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1.決闘を申し込む
しおりを挟むレイモンド・アンカー侯爵令息には想い人がいる。
想い人はステラ・キャンベル伯爵令嬢。プラチナブロンドのふわふわとした髪に、若紫色の瞳。ステラの美貌は誰もが息を呑むほどで、その美しさは留まるところを知らず日増しに進化している。
そんなステラ・キャンベルを狙う男はたくさんいる。もちろんレイモンドもその内の一人であり、他の男に負けるなどとは全く考えていない。しかし、そんなレイモンドが厄介だと思う男が一人。
名前はレオナ・アンスガー。アンスガー侯爵令息だった。
レイモンドとレオナの関係は幼馴染み。幼少の頃よりあらゆる分野で散々に比べられながら育ったことで、レイモンドはレオナには負けたくないと、いつからかライバルとして見ていた。
レイモンドとレオナが比べられるようになったのは、幼少期の二人の容姿が双子かと思うほど似通っていたからだ。大人が二人を比較する時、必ずと言っていいほど最後に「容姿も好みもそっくりなのに」という言葉がついていた。
容姿が似通っていたことでレイモンドとレオナはお互いを間違えられやすかった。そのため、レイモンドはお忍びで街へ行った時に買ったヘアピンを付けている。成長した今、間違われることは無くなりピンをつける必要はないのだが、癖になってしまい、壊れるたびに買い直している。
閑話休題
レイモンドは今度こそ負けたくなかった。
幼馴染みでありライバルのレオナとは、勝ったり負けたりの繰り返しだった。しかし、今でも忘れられない"負け"があった。それは勉学でも剣術でもない。恋愛だ。
初恋相手を巡って戦い、敗れたのだ。
振られた理由は女心がわかっていないから。
結局その女の子の家が没落してしまったことでレオナとの婚約の話はなくなり、17歳になった今でも婚約者はいないままだった。
レオナから直接ステラのことが好きだと聞いたわけではないが、レイモンドは確信している。長年を一緒に過ごし、初恋相手を見る目を知っていたからこそすぐに気が付けた。
レオナもステラに好意を持っている。もちろん一人の女性としてだ。
(レオナがステラ嬢に好意を抱くことを予想していなかったわけじゃないが、成長した後も女性の好みまで被ってくるとはな……)
レイモンドは振られたあの日のことを思い返した。
女心がわかっていないと言われ、少なからずショックを受けた。しかし、その当時も納得はしていた。
レイモンドは女心どころか人の感情を察することも苦手なのだ。
その点レオナは人の機微に敏く、気が利く男だった。
そのレオナがステラへアプローチするのだとしたら……。
(初恋の女の子の時と同じ未来しか見えない……)
レイモンドは頭を抱え、そして決意した。
(そうだ。決闘をしよう! そしてステラ嬢から手を引いてもらう。そうすれば女心がわからないと言う理由でレオナに負けることもないはずだ)
レイモンドは思い立ったが吉日といわんばかりに幼馴染であるレオナを探し始めた。
レオナは探せば案外あっさりと見つかる。赤い髪は滅多におらず目立つからだ。レイモンドも同じ理由で見つかりやすい。
レオナがいたのは廊下だった。学友に囲まれ、楽しそうに会話をしている。その中に水を差すのは気が引けたが、今すぐに思い切って決闘を申し込まなければ二度と決闘の申し込みなんてできないような気がした。
「レオナ!」
レイモンドは緊張しながらも、輪の中心にいる幼馴染みに呼びかけた。
「なに? なんか用?」
「お前に……」
レイモンドは付けていた手袋を外した。色は白色ではなく学園指定の黒色だが、意味は伝わるだろうとそのまま手袋を足元へと投げつけた。
「お前に決闘を申し込む。手袋を拾え! レオナ!」
レイモンドがそう言い放つと、周りにいたレオナの学友達が騒ぎ出した。
「おい、今決闘って言ったか?」
「あぁ。レオナ様は受けるのだろうか」
「この状況で断れるか?」
「だが、レオナ様とレイモンド様は幼馴染みだぞ。レオナ様の性格からして嫌なら断るだろう」
周りはざわざわと好き勝手に話し、好奇の視線を送ってくる。
人がいるとわかっていながら申し込んだレイモンドだが、やはり人がいないところで話せばよかったかと少しだけ後悔していた。
レオナは手袋を拾って決闘を受け入れるのか——
皆が固唾を飲んでレオナの動向を見守る中、その女性は曲がり角から現れた。
「あら、落としていますわ」
鈴が鳴るような可愛らしい声を発し、あろうことか女性はレイモンドが投げつけた手袋を拾ってしまったのである。
緊迫していた空気が緩んだ。中には口を開けて固まっている者もいる。
決闘を申し込むために投げた手袋をほとんど関係のない女性が拾ってしまった場合どうしたら良いのだろうか。
レイモンドは必死に頭を働かせ、答えを見つけ出した。
「ステラ嬢!」
「はい」
「貴女に決闘を申し込む!」
周りは騒然とした。
決闘とは男性が男性に名誉をかけて挑むものだというのが常識だからだ。男性が女性に決闘を申し込むなど前代未聞。
ステラはどう答えるのだろうと、今度はステラへと好奇の視線が向いた。
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