40 / 52
リリの場合4
しおりを挟む
手押し車に、そっと水を満たした桶を載せる。
朝早いから、周りに人はいない。
修道院の中で起きているのはリリだけであろう。
桶を七つ載せて、手押し車を押して食堂に向かう。
手押し車の車輪は音もなくするすると回転する。
一見重労働な水汲みだが、井戸には屋根があり、道具も小ぶりでよく手入れされていて、実はあまり苦にならない。
目まぐるしい変化と戸惑いの時期が終わればここでの生活はむしろ単調で、おだやか。
でも、リリは気がついてしまった。
この修道院はおかしなところが三つある。
一つは外へ小道。
今リリが歩いている道は井戸や建物、厩舎をつなぐいわば修道院のメインストリート。
だが幾つも枝分かれする中に、修道院にはないとされている外部へと繋がっている小道があるのだ。
それに気がついたのは偶然だった。
はぐれたアヒルを探して森に入って見つけた。
細い道の先にはちょうど人一人通れるくらいに壊れた壁。
おかしい。
あやしさしかない。
リリはとりあえず近づかないのが無難と判断した。
王太子妃教育の中で受けた危機管理教育がこんなところで生かされるなんて思ってもみなかった。
違和感を大切にすること、よく観察すること、そして何より安全を大切にすること。
いまは昔のように護衛もいない。
用心を大切にしないといけない。
ときどき確認しても道も壁も変わることはなく、修道院の話題に上がることもない。
二つ目は修道院の間取り。
部屋の数や大きさと建物の大きさがあっていないような気がする。
隠し部屋のようなものがあるのではないだろか?
そして3つ目。
この修道院は祈りを捧げる神が定まっていない。
こんなことってあるんだろうか。
元国王
公爵になって一月。
妻が青い顔をして執務室に入ってきた。
あなたこれ
そう言って差し出したのは、見覚えのあるハンカチ。
震える手で開いたハンカチには親指の爪ほどもある大粒のルビーが入っていた。
王家のルビー
王冠についているはずのものがどうしてここに。
妻の説明によると自分の荷物の一つに入っていたと。
王宮からの引越しは時間がかかった。
そもそも王の退位などそうあることではない。
退位を決めてから怒涛の日々だった。
退位の手順を決めることから外交関係の予定の調整、内政、国民への告知、協会との折衝、弟への引き継ぎ、即位の準備その他もろもろ。
同時進行で新生活の準備。
妻は妻で同じくらい忙しく、話す気力もなく同じベッドで寝るだけという生活を耐えた。
退位をしたのちに、引越した。
どこまでを私物とするかは十分に注意を払って引越した。
はずだった。
それでも荷物は莫大で、一月経ってやっと少し落ち着いてきたところだった。
なのになぜここにこれが。
弟いや国王のハンカチにつつまれて妻の引越し荷物に、部屋着の袖にはいっていたのか。
「これは私が預かろう。これのことは他言無用だよ」
妻の背を摩りながらハンカチを受け取る。
あなたと私を見上げる妻を安心させるように微笑む。
どんな時でも表情を取り繕える。
元王族には簡単なこと。
妻もそれはわかっている。
それでも、少しほっとしたらしく体から力が抜けた。
侍女を呼び妻を託す。
引越しで疲れているし、2、3日静養させよう。
執務机の、鍵の掛かる隠し引き出しにハンカチとルビーをしまう。
もう、王族ではない。
もう家族ではない。
弟に関わるつもりはない。
朝早いから、周りに人はいない。
修道院の中で起きているのはリリだけであろう。
桶を七つ載せて、手押し車を押して食堂に向かう。
手押し車の車輪は音もなくするすると回転する。
一見重労働な水汲みだが、井戸には屋根があり、道具も小ぶりでよく手入れされていて、実はあまり苦にならない。
目まぐるしい変化と戸惑いの時期が終わればここでの生活はむしろ単調で、おだやか。
でも、リリは気がついてしまった。
この修道院はおかしなところが三つある。
一つは外へ小道。
今リリが歩いている道は井戸や建物、厩舎をつなぐいわば修道院のメインストリート。
だが幾つも枝分かれする中に、修道院にはないとされている外部へと繋がっている小道があるのだ。
それに気がついたのは偶然だった。
はぐれたアヒルを探して森に入って見つけた。
細い道の先にはちょうど人一人通れるくらいに壊れた壁。
おかしい。
あやしさしかない。
リリはとりあえず近づかないのが無難と判断した。
王太子妃教育の中で受けた危機管理教育がこんなところで生かされるなんて思ってもみなかった。
違和感を大切にすること、よく観察すること、そして何より安全を大切にすること。
いまは昔のように護衛もいない。
用心を大切にしないといけない。
ときどき確認しても道も壁も変わることはなく、修道院の話題に上がることもない。
二つ目は修道院の間取り。
部屋の数や大きさと建物の大きさがあっていないような気がする。
隠し部屋のようなものがあるのではないだろか?
そして3つ目。
この修道院は祈りを捧げる神が定まっていない。
こんなことってあるんだろうか。
元国王
公爵になって一月。
妻が青い顔をして執務室に入ってきた。
あなたこれ
そう言って差し出したのは、見覚えのあるハンカチ。
震える手で開いたハンカチには親指の爪ほどもある大粒のルビーが入っていた。
王家のルビー
王冠についているはずのものがどうしてここに。
妻の説明によると自分の荷物の一つに入っていたと。
王宮からの引越しは時間がかかった。
そもそも王の退位などそうあることではない。
退位を決めてから怒涛の日々だった。
退位の手順を決めることから外交関係の予定の調整、内政、国民への告知、協会との折衝、弟への引き継ぎ、即位の準備その他もろもろ。
同時進行で新生活の準備。
妻は妻で同じくらい忙しく、話す気力もなく同じベッドで寝るだけという生活を耐えた。
退位をしたのちに、引越した。
どこまでを私物とするかは十分に注意を払って引越した。
はずだった。
それでも荷物は莫大で、一月経ってやっと少し落ち着いてきたところだった。
なのになぜここにこれが。
弟いや国王のハンカチにつつまれて妻の引越し荷物に、部屋着の袖にはいっていたのか。
「これは私が預かろう。これのことは他言無用だよ」
妻の背を摩りながらハンカチを受け取る。
あなたと私を見上げる妻を安心させるように微笑む。
どんな時でも表情を取り繕える。
元王族には簡単なこと。
妻もそれはわかっている。
それでも、少しほっとしたらしく体から力が抜けた。
侍女を呼び妻を託す。
引越しで疲れているし、2、3日静養させよう。
執務机の、鍵の掛かる隠し引き出しにハンカチとルビーをしまう。
もう、王族ではない。
もう家族ではない。
弟に関わるつもりはない。
1
あなたにおすすめの小説
完 婚約破棄の瞬間に100回ループした悪役令嬢、おせっかいしたら王子に溺愛されかけた為、推しと共に逃亡いたします。
水鳥楓椛
恋愛
藤色の髪にアクアマリンの瞳を持つ公爵令嬢ヴァイオレット・エレインは、ある瞬間を起点に人生をループしている。その瞬間とは、金髪にサファイアの瞳を持つ王太子ディートリヒ・ガーナイトに婚約破棄される瞬間だ。
何度も何度も婚約破棄をされては殺されてを繰り返すヴァイオレットの人生の行先は———?
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる