信用してほしければそれ相応の態度を取ってください

haru.

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ありがたい申し出

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「それで本日はどのようなご用件でしょうか。アルバート様に何かございましたか?」

  初対面でシェルト家としても公爵家との面識がなかった私はアルバート様以外に繋がりがわからず、アルバート様が何かしでかしたのかと思ってしまった。

  学園に入学してからのアルバート様の言動は目に余るのでまた何かやらかしていても可笑しくはないと思う。

  そんな私の気持ちが透けて見えていたのだろう。
  苦笑して話し出したトルタンド様は「いや、まぁ、その最近のアルバートの様子がちょっとアレでな。私からも態度を改めるよう声をかけたんだがーー」と言って、私へ言いづらそうに問いかけてきた。

「部外者の身でこのような事を聞くのは忍びないのだが、アルバートはシェルト嬢には何と言ってるのだ?」

「ただ事情があると」

「……やはりか。私もそう言われてしまってな。仕方がないの一点張りなんだ。本当にどうしたものか」

  深い溜め息を溢したトルタンド様は疲れたように微笑んでいた。

  恐らく公爵家としてはルヴェルダン侯爵家のアルバート様との繋がりは失くしたくない。それにこの事態には無関係なのに初対面の私に話しかけてくる辺り、友人としてもアルバート様の事を放っておけないのだろう。

  誰もがアルバート様と距離を取り見捨てていく中で唯一アルバート様の事を心配している方。きっと婚約者の私よりも心を砕いているのではないかとそう思った。

  きっとこの方は優しい人なのだろうな。
  彼処まで醜聞を晒して尚、態度を改めないアルバート様を見捨てないなんて

  私は浮気ではないと言ったその言葉を一応信じている。
  だが現状の行動に関してはもう呆れ果てている。何か事情があって浮気でないにしろ、今のアルバート様の言動には婚約者として受け入れられない域に達しかけていた。

  とはいってもアルバート様を避けて距離を取っている私の態度はあまり褒められたものではない。

  私がしているのは現状と向き合わず、逃げているだけに過ぎないのだ。

  トルタンド様の誠実で真っ直ぐな姿を見ていると、今の自分の選択が正しいのか不安になってくる。

  そして同じ悩みアルバート様の言動を抱えたトルタンド様に出会ったせいか、思わず不安を溢してしまった。
  
「アルバート様には三年間信じて待っていてくれと言われましたが……ですが三年間もこの状況かと思うと私にはもう耐えられないのです」

「は? 三年間? あいつは三年間もこの異常な状況を続けるつもりなのか!? 侯爵家を潰すつもりか!」

「あの方は三年間耐えれば元の日常が戻ってくると仰っていました。ですが既に広まってしまった醜聞はそう簡単には消えはしないというのに」

  三年後に私の元へ戻ってきたとしても、多くの人の前で他の女を側に置いていた事実はなくならないし、三年間もこんな状況を続けていたらアルバート様は人としても侯爵家跡取りとしても問題ありと認識されてしまうだろう。

  そんな簡単な事実すら気づけていないアルバート様に頭が痛かった。

「侯爵家は何か対応をとっていないのか?」

「それがよくわからないのです。私は三年間侯爵家を出入り禁止されましたし、以前伺った時は侯爵夫人が領地へ戻られていると聞きました。両親には今回の事はまだ報告してませんので、私としてもこれ以上は動きようがなくてーー」

「……そうか」

  私の言葉に思い当たる節があるのか、何かを考え込む。

  先程までの可愛らしそうな表情から打って変わり、真剣な表情になったトルタンド様に一瞬ドキリとした。

  やっぱりイケメンの伏し目は威力があるわね。
  うっとりするほど冥福物だけど威力強すぎて見続けられないわ。

  イケメンを前に緊張感を忘れ一人に違う事を考えていると、空気をガラリと変えたトルタンド様から思いもよらぬ申し出がされた。

「あ、そういえばシェルト嬢は来週のダンス授業のパートナーは決まったのか? アルバートはあれだし、もしパートナーに空きがあるようなら私を選んではもらえないか?」

「えっ! わ、わたしですか!?」

「はい。私は入学前に婚約が解消されているし、パートナーがまだ未定だったらどうだろう」

「と、とてもありがたい申し出なのですが伯爵令嬢の身で公爵家のトルタンド様のパートナーになるのは少し立場が違いすぎるのではーー」

  社交界では有名な醜聞? 恋愛話? になるのだが、外交で他国へ出向くことが多かったトルタンド公爵家は隣国の公爵令嬢と自身の息子を幼い頃に婚約させていた。よくある政略結婚になる筈だったが、去年の王家の夜会に初めて隣国の公爵令嬢をトルタンド様のパートナーとして招待した所、この国の第二王子がトルタンド様の隣にいた公爵令嬢に一目惚れしてしまい、ダンスホールの中央で突然の求婚をされた。

  夜会の真っ只中に行われた突然の出来事。
  三人はすぐにその場から撤収されたが、目撃した者の数は数えきれなかった為、なかった事にはもう出来ない。だが王家の者が臣下の婚約者を奪ったとあっては少し外聞に悪いとの事で、トルタンド様と公爵令嬢の婚約は初めからなかったという事にされた。

  隣国の公爵家としても娘が王家に嫁ぐのはとても名誉な事の為、双方から多額な慰謝料が支払われてトルタンド公爵家が身を引く形になったらしい。

  だからトルタンド様には婚約者がいない。
  というかこの歳にもなれば婚約者がいない令嬢を同年代で見つける方が難しい。

  数週間前から始まったダンス授業のパートナーも既に令嬢達は決まっているだろうし、公爵子息とはいえ横入りは出来ないだろうし、したくはないだろう。

  だからといって私!?
  ちょっと身分不相応すぎない?
  それに現時点で人目を集めている私のパートナーなんてそれこそ醜聞にならないかな。
  
  様々な感情が入り乱れる中、トルタンド様は私が受け入れやすい理由を作ってくれた。

「まぁそんなに難しく考えず、身分とかは一旦置いて考えてくれ」

「え、それはちょっとーー」

「私はアルバートの友人だ。例の並々ならぬ事情があってアルバートがパートナーを出来ない為、婚約者のシェルト嬢のパートナーを友人の私が努める事になったーーとしておくのが無難だろう」

  企むような悪戯っぽい笑みを浮かべながら提案してくるトルタンド様の案に私は心が動かされていた。

  それとなくアルバート様の行動には事情があると周囲に伝えられて、私やトルタンド様にはパートナーが出来る。

  友人のフォローをしつつ、自分達のパートナーを確保するアルバート様の案は見事だった。

  だがそれでも懸念すべきことはある。

「私の方はアルバート様自身が別のパートナーを用意するように仰られていたので問題はないのですが、トルタンド様はよろしいのですか? 新たな出会いを不意にしてしまうのもありますし、私達の醜聞に巻き込まれてしまう恐れもございます」

「ああ、それに関しては問題ない。私としても去年の事があるからそう簡単に次の婚約は決められないんだ。だから他の令嬢にあまり気を持たせるような事は出来ないし、君達程度の醜聞では私の強烈な醜聞には敵わんだろう」

  気を遣う私を労るようにおどけてみせるトルタンド様は「それに私をパートナーに選んでもらわないと来週の授業で私はボッチになってしまうな」と仰った。

「ふふっ……トルタンド様がボッチですか? それはいけませんね。では私でよろしければトルタンド様のパートナーにしてくださいませ」

「ああ。ボッチな私を救ってくれた事、感謝するよ。授業では立派にパートナーを努めさせてもらおう」

「はい、よろしくお願いしますわ」

  その場の空気を和ませようとしてくれるトルタンド様のお陰で私は久しぶりに肩の力を抜いて笑うことが出来た。

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