飛び出す。
 ダークネスドラゴン……現状最強クラスの能力を誇る魔物である。
 それもあのシャウグハイさえも越えるパワーを誇るほどの。

 そのような相手が今、私の前に突如として現れたのだ。

「――ま、でも問題は無いわね」

 けれどそんな最強伝説などもはや時代遅れも甚だしい。
 残念ながら、コイツはもう何体も屠ってきた相手なのだから。

 その証拠に、その自慢の剛翼はもう容赦無くもがれていた。
 突如として飛び掛かったエルエイスの槍によって。

「やりなさい、エルエイスッ!!」
「ウゥオオオーーーーーーッッッ!!!」

 強化ミスリルよりも硬い鱗? そんなもの関係無いわ。
 エルエイスの槍はそのダークネスドラゴンの鱗を錬成して造り上げたものだから。
 より強固に仕上げ、何重にも重ね、強化も付与した史上最高峰の斬龍槍なのよ。

 しかもその特別製の武器を持つのはエルエイスだけではない。
 地上で待ち構えたラギュース達もまた同等の装備を有している。

 ならば地上に堕ちたドラゴンなんてものの数分で肉塊ね。
 しょせんはもう素材扱いの魔物でしかないもの。

「ミルカ殿ッ! 中央までの道を切り拓いた! 今ならいけるぞおッ!」
「ならあとはお願い!」
「任されたあッ!」

 そんな彼等にあとを任せ、私は空へと飛び上がった。
 中央にそびえたつ大壁を越えるためにと。

 ああ、やっとだ。
 これでやっと帝都の生き残り達と対面できる。
 この日をどれだけ待ちわびた事か。

 待っていてね、最後の要救助者達。
 貴方達を救う事で、この戦いが真に終わりを告げられるのだから。
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