転生したらパラレルワールドでした

桜海 ゆう

文字の大きさ
5 / 8

第5話 彼女

しおりを挟む

  アキが転生して、7日経過した。
  娘が近くの幼稚園、大人の足で徒歩10分のグリーン幼稚園に通園している事を知り、パソコンの動画で見よう見まねでお弁当を作り娘の愛を送り出した。


   ありがたいことに、幼稚園バスはアキの家の周辺には同世代の子供がいないらしく、ママ友とは会わずにすんだ。


 担当の先生も、人当たりの良い20代前半の笑顔がヒマワリのように明るい先生だ。


   実家から、母親が妹を心転生する前にアキが通院していた心療内科に行かせるという電話以来、LINEも電話もこない。


  どこかで、ほっとしている自分がいた。アキが転生する前は、妹家族がいる実家には邪険にされ、最後の通院日に人生すら終わらせる気でいたのだ。


 なのに、立場が逆転したとたん自分は妹の泉を遠ざけている。


  これでは、転生前に妹家族と両親がアキにしていた事と同じではないか。アキは苦い気持ちがじわじわと心に広がるのを感じた。


  電話くらいしようか。

 迷った末、慣れない家族分の洗濯や買い出しや家事をかたずけて、受話器をとろうとした時だった。


 電話のベルが勢いよくなった。アキは転生する前にブラック企業でうつ病になり、燃え尽きるまで、散々クレーム対応の電話処理に追われ、電話に対してひどい拒否反応がでる。

  数回すると、ピタリとベルは止んだ。時計を見る。

  
  11時5分。まただ。

  夫が仕事に出て、愛を幼稚園に送り出し、家事を終えると見計らったように電話が数秒鳴り、切れるのが7日は続いている。

  見ると、非通知ではなく相手の電話番号が表示されている。


   転生後のアキの世界は、何もかも立場が逆転している事だけは分かる。だからなおさら怖いのだ。


  職場の他の女性と出来ちゃた婚をした元カレは、今のアキの夫になっている、夫の直人の両親とは、お正月に1度だけしか挨拶ていどしかあった事がない。


 転生後、結婚していない妹の泉の夫は、この世界でどこにいるのかすらアキには分からない。


 すると、珍しくまた電話が鳴った。反射的に体がひきつったが、アキは思いきって受話器をとる。


  「はい・・・」
 あえて名乗らず電話をとると、無言だ。いたずら電話だろうか?

  プツリ、プツリ、と電話が通じている音はする。


 「直人を、直人を私に返して」
 その声にアキは、凍りついた。声の主は、アキが転生する前に、夫の直人と出来ちゃた婚をして、うつ病のアキだけをわざわざ結婚式に呼ばなかった近藤奈美だ。


 アキがうつ病になり、直人との別れ話が出た頃、あっさり直人は職場の奈美と付き合いだし、子供が出来て結婚した。


 アキが休職中という事を理由に、アキだけが職場で1人だけ結婚式に呼ばれなかった。


 あからさまな奈美からの嫌がらせだった。


  直人は、職場では仕事も出来て、それなりに見た目も良い。付き合い始めたのはお互い同期で話が合ったからだったが、だんだん仕事で頭角を現してきた直人は、女性社員にモテた。


  アキがうつ病になってからも直人は、支えてくれたが仕事や付き合いで、徐々にアキから距離が離れていくのが分かり、フェードアウトするように、アキの休職と共に別れた。


 正直、ホッとする気持ちと、アキと別れた後、すぐに奈美と結婚した事は複雑な気持ちが半々なままだった。

  
  おまけに子供まで産まれたのだ。


 「ちょっと!聞いてるの?」
 金切り声のような奈美の声に、現実に引き戻された。


 「直人だけでもいいからさ!ガキはいらない!」
  近藤奈美は、交遊関係も広く職場の女性同士とも上手く人間関係を築き、物事をストレートに言う人だったが、ここまでキツイ発言はしない。


 「あんたが直人とでき婚なんかしなきゃ、直人は私が結婚してたのよ!」
  アキは、頭の後ろをガツンと殴られるようだった。


  私が、直人と、でき婚?

    アキが呆然としているとダムが決壊したように奈美がまくしたてたが、支離滅裂で全てがアキの頭を素通りする。


 ガチャンッ!とひどい音をたてて電話は、一方的に切れた。


 ツー、ツー、という呼び出し音だけが響いていた。


  なぜか、アキの両目から涙が流れた。


 欲しかったものが、周りにあるのに何でこんなに生きるのは、胸が痛むのか。


 我にかえり、時計を見るといつの間にか1時になっている。

 
  愛を迎えに行く準備をしないと、確かもうすぐ夏休み前のプールの時間が始まると幼稚園からきたメールに書いてあった。


 アキは、転生前に頭をぶつけ粉々になった血まみれの鏡台に向かう。


  鏡は傷1つなく、アキを映し出した。


  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~

ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。 絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。 彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。 営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。 「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」 転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。 だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。 ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。 周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。 「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」 戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。 現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。 「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」 これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。

ずっと一緒にいようね

仏白目
恋愛
あるいつもと同じ朝 おれは朝食のパンをかじりながらスマホでニュースの記事に目をとおしてた 「ねえ 生まれ変わっても私と結婚する?」 「ああ もちろんだよ」 「ふふっ 正直に言っていいんだよ?」 「えっ、まぁなぁ 同じ事繰り返すのもなんだし・・   次は別のひとがいいかも  お前もそうだろ? なぁ?」 言いながらスマホの画面から視線を妻に向けると   「・・・・・」 失意の顔をした 妻と目が合った 「え・・・?」 「・・・・  」 *作者ご都合主義の世界観のフィクションです。

処理中です...