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第1章:ルーク・サーベリーの帰還

第51話:クレイブ神殿にて

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 セントアロガスからほど近い丘の上に廃墟となった神殿がある。

 そこはクレイブ神殿と呼ばれる旧帝国の遺物で、今では住む者はおろか近づく者すらまばらだ。

 しかし今そのクレイブ神殿の前には数千名を超える兵士が集結していた。

 騎士もいれば魔導士もいる。

 その全てが完全武装で戦いに備えていた。

「話には聞いていたけど凄いな……」

 その壮観な光景にルークが溜息をもらす。

「そういえばルークさん大規模討伐レイドは初めてでしたっけ」

 鎧に身を固めたタイロンがルークの元へやってきた。

「これが4年に1度、王国主導で開催される大規模討伐レイドでさ。名だたる貴族領主はみな参加してますよ」

 大規模討伐レイド、それはクレイブ神殿を舞台に行われるダンジョンの大討伐だ。

 神殿地下は50層からなる大ダンジョンになっていて最奥部には王国最恐の魔獣が封印されている。

 その魔獣の封印を更新するのがこの大規模討伐レイドの目的だ。

 封印されているとはいえ魔獣の放つ魔素は他の強力な魔獣を呼び寄せるため、こうした大討伐が必要になるのだった。

 そしてこれは国威高揚と各貴族が王家に対する忠誠を示すための一大行事イベントでもあった。

「ただ、前々回は封印に失敗しちまいまして、現国王もその時の怪我が元で体が弱っちまったんで前回の大規模討伐レイドはなかったんですよ。流石に封印がまずいってんで今回は無理にでも開催したって訳ですよ」

「だから今回は特に規模が大きいんだ」

 各領主貴族はそれぞれ数十名から大きいもので百名を超える部隊を指揮している。

 それぞれ特徴のある防具に身を包み、討伐開始を今や遅しと待っていた。

「ルーク、討伐までまだしばらく時間があるから何か食べていかない?」

 アルマの誘いでルークは出店を回ることにした。

 これだけの大所帯なので神殿の周りには食べ物の屋台や武器防具や、馬具屋の出店が並んでいてちょっとしたお祭りのようだ。

 兵士たちを和ませる楽団や大道芸人まで来ている。

「討伐には数日かかることもあるらしいから今のうちに美味しいものを食べて……」


 ルークの前にいたアルマの歩みが急に止まった。

 2人の目の前によく見知った面々、トリナル・トリプルズがいたからだ。

 ルークとアルマを見た3人はぎょっとし、気まずそうに顔を背けた。

「な、なんだ、君らが勝手に来ただけで僕らが近づいてきたわけじゃないからな」

 トミーが居心地悪そうにもごもごと呟く。

「あなた達も参加していたのですか」

「当たり前だ。僕らだって貴族の一員なんだぞ。参加するのは当然だ」

「しかしずいぶんと顔色が悪いようですが、体調がすぐれないのでは?」

 3人はみな青ざめた顔をして今にも倒れそうだ。

 こころなしか膝も振るえている。

「学園卒業後5年は招集義務には必ず応じなくちゃいけないの。でないと正式な魔法騎士になれないから」

 アルマがこっそりと耳打ちをしてきた。

「そういえばそうだったっけ。王国認可の魔法騎士になるのもそれなりの苦労がいるんだね」

「ふ、ふん、僕らは君たちと違って戦闘が本分じゃないんだ。それに僕らの担当は第5層、魔獣なんか出るわけがない浅層部さ。君らは最も危険な45層なんだろう?お生憎だったな」

 震える声でトミーがあざ笑う。

「そうそう、これもこの討伐の運営担当をしているトミーの御父上のおかげ……」

「ば、馬鹿!余計なこと言うな!」

 得意げなトーマスの口をトムソンが慌てて押さえる。

「そういうことだったんですか」

 ルークが溜息をついた。

「相変わらずこういう手回しが得意なんですね」

「ふん!何とでも言うがいいさ!僕らはのんびりとダンジョン遊山だ。君らはせいぜい苦労するがいいさ」

 得意げにそう言うと3人はふらつく足で去っていった。

「私たちの部隊は少人数なのにやけに深いところに回されたと思ったら、そういうことだったのね」

 憤慨したアルマが地団太を踏んでいる。

「しょうがないよ、でもアヴァリス卿が関わっているということはまだ何かあるのかもしれない。油断しないでいこう」

「ルーク」

 その時後ろから呼び止める声が聞こえてきた。

 振り返ったルークとアルマが眼を丸くする。


「フローラ……様!?それにシシリー?」

 そこに立っていたのはフローラ・ナイチンゲールその人だったからだ。

 横にはシシリーまでいる。

「お2人とも久しぶりですね」

 フローラが微笑む

「なんでシシリーが?」

「私はフローラ……様の護衛。今回はコネで無理やりねじ込んでもらったんだよね。大規模討伐レイドは給金が良いからさ」

 驚くアルマにシシリーがウインクをする。

「ということはフローラ様も大規模討伐レイドに?」

「はい、私は救護隊として参加しています。王家の一員として私も微力ながら助けになれればと」

「フローラ様の治癒魔法は王国一と言われてるからね。癒しの聖公女の二つ名は伊達じゃないよ」

「お恥ずかしい」

 何故か得意げなシシリーの言葉にフローラが頬を染める。

「それよりもルーク、気をつけてください」

 不意にフローラの表情が真剣さを増した。

「本来大規模討伐レイドに関わっていなかったアヴァリス卿が急に運営担当に加わりました。あなた達が最奥部に送られることになったのも彼の仕業でしょう。他にも何か企てているかもしれないので気をつけてください」

 ルークが頷く。

「それは先ほど知りました」

「お力になれず申し訳ありません。せめてこれを持っていってください」

 フローラはそう言いながら2人に魔石のペンダントを渡した。

「私の治癒魔法が込められています。こんなことしかできませんがお気をつけください」

「ありがとうございます!フローラ様こそお気をつけください」

「貴様!そこで何をしている!」

 突然後ろから怒号がした。

 振り返ると、そこには鬼の形相をしたゲイルが立っていた。

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