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襲われる馬車

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順調に馬車は走り続けていた。何時もながら舗装されていない道は私の身体にはキツかったが、だが今回は私を膝の上に乗せて衝撃から守ろうとしてくれるラルフがいた為、かなり快適な旅だった。

わかるよ。リュシアス・・・これは近すぎる距離だって・・・

でもお尻が痛いんだって!
馬車は凄い揺れるし、少しでも楽な体勢が取れるのならちょっとくらいの視線はしかたない。

呆れ顔のリュシアスを尻目に私はラルフの膝の上で大人しくしていた。

「やっぱり・・・アレな関係なんですね・・」
「き、禁断の・・・」

もう誰の声も聞こえない!
私は自分のお尻を守るんだから!!

そんな感じでまったりと過ごしていた私達。馬車の速度も速すぎる事なく、適度に進んでいた。そんな時・・・いきなり前方で御者を勤めていた男性が大きな声を上げた!

「あ、怪しい奴等に、か、囲まれましたぁ!馬車の速度を上げるのでしっかり掴まって下さい!」

そう言うといきなり感じていた揺れが酷くなり、馬車の加速を身体で感じることができた。

ルシカはこっそり窓から外を伺う。すると予想以上の光景だったのか、顔を青ざめながら「そ、外に馬に乗った大勢、馬車を取り囲んでいるようです・・」と言い背中に背負っていた弓を取り出した。

御者は必死に馬を走らせ取り囲んでいる奴等から離れようとした。だがここまで休憩無しで走り続けていた馬の体力は限界だった。御者の声や気持ちとは裏腹に徐々に失速していく馬車に、リュシアスは「この馬車はもう少しで止まるよ。止まった瞬間奴等は襲いかかってくる筈・・・準備はいい?」ルシカに厳しい視線で尋ねる。

「はい。大丈夫です。人数の多さには驚きましたが、やる事は同じです!・・・私が外に出たら大人しく馬車内に居てください。」

ルシカは先程の青ざめた顔からは考えられない程凛々しい男の顔をしており、流石は戦う事を生業として修羅場を経験してきた冒険者だと思った。

そして予想通り馬車が止まった瞬間ルシカは「行ってきますッ!」と言い馬車から飛び出していった。

「他の3台の馬車も同じ状況のようだね。 」

リュシアスが窓の外を覗き込みながら実況してくる。

「人数はざっと見て2、30人って所かな?見た感じ、身なりはあまり裕福そうでは無いし、やっぱり盗賊だね。あれは・・・。それに・・うーん。ちょっと苦戦してるな・・4人対30人じゃあキツいかなぁ?」

私達はその言葉を聞いて、いつ戦闘に加わる事になってもいいように心の準備と状況確認に努めた。その横ではマリカが涙目で震えながら「と、盗賊なんて聞いてないわ・・・。わ、私は叔母の所に行きたいだけなのに・・・ど、どうしてこんな事に・・・。嫌よ・・無理だわ・・こんな状況・・・うぅ・・・嫌よ・・」と言い自分の身体を抱き締めながらブツブツと呟いていた。

そんな様子のマリカを安心させようと何度も話しかけてみた私とリュシアスだったが、マリカの耳には届かず怯え続けていた。

「大丈夫ですよ。この馬車には手出しさせませんから・・・」
「落ち着いてください。マリカさん・・・」
「冷静さを失うのがこういった場では一番危険ですから。」
「彼等の人数の方が多くても、戦闘経験はダンジョンや討伐任務につく冒険者の方々の方が多い筈です。だから安心して・・・・・・って聞こえてませんね・・・」

私達がマリカさんに注意を向けていたその時、馬車の外での戦闘は激化していた。普通平民の中から魔法が使える者はそう現れない。だからこの襲撃も剣や弓や斧などを駆使した戦闘になると予想していた。あっても魔道具を使う者くらいだと・・・

だが馬車の外からの凄まじい音が聞こえて窓を覗き込んだ私達の目には黒焦げになった冒険者達の姿が映っていた。

「な!・・・彼奴等の中に魔法が使える者がいるのか?!」

冒険者達は身体を痛みで呼吸でを荒くしながら身体を地面へ横たえていた。馬車の中から判断するに命はあっても、これ以上の戦闘は不可能だと思えた。

「これは緊急事態ですね。・・・まずは私と、申し訳ないですがオリヴィアとで戦闘に行きます。ラルフは魔法を使わずに戦える自信があるのなら一緒に来なさい!」

「問題ありません。私も戦力として考えて下さい。」

「俺も戦えるよ・・・」

互いに戦闘の意思を確認して私達は馬車の外へと駆け出していった。

先陣をきるのはリュシアス。目の前の盗賊に容赦なく切りつけて戦闘不能へと追い込んでいく。そしてラルフは身軽さとスピードを武器に盗賊の背後へと回り込み一撃を食らわせていた。その間に私は息絶え絶えな4人の冒険者達を回収し、周囲に光魔法で結界をはった。

これがラノベなら光魔法で治癒とかあるんだろうけど、この世界では結界や浄化が光魔法の特化した力だからな・・・

全員ボロボロな姿だったが息はまだあり、黒焦げだった姿も近くから見たらそこまで酷い状態でなかったので安心した。

冒険者の安全を確保した私は戦闘に加わる事にした。光魔法と剣を駆使して切り込んでいた私は先程の魔法を使った者を探していた。

冒険者の状態から推測すると、あれは熱による火傷。火の魔法での爆発か何かだと思う。人前で闇魔法を使うわけにはいかないラルフと、魔法の適正が低いリュシアスの2人より自分がその相手と戦う方が良いと思った私は、周囲の状況に目を凝らした。

リュシアスもラルフも着々と盗賊を無力化していき、盗賊達の残りも5、6人となった。だが、魔法を使う素振りが見られない。それどころか周囲をキョロキョロと見回しながら何かを気にしていた。

何かを探しているの?
魔法を使える者が隠れているの?・・・

でも仮に平民が魔法を使っているのなら、そう魔力量は多くない筈だ。しっかりとした訓練も受けずに使っている者なら魔力制御も知らないから力の加減が出来ずに一度に力を使い果たしているだろう。それならこの状況で援護出来ない理由にも納得出来る。きっと隠れている者は先程の爆発で魔力を使い果たして倒れているのだろう。

だが盗賊達にとってそんな事、自分のピンチの前では関係ないのだろう。未だ身動きがとれていた盗賊達は怒鳴り声をあげながら「シドッ!何やってんだ!さっさとやっちまえ!!!」と叫びだした。

だが救援は現れず・・・

「「「う゛・・う゛ぅ゛・・・う゛・・」」」

暴れまくった私達は盗賊達を鎮圧し、馬車の回へと転がした。そして戦闘が終わった事にようやく一息ついていたその時、かなり慌てたリュシアスの声がその場に響いた。



「オリヴィア様ッ!!!後ろですッ!!!」




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