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第6話 夫婦
しおりを挟む「私達、出来ちゃ・・・授かり婚なの?」
仕事から帰ってきた、転生前の元カレでありアキの旦那になっていた直人にリビングにいる娘の愛を心配しながら、小声で聞いた。
スーツを脱ぎながら、直人は不思議な顔をした。
「授かり婚て言うより、結婚決めて結婚準備している間に授かった子だから、授かり婚と言えば、授かり婚だけど、ちゃんと籍は入れてたしなあ、突然どうしたの?」
何だか、のらりくらりとした返答が返ってきたが、勘がよいのは直人らしい。
暗い顔していたのか、直人がすぐに気がついた。
「何か、あったのか?」
転生前には、うつ病になり休職中だという大義名分のもとに、アキだけを結婚式に呼ばなかった男が、今では目の前でアキの心配を本気でしている。
アキは、心の中がざわざわした。
ずっと隠していても、あの勢いだ。いずれ直人にもばれるだろう。
転生して、人生が入れ替わっているのだ。
直人と夫婦になるはずの近藤奈美が、アキの立場に入れ替わっている。アキの背中を冷たい汗がつたう。
自分の転生前の人生は、耐えきれなくて、重すぎて、命を絶とうとしたのだ。その人生をアキの代わりに肩代わりしている。
「こ、近藤奈美さんて、覚えてる?」
自分の声がか細く震えている。
「近藤?奈美?」
部屋着に着替えながら、直人は顔をかしげた。まるで本当に知らないように。
「ああ、思い出したの?」
直人が暗い顔をして、アキの顔をのぞき込んで不安そうな顔をした。
「俺の大学時代の元カノのストーカーだろ?まさか、何かあったの?」
「えっ?」
アキの頭の中は、一瞬まっ白になった。人生が入れ替わっているんじゃないの?動揺して無口になっているアキの頭を直人が撫でた。
「俺が卒業後もつきまとわれて、アキと結婚する時に、アキをホームから突き落とそうとして捕まっただろ。精神的に錯乱してて情状酌量されたけど。実家に問題あったとかで・・・」
直人が悔しそうに、眉間にシワを寄せた。
違う。転生して人生が入れ替わっているんじゃない、人生ごと変わっているのだ。
「何か、昼間に無言電話があって、気になって」
アキは、詳しくを話さず一言だけ言った。
「え?何で早く言わないんだよ、警察に連絡しなきゃいけな・・・」
アキが思わず、直人の腕を掴んだ。
「また、またきたら相談しよう」
自分でも気がつかなかったが、手が震えている。直人がその手を掴んだ。
ああ、そうだ。直人の手は指はすらりと長いのに男らしくゴツゴツしている。アキの小さな手がおさまる。
「本当に大丈夫?」
気がつくと、両目から涙がポロポロ流れていた。私は、この人を本当に愛していたのだ。暖かいこの手が、好きだった。
今は、この人と生きていきたい。
「お母さん?」
後ろから、部屋で眠っていたはずの愛が泣きそうな顔で、2人を見ていた。
「どっか、いたいの?」
愛が小さな手をアキの腕を握ってきた。
慌てて涙をふいて、アキは愛を抱きしめた。
「ちがうの、お母さん愛とお父さんがいてくれて幸せで泣いてるの」
愛は不思議そうに首をかしげた。
「しあわせでも、泣くの?」
愛は、まだ子供の甘い匂いがする。潰さないように、もっと抱きしめた。
「そう、大人になると幸せになってもなくの」
よく分からないような愛がうなずいた。
今のアキには、解けそうもないこの転生した世界を知る前に、目の前にいるこの2つの命を大切にしよう。
転生前のアキから見たら、かなり勝手だろう。それでも、このチャンスを逃したくはない。
この先、どうなるか分からないが今だけでもいい。アキはすがるような気持ちに胸をしめつけられた。
手からこぼれ落ちないように、アキは愛を抱きしめて、仕方なさそうに笑う直人を見上げた。
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