ヒロインはモブの父親を攻略したみたいですけど認められません。

haru.

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ー番外編ーヴィオレット*隣国編*

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騎士様達はセディルさんを無遠慮に見つめながら「へぇ~髪の毛切ったんだな。ま、流石に別人に成りすまないと生きてけないか。」「こんな所にいるとは思ってもいなかったから目を疑ったぞ。」「フッ・・・でも面の皮厚いよな。あんな事があったのに、また女を引っ掻けてるんだから」「それもかなりの上物だな・・・」「それも子供もいんのかよ。」「流石の手の早さか・・・クククッ」

セディルさんへの侮蔑の視線と言葉はやがて私達へと興味が移っていった。

(こんな暴言紛いの軽口、初めてかも・・・
イブ達のお陰でようやく町に馴染んできたって所かしら?)

ジロジロと眺められている貴重な体験に私が少し感心していると、セディルさんが今までで1番鋭く重たい殺気を放った・・・

「この人達は関係ない。止めろ・・・」

すると殺気にビビった様子だったが、それを隠すように大きな声で、「そんな事言っていいのかよ!罪人がッッッ!」と赤毛の騎士が怒鳴りあげた。

ココは私の腰にギューっと抱きつき顔を隠している。
(怖いよね・・・早くここから逃げないと・・)

私がココの頭を撫でながら思案していると・・赤毛の騎士がにやにやと私を見ながら、「この美人なお嬢さんは知ってるのか?お前のした事を・・・」と言ってセディルさんを鼻で嘲笑った。

「・・・ッ・・・俺は何もしていない・・・」

苦しそうに呟くセディルさんの瞳は薄暗く光の無い目をしていた・・・

「ハッ・・・お前はそればっかりだな。こっちには被害者がいるんだよ!!!」

「お嬢さん、貴女が騙されているといけないので教えてあげますよ・・・この見た目だけは良い男はね、自分の婚約者を無理矢理手込めにしようとした外道なんですよ。
家の商売が失敗して没落しそうだからってこの男は人としてやってはいけない事までしたんですよ・・・グズでしょう?」

「まぁ、そんなだから騎士団もクビになって伯爵家没落・・・典型的な転落人生ってやつですよ。今は運良く檻から出ていますが、本来ならこんな町中で歩けるような男ではないんです。貴女もこの顔が良いだけの男に騙されてはいけませんよ?・・・」

親切そうなフリをして嫌らしい笑みを浮かべる赤毛の騎士様・・・私は話を途中から流しながらココの耳を塞いであげた。

(真実かどうかなんて私にはわかんないよ。殺気立ってるセディルさんしか知らないし・・・
ただ言えるのは私はセディルさんに騙される程関わっていないし、それにこの赤毛の騎士様はかなりムカつく男だって事ね。)

とりあえず私にはセディルさんとこの赤毛の騎士様の関係には興味はない。だけどこんな町中で、しかも子供前でこんな発言や騒動を起こした事には少し頭にきていた・・・

今日の私は紺色のワンピースに髪は邪魔にならないように編み込んでもらっていて、少し地味なスタイルだ。だからなのか、若干嘗められている様子だが、元貴族令嬢として培った淑女スタイル全開で騎士様達へ戦いに挑んだ・・・

「あら騎士様に御忠告頂けるなんて感激ですわね?・・・ですが、私は噂などには疎い者ですから、この方がどのような方なのかは自分の目で見て判断致しますわ。」

「・・・なッ・・・・・・」

「それにしても騎士様ともあろう方が町中で、しかも子供の前でこのような下品な話をなされるとは残念ですわ・・・。もう少し我々への配慮を頂けたらと願います。」

私は悲しそうに見える視線と笑みを浮かべココを優しく抱き締めた・・・
そんなか弱い女性と怯えている子供を見た周囲の人達は、怪訝な顔や怒りの表情で、
「こんな町中で騒ぎを起こすなんて・・・」
「彼奴だろ?態度が悪いって言われてる騎士は・・・」
「絡まれてしまったのね。可哀想に・・・」
「最近美味しいお菓子を配っている子でしょ?あの子・・・震えてるわよ・・・」
「ケッ・・・あの様子なら隣の男性の話も嘘かもしれねぇぞ!」
「貴族様達の間に何があるかなんて俺達には知りようがねぇからなッッッ!!!」
ザワザワと住人達が声をあげていった・・・

そんな周囲の様子を見ていた騎士様達は顔をカァァァっと赤くして屈辱と怒りの色を瞳に宿していた。だが分が悪いのを感じとったのか、私達をキッと睨みつけて立ち去っていった・・・

