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第7話 引きこもり
しおりを挟む姉が憎い。
畠中泉は、暗い六畳の自分の部屋で布団をかぶり実家に顔を出してきたアキを泣きながら呪っていた。
大学時代から人間関係がうまくいかなくなり、21歳から25歳までの今まで実家に引きこもっている。
母親からは頭がいかれた娘扱いをされ、クリニックではうつ病の病名と山ほどの薬を渡され、4歳上の姉のアキは結婚して娘までいる。
昔から人間関係が上手かった姉のアキは、自分と違い世間体も社会との折り合いも良く両親にとっても自慢の娘だ。
それに比べて大学を中退して、家から出られなくなった自分は人生のドン底だった。
同級生は、ほとんどが就職するか結婚して自分の人生を歩んでいる。それに比べて私はどうだ。
大学にも行けず、就職も出来ず、結婚も出来ず、親の金と国の障害者の支援に頼って生きている。
未来すら、鏡が砕け足元に散らばった破片になり歩くのさえ足が痛み血がにじみそうだ。
姉の家族が来てから、母親に無理矢理またクリニックに連れていかされ薬が増え、担当医からはゆっくり治療していきましょうとあてにならないアドバイスをもらってから2週間、泉は部屋からほとんど出なかった。
世にいう引きこもりだ。
病名があるぶん、まだ病人として国から認定されているだけで私には何もない。
何度も何度も命を絶つ事を考え、未遂も起こした事はあるが結局は命を絶てなかった。
65歳の母親ともうすぐ還暦が迫り何とか働いている父親の収入で暮らしている。
泉が引きこもりになってから親戚一同は、畠中家を腫れ物扱いしだし疎遠になってしまった。
その間に、姉のアキは結婚し娘を産み旦那の直人さんと暮らしている。
「また泉は、騒いだのか・・・」
1階のリビングから帰宅した父親の疲れきった声が聞こえる。
「そうなの、先生もいつになったら治してくれるんだか。泉がいたんじゃ孫娘にも会えないわ」
母親の盛大なため息が聞こえた。そのため息がまるで刃のように泉の心に深く刺さった。
ー泉がいたんじゃ孫娘にも会えないわー
瞳から無意識にボロボロと涙が出てくる。
私がいるから、私が生きてるから両親が楽しみにしていた孫娘にも会えないのか。
私さえいなければ・・・。もうどこにも居場所すらない。この自分の部屋ですらどこか他人行儀だ。
来月のクリニックを最後にもうこんな人生を辞めてしまおう。そうすれば子供の頃は仲の良かった姉すら憎まなくてすむ。
泉は電気を消したままの窓から入りこんでくる淡い白い月明かりのみの薄暗い部屋の布団から、ゆっくり起き上がるとテーブルに置かれた山ほどの薬の中から睡眠薬を取り出し、ペットボトルの水で一気に10錠飲み込んだ。
またフラフラと布団にもぐり込み、目を強くつむる。嫌でも眠りがくれば、現実を忘れられるから。
布団の中に入れていたスマホが通知で光った。
スマホを手にすると、それは憎い姉のアキからのLINEだった。既読もせずスマホの電源から切った。
もう、何もかも見たくない。もう何もかも聞きたくない。
淡い月明かりの暗闇の中で、泉は深い眠りへと落ちていった。
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