10 / 12
愛する人の世界
しおりを挟む妹の世界から、愛する人の世界まで行く列車の中で、バレとブランドはお互い自分達の家族の話をした。
「父にあった時は、ショックだったけど、母や祖父母や兄弟や姉弟に会って、自分も歳を重ねて、家族でも誰もが不出来で愛おしい人間で、家族の役割を果たしている事が分かったわ。もちろん、私も」
バレの話しにブランドは、静かにうなずいた。ブランドの父親は、バレの酒飲みの父親とまた違い、ギャンブルに溺れていた。
今思えば、宙の国を出てから、家族以外とたくさん話をして、お互いの家族の話をして、お互い歳をとるのを見ていているのは、ブランドだけだ。
宙の国にも、この8つの世界にも、こんなに人間が溢れているのに、心がかよっているのは、ブランドだけのような気が、バレはした。
「愛する人の世界では、誰に会うのかしら。なんだか、怖いわ」
バレは列車の窓の外を眺めながら呟いた。
「大丈夫さ、ただの宙の国の義務だよ。気楽に会えば良いだろ?」
ブランドは、バレに優しく微笑んだ。
最初に会った時のブランドは、この世界に絶望し、冷めていた。バレは、この世界を拒否し、心を閉ざしていた。
お互い、どこか似ているのに、違う。
ふと、バレは、ブランドはどんな愛する人と会うのだろうか?と思い、嫉妬した。
バレが初めて覚えた「嫉妬」の感情だった。
ブランドは、穏やかな瞳で列車の窓の外を見ていた。
愛する人の世界の地図を見ると、妹の世界から列車で3時間、命が尽きる世界、としか記されていなかった。
バレは、急に不安になった。私には、愛する人がいるのだろうか?
「いるさ、バレに愛する人はいるよ」
目の前のブランドが優しく、微笑んだ。
愛する人の世界の駅は、駅だけがあり、駅員はいなかった。宙の国と同じように、駅の外は、ただ、ただ、草原だった。
「え?」
バレは、動揺したが、横にいるブランドが大丈夫だと言った。
草原には、宙の国を出た時とは真逆に、数千人を越える90代の男女がいた。
バレは90歳になっていた。
草原には、すでに男女や同性同士で寄り添う二人連れの老人達が、歩いていた。
バレは、辺りを見回したが、誰1人としてバレを見なければ、声をかける事もなく、ゆっくりな歩幅で歩いていく。
バレは、たとえ愛する人がいなくても、この愛する人の世界の駅を出れば、グランドの言う「脱落者」になり、宙の国で、番人として永遠に生きる事を知っていた。
バレは、老いた体と旅の疲れに、愛する人を探すのを諦めだした。
「このまま、番人として永遠に生きるのも良いかもしれない」
思わず、初めて弱音が出た。今頃、ブランドは愛する人を見つけて、この草原のどこかにいるのだろうか?
