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第2話 光る
しおりを挟む「何、その言語?」
サクラのパソコンにアジアの見知らぬ国、イージロクからメールが来たのは、翻訳の仕事の締め切りの前日だ。
とりあえず、英語でメールの送り先を間違えている事と自分は日本人である事だけを返信して、翻訳の仕事を終わらせた。
パソコン画面を覗きこんできたシェアハウスをしているイラストレーターの田仲由実もサクラも、ちょうど仕事が一段落して、2、3日買い物や遊びに行くつもりだった。
「あー!この前送られてきたスパムメール?」
朝は、コーヒーしか飲まない由実がサクラの後に立ち、コーヒーの芳ばしい薫りを放つ。
「それが、違うみたいなの」
午後から買い物に行く予定を由実に夕方にずらしてもらい、サクラは国際言語辞典を片手に、知らない言葉と格闘している。
日本語と違い、どうやら主語が逆のようなのだ。
辞典でも日本語で言う、あ行からん行まではあるが、組み合わせ方が分からない。
「ほっといたら?そんな知らないメール・・・サクラ、仕事で疲れてるんだし」
由実が後ろから、心配をしてくれていたが、サクラは生返事をする。
結婚まで考えていた彼氏と30歳で別れ、翻訳家と言えど収入は不安定、由実との買い物やストレス発散も仕事も楽しいが、何か他の事で、気でもまぎらわしていないと、頭がおかしくなりそうなのだ。
メールの最後に名前らしき、一行がある辞典で一字一字、解読していく。
「クテグ・テ・ジョン?て、読むみたいだけど、どこが名前か名字か」
パソコンと格闘していたせいか、肩も目も限界だった。
少し投げやりになりだしたサクラは、英語で自分は日本人で、SAKURA DOBASHI と言う名前で、貴方の国の言語が分からず困っている。あなたの名前は、クテ・グテ・ジョンですか?
と、短文だけ打ちメールを送信した。
思い切り伸びをした後、サクラは由実に夕食を奢る事を待たせたお詫びとして、出かける準備を始めた。
最近、だんだん春めいてきて春着の服がないので買いに行くつもりだ。
メールの送り主も、こちらがその国の言語をよく分からないと伝えれば、そのうちこなくなるだろう。
だが、サクラは少し寂しい気持ちにもなった。知らない国の知らない言語を話す人から、偶然きたメールが、これで終わりになる事に。
少し落ち込んでいた顔をしていたのだろうか。
「サクラ、そんな変なメール相手にしてるんだったら、合コンなりマッチングアプリの方がましだよ、行こう、暗くなってきた」
由実がコートを着ながら励ましてくれる。
「合コンねえ・・・」
次から次に男が途切れない由実だが、サクラは1人と長く付き合う。その分、辛いのだ。
電気を消して、ドアを開けるとまだ冷たい冬の風が吹いていた。
真っ暗になった部屋に置かれたサクラのパソコンに、メール着信のアイコンが光った。
暗闇の中で、それはまるで心臓を打つ脈のように青く点滅し続けていた。
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