9ツノ世界と儀式

桜海 ゆう

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愛する人の世界

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    妹の世界から、愛する人の世界まで行く列車の中で、バレとブランドはお互い自分達の家族の話をした。

     「父にあった時は、ショックだったけど、母や祖父母や兄弟や姉弟に会って、自分も歳を重ねて、家族でも誰もが不出来で愛おしい人間で、家族の役割を果たしている事が分かったわ。もちろん、私も」


   バレの話しにブランドは、静かにうなずいた。ブランドの父親は、バレの酒飲みの父親とまた違い、ギャンブルに溺れていた。

   今思えば、宙の国を出てから、家族以外とたくさん話をして、お互いの家族の話をして、お互い歳をとるのを見ていているのは、ブランドだけだ。

    宙の国にも、この8つの世界にも、こんなに人間が溢れているのに、心がかよっているのは、ブランドだけのような気が、バレはした。


    「愛する人の世界では、誰に会うのかしら。なんだか、怖いわ」
  バレは列車の窓の外を眺めながら呟いた。

     「大丈夫さ、ただの宙の国の義務だよ。気楽に会えば良いだろ?」
   ブランドは、バレに優しく微笑んだ。

   最初に会った時のブランドは、この世界に絶望し、冷めていた。バレは、この世界を拒否し、心を閉ざしていた。

    お互い、どこか似ているのに、違う。

  ふと、バレは、ブランドはどんな愛する人と会うのだろうか?と思い、嫉妬した。

   バレが初めて覚えた「嫉妬」の感情だった。
ブランドは、穏やかな瞳で列車の窓の外を見ていた。

    愛する人の世界の地図を見ると、妹の世界から列車で3時間、命が尽きる世界、としか記されていなかった。

   バレは、急に不安になった。私には、愛する人がいるのだろうか?

  「いるさ、バレに愛する人はいるよ」
  目の前のブランドが優しく、微笑んだ。


  愛する人の世界の駅は、駅だけがあり、駅員はいなかった。宙の国と同じように、駅の外は、ただ、ただ、草原だった。

    「え?」
  バレは、動揺したが、横にいるブランドが大丈夫だと言った。

   
   草原には、宙の国を出た時とは真逆に、数千人を越える90代の男女がいた。

  
    バレは90歳になっていた。
   草原には、すでに男女や同性同士で寄り添う二人連れの老人達が、歩いていた。

    バレは、辺りを見回したが、誰1人としてバレを見なければ、声をかける事もなく、ゆっくりな歩幅で歩いていく。


     バレは、たとえ愛する人がいなくても、この愛する人の世界の駅を出れば、グランドの言う「脱落者」になり、宙の国で、番人として永遠に生きる事を知っていた。

    バレは、老いた体と旅の疲れに、愛する人を探すのを諦めだした。

   「このまま、番人として永遠に生きるのも良いかもしれない」
   思わず、初めて弱音が出た。今頃、ブランドは愛する人を見つけて、この草原のどこかにいるのだろうか?

     「バレ?」
  ぼんやりと、宙の国から出た時と同じような青い空を見上げていたら、声をかけられた。

    ゆっくりと、振り向くとそこには、ブランドが立っていた。

     「ブランド?」
  ブランドは、まだ愛する人を見つけていないのだろうか?ゆっくりと、バレはブランドに向かい歩きだした。

   ブランドも歩みよった。

   「何で、泣いているの?バレ?」
ブランドに言われて、自分が初めて涙を流している事に気がついた。

     「あら、やだ。歳かしらねえ」
   色白のシワだらけになった指で、バレは涙をぬぐった。


   「僕の愛する人を知りませんか?」
   突然、ブランドが訳の分からない事を言うので、バレは戸惑った。

    「宙の国で産まれた時、愛する者同士の片方の人間は、自分の愛する人を知って産まれるんだよ。僕が目覚めた時、一番に目に入ってきたのは、宙の国の義務を果たすのに必死な子供達の中、1人、この世界を楽しそうに眺めている、色白で、茶色の瞳の茶色の髪をした女の子だった」

   ブランドは手をバレに差し出した。

  「初めまして、僕の愛するギルバー・バレ」
 ブランドは、手をさらに差し出し、バレの右手を握った。

   ああ、この人だったのか。バレは泣きながら、喜びと愛しさが涙で溢れ、ますます、わんわん泣いていた。

    愛する人の世界では、この世界に来た時よりも、気がつくと、前までいたパートナー同士の老人が、数百人は消えていた。

   この世界では、義務を果たして最期の1ヶ月が経過し、命が尽きると、愛するもの同士、姿形なく、消えていくらしい。


   バレとブランドは、草原で手をつないで歩いたり、夜には寄り添って眠った。

   バレにも宙の国から出て、なぜ子供が産まれるかは知っていたが、なぜすでに自分の家族がいるのかは、知らなかった。

    「きっと、僕らは義務を果たすのに必死で、なぜ、この宙の国で義務を果たさなければならないのかまでは、考えずに生きてきたんだろうね」
  ブランドが、バレの右手をつなぎながら、夕日の中をゆっくり歩いて、呟いた。

   愛する人の世界では、もうすぐ3週間半経過する。ブランドとも自分の命とも、最期だ。

  バレは、急に心が千切れるような、心の痛みに襲われた。

 
    グランドは、何かを察して、バレの手を強く握りしめた。白髪まじりの金色の髪が夕日のオレンジに、照らされ、透き通るような美しいスズランの花のように輝く。

   バレは、ますますグランドが愛おしくなった。

    バレとグランドの横を通る、オレンジの髪をした老夫婦が、駅へと向かっている。

   番人として生きるのだろうか?
バレが、白髪まじりのオレンジの髪の女性に、頭だけで会釈をすると、幸せそうな笑顔で会釈を返してきた。

  「宙の国へ行かれるの?」
  失礼だと思いながら、バレは最期だと思い聞いた。

  2人がバレとグランドに近寄ってきた。
「あなた達は、行かれないの?仲の良さそうなお2人だけれど」

    さすがのグランドも、きょとんとしている。

   2人は、もっと二人の近くに寄った。「あなた達、この宙の国の秘密を知らないのね。選ぶか選ばないかはあなた達しだいよ」

  老婆が言う。
  宙の国では、義務もあるが、秘密もある。みんなが知っている秘密ではない。その老婆に、宙の国で産まれた時に、秘密をこっそり、教えてくれた番人がいたと言う。

    この世界では、もう一度生き返る事が出来る。

   この宙の国では、命が尽きる前に愛する人と、この愛する人の世界の駅を出ると、宙の国で罰を受け、番人として永遠に生きなければならないが、愛する人と生きる抜け道が、再び訪れる。

    番人として、子供達に荷物と地図を渡しながら生き続けると、宙の国ではもう一度、もう1人の自分が1度だけ産まれてくる。
  

     その子を見つけて、荷物と地図を渡し、一言かければ、もう1人の自分は、宙の国の金色の門を通った瞬間、10コ目の世界、自由の世界に飛ばされ、愛する人の世界で出会った人と、添い遂げ、家族を作れると言う。そして、番人である自分は、消える。


    夕日の中、2人の白髪とオレンジの髪が、炎のように揺れていた。

    にこりと笑うと、その2人は駅に向かった。


  バレとグランドは、目を合わせた。
よく見ると、繋いでいる手が、夕日のオレンジ色の中でゆらゆらと消えかかっている。


   心を決めたように、バレとグランドは、何も言わず駅に向かった。


    まだ、この人と一緒にいたい。バレは強く願った。グランドも、バレの消えかけている手を強く握りしめた。

     夕日から、空は夜空になって、月が綺麗に淡く白く輝いている。

   駅につき、 バレとグランドが世界から出ようとするのを、無表情な駅員は見ているものの、止めようとはしない。

   バレとグランドは、手を繋いだまま駅のホームに立った。

   星空の暗闇が、バレとグランドを一気に包み込んだ。
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