「バレ?」
ぼんやりと、宙の国から出た時と同じような青い空を見上げていたら、声をかけられた。
ゆっくりと、振り向くとそこには、ブランドが立っていた。
「ブランド?」
ブランドは、まだ愛する人を見つけていないのだろうか?ゆっくりと、バレはブランドに向かい歩きだした。
ブランドも歩みよった。
「何で、泣いているの?バレ?」
ブランドに言われて、自分が初めて涙を流している事に気がついた。
「あら、やだ。歳かしらねえ」
色白のシワだらけになった指で、バレは涙をぬぐった。
「僕の愛する人を知りませんか?」
突然、ブランドが訳の分からない事を言うので、バレは戸惑った。
「宙の国で産まれた時、愛する者同士の片方の人間は、自分の愛する人を知って産まれるんだよ。僕が目覚めた時、一番に目に入ってきたのは、宙の国の義務を果たすのに必死な子供達の中、1人、この世界を楽しそうに眺めている、色白で、茶色の瞳の茶色の髪をした女の子だった」
ブランドは手をバレに差し出した。
「初めまして、僕の愛するギルバー・バレ」
ブランドは、手をさらに差し出し、バレの右手を握った。
ああ、この人だったのか。バレは泣きながら、喜びと愛しさが涙で溢れ、ますます、わんわん泣いていた。
愛する人の世界では、この世界に来た時よりも、気がつくと、前までいたパートナー同士の老人が、数百人は消えていた。
この世界では、義務を果たして最期の1ヶ月が経過し、命が尽きると、愛するもの同士、姿形なく、消えていくらしい。
バレとブランドは、草原で手をつないで歩いたり、夜には寄り添って眠った。
バレにも宙の国から出て、なぜ子供が産まれるかは知っていたが、なぜすでに自分の家族がいるのかは、知らなかった。
「きっと、僕らは義務を果たすのに必死で、なぜ、この宙の国で義務を果たさなければならないのかまでは、考えずに生きてきたんだろうね」
ブランドが、バレの右手をつなぎながら、夕日の中をゆっくり歩いて、呟いた。
愛する人の世界では、もうすぐ3週間半経過する。ブランドとも自分の命とも、最期だ。
バレは、急に心が千切れるような、心の痛みに襲われた。
グランドは、何かを察して、バレの手を強く握りしめた。白髪まじりの金色の髪が夕日のオレンジに、照らされ、透き通るような美しいスズランの花のように輝く。
バレは、ますますグランドが愛おしくなった。
バレとグランドの横を通る、オレンジの髪をした老夫婦が、駅へと向かっている。
番人として生きるのだろうか?
バレが、白髪まじりのオレンジの髪の女性に、頭だけで会釈をすると、幸せそうな笑顔で会釈を返してきた。
「宙の国へ行かれるの?」
失礼だと思いながら、バレは最期だと思い聞いた。
2人がバレとグランドに近寄ってきた。
「あなた達は、行かれないの?仲の良さそうなお2人だけれど」
さすがのグランドも、きょとんとしている。
2人は、もっと二人の近くに寄った。「あなた達、この宙の国の秘密を知らないのね。選ぶか選ばないかはあなた達しだいよ」
老婆が言う。
宙の国では、義務もあるが、秘密もある。みんなが知っている秘密ではない。その老婆に、宙の国で産まれた時に、秘密をこっそり、教えてくれた番人がいたと言う。
この世界では、もう一度生き返る事が出来る。
この宙の国では、命が尽きる前に愛する人と、この愛する人の世界の駅を出ると、宙の国で罰を受け、番人として永遠に生きなければならないが、愛する人と生きる抜け道が、再び訪れる。
番人として、子供達に荷物と地図を渡しながら生き続けると、宙の国ではもう一度、もう1人の自分が1度だけ産まれてくる。
その子を見つけて、荷物と地図を渡し、一言かければ、もう1人の自分は、宙の国の金色の門を通った瞬間、10コ目の世界、自由の世界に飛ばされ、愛する人の世界で出会った人と、添い遂げ、家族を作れると言う。そして、番人である自分は、消える。
夕日の中、2人の白髪とオレンジの髪が、炎のように揺れていた。
にこりと笑うと、その2人は駅に向かった。
バレとグランドは、目を合わせた。
よく見ると、繋いでいる手が、夕日のオレンジ色の中でゆらゆらと消えかかっている。
心を決めたように、バレとグランドは、何も言わず駅に向かった。
まだ、この人と一緒にいたい。バレは強く願った。グランドも、バレの消えかけている手を強く握りしめた。
夕日から、空は夜空になって、月が綺麗に淡く白く輝いている。
駅につき、 バレとグランドが世界から出ようとするのを、無表情な駅員は見ているものの、止めようとはしない。
バレとグランドは、手を繋いだまま駅のホームに立った。
星空の暗闇が、バレとグランドを一気に包み込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる