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13.卒業
しおりを挟む「……今日がステラ嬢との約束の期限か」
レイモンドがステラに決闘という名目でプロポーズしてから一年が経つ。
「レイモンド・アンカー君。そろそろ準備をしてください」
「あ、ああ、はい」
教師に呼ばれて席を立ち、舞台袖で待機する。
今から卒業生代表として挨拶をするのだ。
「緊張しますか?」
「まぁ……はい」
「大丈夫ですよ。君はよく頑張っていました。原稿も読ませてもらいましだが、立派なものでした」
「ありがとうございます」
教師に微笑んでそう言えば、満足気に去っていった。
確かにレイモンドは緊張している。でも震えて持っている原稿にも必要以上に力を入れないと落としてしまいそうだ。
しかし、緊張しているのはスピーチをすることに対してではない。スピーチなんて何度もやってきたし、慣れている。
レイモンドが緊張しているのはステラのことだ。
(この式典が終わったら、ステラ嬢にもう一度婚約を申し込む)
レイモンドは深呼吸をして気持ちを落ち着け、目の前のスピーチをしっかりやろうと切り替えた。
◇
「おい、元気出せって。ちゃんとできてたっつってんだろ」
「ほんとうに? それ本気で言ってる?」
「本気も本気。だから離れろバカ。男の硬い体で抱きつかれても嬉しくねぇ」
あの後、スピーチの最中にステラを見つけてしまい、そこから婚約を申し込むということを思い出してしまったのである。
「もう自分が何を口走ったのか不安で。俺本当に変なこと言ってなかった?」
「しつこいわ。大丈夫だって言ってんだろ。ほら行ってこい。また婚約を申し込むんだろ?」
「……うん。行ってくる」
レイモンドはのそりと立ち上がり、式典終了後に付き合ってくれたレオナに礼を言った。
誰かを待っていたところらしいが、その相手はまだきていない。お前が行けばすぐに来ると言われたため、とりあえず早く行ったほうがいいだろう。
「ステラ嬢!」
レイモンドが令嬢に囲まれているステラを呼ぶと、周囲にいた令嬢は一斉に離れていった。最後にメイルが「頑張ってね」と声をかけて去っていく。
「歓談中にすまない。一緒に来てもらえるだろうか」
「はい。……あの、中庭の方へ行ってもいいですか?」
「ああ」
レイモンドも中庭へとステラをエスコートする。
中庭へはすぐに着くはずなのに、その距離はやけに長く感じられた。
あの時と——一年前と同じように心臓が鼓動する。
レイモンドはステラの手を取り、目をまっすぐに見つめた。
「ステラ嬢。貴女が好きだ。俺と婚約をしてほしい」
「ぅ、あ、の」
ステラは顔を真っ赤にして言い淀んだ。
しばらく待ってみても返事がなく、何かを言いかけてはやめるということを繰り返している。
——ダメか。
少しだけ諦めの念が混ざった時。
「わ、私も、レイモンド様のことが好きです! こ、婚約の件、喜んでお受けいたします」
ステラから承諾の言葉が出てきた。
夢か、と。
本気でそう思った。
「ほ、本当……?」
「はい! あの、ほ、本当は三年前からずっと好きです!」
その言葉を聞いたレイモンドは、ステラの真っ赤な頬を両手で包み、魅惑的な唇へと口付けた。
レイモンドは幸福感で満たされていた。
婚約を受け入れてもらえたことはもちろん、ステラが想いを寄せてくれていたことが嬉しかった。
——今ここに、目の前に婚約者となった好きな人がいる。
そんなことを考えていれば、ステラから思い切り体を押され、顔どころか首まで真っ赤にしたステラから平手打ちが飛んできた。
ばちんっと音が響き、レイモンドの頬には紅葉がついた。
「きゅ、急すぎます! まだ正式に婚約したわけでもないのに……!」
目に涙を浮かべながら叱るステラを「可愛いなぁ」と思いながら見つめる。
(手袋を拾われた時はどうなることかと思ったけれど、あれがきっかけで俺はステラ嬢に婚約の話を持ちかけることができた)
「……ステラ嬢、絶対に幸せにしてみせるから」
レイモンドはひっそりと、誰にも聞かれることなく決意した。
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