その時赤毛の騎士様はセディルさん向かって小さな声で呟いた・・・
「エステリーナ様はまだお前を諦めていないぞ。」
恐らくその言葉はセディルさん以外には私しか聞き取る事は出来なかっただろう・・・

騎士様達が居なくなった事を確認すると私は穏やかな声を心がけながらココに話しかけた。

「ふぅ・・・ココもう大丈夫よ。」

私の背中から顔を上げたココはゆっくり周囲を不安そうに見回して騎士様達がいないのを確認するとホッとしたのか泣きそうな笑みをしていた。 

すると周囲人達が私達に向かって・・・
「大丈夫だったかい?」
「怖かっただろう・・・騎士様達に囲まれて」
「よく頑張ったね!」
と声をかけココに果物まで持たせてくれる人までいた。そしてその言葉はセディルにもかけられていった・・・

「それにしても礼儀のなっていない連中だったなッッッ!」
「あんたもあんな無礼な奴等の言葉に負けんじゃないよ!!」
「次はビシっとこの子等を守って株を上げな!」

背中をバシバシ遠慮なく叩いていく人達に困惑しているのか、目を見開きながら挙動不審そうに、「あ、いや、、俺は・・・あの・・・」ウダウダと言っているのをまた激励されていた。

「しっかりしなッッッ!」
「あんな奴にビビってんじゃないよ!」
「次はお前さんが顔だけの男じゃないって所をみせつけな!!」
「そうだ!そうだ!!!やってやれー!」
「そしてこいつは顔が良すぎるぞー!」

若干違う言葉も混じっていたが・・・
対応の仕方がわからない様子のセディルさんと何だかテンションの高い住人方々のやりとりは暫く続いて、私とココは面白くて少し離れた位置から笑って眺めていた・・・

あれから揉みくちゃにされたセディルさんと少し疲れた様子のココを引き連れて帰って来た私は先程の出来事を考えていた・・・

エステリーナ様はまだお前を諦めていないぞ。

(これは誰かがセディルさんを狙っているって事なのかな?)

私はセディルさんが俺は何もしていない。と言った時の目が気になっていた。

(あれは王城で見たお父様の目と同じだったな。全てに絶望して諦めていた目・・・)

それにあの赤髪の騎士様の言葉。
商売が失敗して家が没落・・・
婚約者を手込めにしようした・・・
騎士団をクビ・・・

どこまでが事実かわからないけど結構壮絶な出来事だ。

でも可笑しいのが1つあるんだよね・・・
本来令嬢なら襲われた事実はどんな事をしても隠そうと本人も家族も躍起になるはず・・・それなのに一介の騎士様にまでその事実が噂として流れているという事は意図的に誰かが噂を流したという事だ・・・

(どこの国でも変わらないのね・・・
事実かどうかもわからない噂に社交界が踊らされ、人が傷つくのは・・・)

貴族に戻らなくて正解だった・・・
私はそう思ってしまった。

孤児院の庭でレイとサンが弟子達を鍛えている姿を見ながらそんな事を思っていた。
すると・・・背後から低い声が聞こえてきた。

「今話しかけても大丈夫か・・・」

振り返るとセディルさんが気まずげな表情をしながら私と目を合わせた・・・

(睨まれる時以外で目が合うの初めてだ。)

私は問題ありませんわと伝え、自分の座っていた長椅子に座るように進めた。

「今日は迷惑をかけてすまなかった・・・」

セディルさんは申し訳なさそうに、自分のせいで絡まれたのにたいして守る事も出来ず、ココや私が標的にされてしまった。騎士に囲まれるなんて恐ろしかった筈なのにすまない・・・と謝罪してくれた。

「いえ、ココが怯えていたのは事実ですが、私もココも貴方のせいだなんて思っていませんよ?・・・まあ、騎士様達が礼儀知らずの愚か者だったのは許せませんがッッッ!」

私は先程言えなかった騎士様達への不満が沸々と沸き上がってきて勢いよく吐き出していった・・・
「人の事を無遠慮にジロジロと見てきて気持ち悪かったですわ!」
「それに子供がいるとわかった上でのあの発言!ありえないと思いますのッッ!」
「事実かどうかもわからない噂をベラベラと偉そうに語って・・・」

私は鼻息を荒くしながら元婚約者との婚約破棄の時からず━━━━━━っと感じていた社交界の人達への言葉を口にした。

「それに私は人の人生を面白おかしく語る噂が大嫌いですわッッッ!!!」

「人の事情に首を突っ込むなって話ですよ!全くッッッ!!!」

そんな私の淑女らしからぬ様子を見て遠くの方からサンとレイの言葉がうっすらと聞こえた。

「またあんな乱暴な口調をして・・・」

「ストレス溜まってた・・・」

苛立ちMAXの私は煩いと言わんばかりにキッとサンとレイに視線を向けた・・・

(ストレスも溜まるわよッッッ!
あの騎士様達の視線・・・・・・)

