2 / 13
2.プロポーズ
しおりを挟む「決闘……ですか?」
ステラの問いにレイモンドは頷き、内容を説明するべく口を開いた。
「決闘といっても武器は使わないし、貴女が怪我をするようなことはありません」
レイモンドは自分の中で考えをまとめながら必死に言葉を紡いだ。
想い人を前にして心臓は激しく高鳴り、口の中はカラカラだ。こんな大勢から見られている中続きを言わなければならないとなると、今すぐに逃げ出したくなる。しかし、レイモンドにも意地とプライドというものがある。
唾液を飲み込み、意を決してレイモンドは話した。
「この国では、学園を卒業するまで、かつ相手が貴族ならば恋愛結婚でもいいが、学園を卒業しても婚約者がいないなら親が決めることになるというのは周知の事実。今、ステラ嬢にも俺にも婚約者はいません」
「そうですわね?」
何が言いたいのかわからないとでもいうように小首を傾げるステラ。
その動きにステラに好意を抱いている男たちは心臓を撃ち抜かれた。
(あっ、かわいい……! 好き……!)
レイモンドは周りの男達と共に心臓を抑えて蹲りたかったが、ステラの前でそんなみっともない姿は晒せない。
勝手に崩れそうになる膝と蕩けそうになる表情筋にしっかりと力を入れ、なんとか平静を装った。
「俺と貴女が18となり学園を卒業するまで残り1年」
先ほどよりも心臓は激しく高鳴り、心臓が耳から出ていってしまうのではないかと錯覚する。レイモンドが最も言いたかったのはこの後だ。
「それまでに俺は貴女を惚れさせてみせる! だから……」
レイモンドはステラの前に跪き、ステラの手を取った。
「ステラ嬢が俺のことを好きになったら俺と結婚してほしい」
(言った……! 言ってしまった……!)
どんな返事が来るのか。
普通は断られるはずだ。いや、まずこれは決闘でいいのだろうか。
レイモンドの胸中はほとんど不安で占められていた。だが、その中には期待もあった。結婚相手としてあり得ないと思われていなければ、決闘を受けるという返事が来るのではないか、と。
「もしレイモンド様が負けた場合はどうなさるの?」
「え」
レイモンドは焦った。自分が負けた時のことなど一切考えていなかったからだ。
しかし本当に、本当に仮の話だが、レイモンドがステラとの決闘に負けた場合、確実にステラを諦めなければならないだろう。けれど、それだけでは足りない。何かステラのメリットとなることを提示する必要がある。それがないならステラがこの決闘を受けるメリットがない。
「もし——」
レイモンドが何かないかと必死に頭を働かせていると、ステラが静かに言葉を発した。
「もしレイモンド様が負けたのなら、私の言うことを一つ、聞いてもらえませんか」
「……俺にできることならなんでも」
レイモンドは特に何も考えずにそう答えた。
ステラの微笑んだ顔に見惚れていたのである。
(あぁ、やっぱり可愛い……! 二年前からさらに可愛くなっている……!)
レイモンドはステラの笑ったが一番好きである。それは微笑みでも満面の笑みでも同じ。楽しそうにしてくれていたらレイモンドも嬉しくなる。
レイモンドがステラに好意を抱くようになったのは二年前。丁度この全寮制の学園に入学した時だった。
当時、学園の構造を全く分かっていなかったがために一度迷子になったことがあった。元にいたところに戻るために適当に歩いていると中庭に出てしまい、そこで話をする男女を見つけた。
そのうちの一人がステラだった。
二人の会話は聞こえなかったが、ステラは仮面のような微笑を顔に付け、ずっと変わらない態度でいた。絡まれているのなら助けるべきかと迷っていれば、男は段々と力をなくし、最後には背中を丸めてステラから離れていった。
もう大丈夫だろう。
ずっと不躾に見続けるのも悪いと思い、レイモンドが再び歩き出そうとしたときだった。
どこからともなくやってきた兎やリス、小鳥たちがステラを取り囲み、ステラを押し倒した。
これにレイモンドは驚き、令嬢が草食動物に食われてしまう、と見当違いなことを考えながら令嬢を助けるべく走り出した。
「ふふっ」
突然くぐもった笑い声が聞こえ、レイモンドは足を止めた。今聞こえたのはどう考えてもステラがいる方からだ。
「もう! あなたたちは甘えん坊さんね」
怒ったような口調ながらも、その声はどこか楽しそうだった。
ステラが顔に乗っていた兎を持ち上げたことで見えたその顔貌は、心底楽しいとでも言うかのように満面の笑みを浮かべていた。それはレイモンドが今まで見てきたどの令嬢よりも愛らしく、輝いて見えた。
それからだった。
レイモンドはステラを見るたびに胸が苦しくなり、ステラと目が合うのを恐れた。けれども話したいし仲良くなりたい。あわよくば結婚したい。
そんな矛盾を抱えて生活をしていた頃、入学したその日にステラ・キャンベルは男と密会し、貞操を失ったという噂が流れた。
その噂が広まり、ステラの周りから人が消えた。残ったのはメイル・キャロット伯爵令嬢ただ一人。結婚するまでは清い関係でいることが当たり前とされる風潮の中では、一人でも残ったのはまだいい方だった。
それでも、今まで仲良くしていた人たちから突然避けられるようになったことに思うことがあるのか、ステラは時折寂しげな顔を見せるようになっていた。
レイモンドはそれが嫌だった。ステラには笑っていてほしい。何もしていなくても可愛らしいが、レイモンドは楽しそうに笑うステラが一等好きなのだ。
流れてきた噂の「入学した日に男との密会」という状況に心当たりのあったレイモンドは噂の沈静に併走し、無事にその噂を消すことに成功した。
その時にステラと少しだけ話し、それ以来話す機会が増えた。会話というより挨拶をしているだけなのだが、それだけでもレイモンドにとっては喜ばしく、ステラと会った日には舞い上がっていた。
そんな知人のような関係のまま交流を重ねていたある日のこと。
ステラから名前で呼んでほしいと言われたことで、レイモンドは一層舞い上がった。
あれから二年。
レイモンドとステラは友人と呼べるくらいの関係になっている。
名前も顔も認知されていない時よりも二人の関係は大きく進歩し、ステラと親しい異性といえばレイモンド、と返ってくるくらいには周りから見ても親しくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる