これはあくまでフィクションですが、私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?

芝 稍重

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5話 罪責回復の会 ※2022.03ミーティングの文字起こし

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会合名: 罪責回復の会(犯罪加害者や強い罪悪感を抱え苦しんでいる人向けの民間自助グループ)

開催場所:⚫︎⚫︎民間福祉センター

日時:2022年3月某日

参加者:9名


(※録音データから書き起こし。個人名は元より伏せて行う趣旨のミーティングです)





司会
「時間になりましたので始めます。
 ここは、罪悪感や依存、過去のあやまちによって生きづらさを抱えている人のための語り場です。
 他人の発言を外に持ち出さないこと。絶対に否定しないこと。助言は求められたときだけすること。
 それぞれお名前は皆さんに配ったアルファベットで呼び合うこと。
 これらを必ず約束してください。

 ここで話すことは、たとえどんな内容であろうと架空の出来事として捉えることとします。どんな内容であっても、ネットなどに晒しあげたり、然るべき機関に通報するといったことはご遠慮ください。

では、Aさんから右回りで話したいことを語ってください。よろしくお願いします」




A(男性)
「アルコール依存と戦っています。酒で人生の全てを失いました。
本当に、全てです。
家族も仕事も家も尊厳も希望も……全て失くしました。
一番後悔しているのは、酔っ払って暴れたせいで、子供の卒園式に出られなかったことです。
子供は多分、私の酔っ払ってる姿か、酒を切らして当たり散らしてる姿しか覚えてないと思います。
今更許されるとは思ってませんが、いつかシラフで会って、私の笑っている顔を娘の記憶の端に残してもらいたい。それが今の夢です。

それなのに、正直今も飲みたい。
本当は、アルコールを飲んでいない時間が例え一時間、一分、一秒だったとしても、飲むことを我慢しているだけなんです。
妻と娘が出ていって、後悔と罪悪感に苛まれつづけても、何も変われてないんです。
でも、ここに来ると少しだけ前に進めた気がします」




司会
「ありがとうございます」




B 女性
「私は、薬物依存症です。
回復のための施設を出て十年にもなりますが、まだ忘れられません。
許されることではありませんが、先週も手を出してしまいました。
せめて嘘をつかない生活をしたくて、ここにきました」




C  男性
「……僕は、犯罪者です。交通事故でした。
当時激務の長距離運転手で、昼夜ぶっ通しの勤務に参っていて、居眠り運転をしてしまいました。
今思うと、今どこにいるのか、朝方なのか夕方なのか、混乱することがなん度もありました。
自分がおかしくなってることを自覚してた瞬間が確かにあったのに、こんなことを起こすまで働くことを辞めなかったんです。

結果、命を奪ってしまった。
業務上過失致死罪……つまり、交通事故ということになっていますが、これはもう殺人です。自分ではそう思えてなりません。

刑期は終えましたが、殺人であるならば刑罰が足りません。僕はまだ、終わってないんです」





司会
「ここでは、終わらなくてもいいんです。抱えたままで」

(長い沈黙)






D(女性)
「私は、目撃者です。
幼い頃、自分より小さな子供が殺されるところを見ていました。でも、何もできなかった。
怖くて怖くて、ただ黙っていたんです。
ショックが大きかったので、当時の記憶は、飛んだり混濁したりしているのですが、その場面だけは忘れたことがありません。

あまり詳しいことは言いたくないのですが、死んでいく女の子と、鬼の面をつけた人たち。それから、その瞬間に聴こえてきた外国語の民謡のようなものが忘れられないんです。

哀愁があって、包容力のある、とても綺麗な曲でした。
だいたいこんなかんじです」

(鼻歌で曖昧なメロディーを口ずさむDさん)
※記録者注:沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」に類似する旋律



司会
「なんだか、聴いたことある気がしますね」




D
「今でもこの歌が、罪悪感とともにぐるぐるぐるぐる回り続けて、毎晩夢に出るんです。
その死がどう処理されたのかは知りませんが、私はもう抱えきれないんです。
もう誰でもいいから、私を罰してほしい」





G(女性)
「すみません。詮索じゃないので発言しても良いですか……?」




司会
「詮索や否定は禁止ですが、Dさんがよければ構いませんよ。ここはそういうところです」




D
「構いません」




G
「ありがとうございます。
これは単純な疑問なのですが、Dさんは当時子供で、犯人というわけではないですよね」




D
「はい」





G
「それなら、全く罪はありませんよね。
まあ具体的な内容をきいていないのでわからないことも多いのですが、その上で……
ちょっと状況がおかしい気がするんです。

Dさんは“鬼の面をつけた人たち”と言いましたよね。
普通に考えたら、大人数で一人を殺すというような構図です。
……いえ、これはあくまで詮索とかじゃないんですよ?
でも、単純に“やばい事件”じゃないですか。
それなのに、どう処理されたか知らない……ってなると、やっぱり幻覚の一つだったんじゃないかなって。
なにか精神的な影響から見た幻覚である可能性があると思います。
つまり、Dさんが苦しむ必要ないんじゃないかな……っておもいました」




D
「どういうことですか?」





G
「当時の意識が混濁していると言っていましたよね?
実は、私も薬物依存で苦しんでいるうちの一人なんですが、私が幻覚をみるときとちょっと似ているなって思ったんです。
現実で整合性がとれないのにもかかわらず、本気で怯えているからです。
だとすると、あなたは悪くない。誰も見殺しにしていないし、死んだ子もいなかった。
その可能性を伝えたら、あなたは少し楽になる道があると思います。
私たちと違って、悪いことはしてないんですから」




D
「整合性が取れない……っていうのは、どのあたりですか?」




G
「犯人集団らしき“鬼”に見られているのに今も生きているところ。それに、見捨てたという恐怖はあるのに“殺される”という恐怖がないところ。あと、その現場にいたのに、その事件について詳しく知らないところです。
人が亡くなったのなら、病気でも事故でも、警察がきて聞き取りをされたり、家族からどうなったか教えられたり……何かしらの動きとか、後日談があるとおもうんです」




B
「私も口を挟んでいいですか?」




D
「もちろん。ありがとうございます」




B
「私も似たように感じました。ただ、思い当たった可能性がちょっと違いました。もしかしたら笑われちゃうかもしれないんですけど……」





司会
「此処で人を揶揄したり嘲笑するような行為は禁止しています。禁止事項にあたらず、相手がゆるしているなら自信をもって発言しましょう」




B
「はい……実は、整合性がとれないっていうのはGさんとおなじように思いました。だから私は、それが心霊現象なんじゃないかな……っておもったんです」




D
「どちらも考えたことがありませんでした。その……すごくリアルな記憶だから」




B
「幻覚の方面は私にはわからないんですが、リアルだから心霊現象ともいえます。
なんて言ったらいいか、とても難しい感覚で……経験したことがある人ならわかるとおもうんですが、リアルなのにありえないから“心霊現象”だと思うと思うんです。
Dさんはその内容が、たまたま“ありえてしまう”ことで、さらに判断能力のない年齢だったことも影響して、リアルだと思ってしまったのではないですか?
Gさんも言ってましたけど、お面被った人が数人で小さな子供を殺す事件なんかがあったら、大ニュースになるとおもうんです。
此処にはいろいろな年齢のひとがいるのに、その事件にピンとくる人がいない。
だから“心霊現象”と考えてもいいと思うんです。
そうすれば、Dさんが罪悪感から抜けられる可能性はあると、私もそう思います」






(以下省略。Dの出番や様子のわかる音声なし)

※Dはその後の出席なし。

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