私は社交界で向けられた好奇な視線や嫌らしい視線や侮蔑の視線等を思い出していた・・・

「プッッッ・・・・・・」

そんな怒れる私や私達のやりとりを見たセディルは吹き出すように笑っていた・・・

(うわ・・・笑ってるの見るの初めて・・・
やっぱ美人の笑顔はレベルが違うな~)

 美形に近づくのは恐ろしい・・・
私の中でそう結論がついていたので突然、セディルさんの笑顔を直撃してもノーダメージでいられた。

(だって美形って何かしらやらかすんだもの。
まずはお父様でしょ・・・
その次に元婚約者・・・
そしてあの事件の関係者の王子様や貴族子息達がアレだものね・・・)

あの方々のやらかし具合を目の当たりにしていた私は美形には何か恐ろしい物あると確信していた・・・

「・・・ふぅ。悪かった。いきなり笑って・・だか貴女は変わってる人だな・・・」

笑いが治まったセディルさんは私を不思議そうに眺めた・・・ 

「出会った時からおかしかった・・・俺はあんなにも貴女を拒絶して睨みつけていたというのに、逃げずに立ち向かってきた。
そしてそれだけでなく、あっという間に孤児院の皆を変え、孤児院や町の雰囲気までも明るくしてしまった・・・」

「・・・いや町は言い過ぎでは?」

「・・・今日初めてだった。
あんなにも気さくに町の人達から話しかけられたのは・・・」

「え・・・それはいつもより殺気がなかったし、共通の騎士がいたから・・・あ、それに女子供がいて話しかけやすかっただけでは・・・」

「うっ・・・そ、それは・・・」

私の見も蓋もない言葉に遠くからツッコミが入った・・・

「折角心を開きだした相手に対しても、容赦ないですね・・・お嬢様。」

「・・・鬼。」

「ち、違うわよ!!
私は事実を言っただけで・・・」

そんなやりとりを見たセディルさんは何やら複雑そうな顔をして、話は始めた・・・

「わかってる。最初に会った時から俺は間違っていたんだ。」

「確かにあの時の俺は色々とあって他人を・・騎士や女を恨み憎んでいた・・・
だがそれを他の人間に、まして初対面の人間に当たり散らしていい筈がなかった。その後も俺は妙な事を始めた貴女を不信に思っていた。・・・自分の資金を投資と称して孤児に差し出す女などいる筈がない。これは詐欺だ・・騙されているのでは・・・と疑いの眼差しで監視していた・・・」

(あ、やっぱり監視されてたのね・・・)

「そんな無礼で自分勝手な俺なのに貴女は俺に他の人間と同じ態度で接してくれる。
彼奴等の言葉を聞いた今でさえも・・・変わらない態度だ・・・」

「これまでの態度や無礼、本当に申し訳なかった・・・謝罪をさせてほしい。」

そう言ってセディルさんは私やサンやレイに向かって頭を下げた・・・

「え・・・っと、とりあえずお気持ちはわかりました。謝罪は受けとります。
ですが、私を最初不信に思ったのは仕方ないと思いますよ?世間知らずの見知らぬ女がいきなりやって来て孤児院を変えようとしているのですから・・・それに態度が変わらないというのもそんな立派な理由ではないです。」

「ただ私自身が噂が大ッ嫌いだったのと、あの騎士様達の話には怪しい箇所がいくつもありましたから・・・だから私は自分で見て知った貴方を信じました。
殺気を振り撒く女性嫌い・・・そんな方がわざわざ女性を襲うなんてねぇ?」

(あんな憎悪の目で見て関わるのすら嫌がっていたのに、女性を襲おうなんて思わないでしょう・・・)

「ち、違う!いや違くはないが・・・
とにかく俺は婚約者を手込めなどしていない!」

あわあわと慌てて訂正するセディルさんは、如何に女が恐ろしく狡猾で狡い人間かは知ってるが全ての女性がそうではないと今は理解してる!だから決して女嫌いではないぞ! と大きな声で私に言ってくるセディルさん・・・

「そうですね・・・社交界の女性はズル賢いくらいでないと生き残れないのでしょうね。」

彼処の女性は怖いですからね・・・と私は遠い目をして苦笑した・・・すると・・・

「そこじゃありませんよ!何故そこが引っかかるのですか・・・」 
「・・・鈍感・・・・・・」

遠くからまたもツッコミがきた・・・

その後私達は改めて自己紹介を互いにして少しだけ距離が縮まった・・・





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