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第2章:勇者と商人

第124話:評議会

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「ルーク、アルマ悪いが一緒に来てくれないか」

 昼過ぎにミランダが深刻な面持ちでルークの元にやってきた。

「これからメルカポリス評議会が開かれるのだが私に召喚命令が来た。そしてルークとアルマ、君たちも呼ばれているんだ」

「僕らが?」

 ルークとアルマは顔を見合わせた。

「ああ、噂だと我々が水道局を査察したことと静謐なる水窟ブルーケイブに侵入したことに対する査問会も開かれるらしい。間違いなくクラヴィの差し金だろうな。私がなびかなかったことに対する意趣返しのつもりなのだろう」

 ミランダはため息をついた。

「私だけを恨めばいいものを、ルークたちにまで火の粉をかけようとは。全く見下げ果てた奴だ」

「それは違うと思うよ。あの男は僕も恨んでいるだろうから」

 クラヴィとしてはルークとミランダ両方が邪魔なはずだ。

 太古の水門オールドゲートを破壊したのが《蒼穹の鷹》でその裏にクラヴィがいることがばれればいかに評議委員といえども無事では済まないだろう。

 おそらくそれに釘をさすために召喚されたのだ。

 こちらが行動を起こす前に先制攻撃しようという腹づもりなのだろう。

「どうする?2人は我が国の人間ではないのだし出席する義理はない。なんなら体調不良を言い訳に欠席してもいいのだぞ」

「……いえ、それでは相手の出方がわからないし、向こうに好き勝手やらせてしまう危険がある。僕も出席することにするよ」

「当然私も!」

 アルマが頷く。

「そうか……それならば助かる。私としても君たちがついて来てくれるなら心強い。なに、2人に危害は加えないから安心してくれ」

 ミランダはそう言うとにやりと笑った。

「こっちにも奥の手を用意してあるからな」

 ルークが笑みを返す。

「奇遇ですね。僕も秘策があるんですよ」

「そうだろうともな。君ならばそう言うと思っていたよ!」

 ミランダは愉快そうに笑うと踵を返した。

「それじゃあ早速行こうじゃないか。あの下種に一泡吹かせてやろう!」




    ◆




 評議会はすり鉢状の会議場で外側は傍聴席になっている。

 開始前だというのに既に立ち見が出るほどの混雑ぶりだ。

 シシリー、ナターリアも傍聴席からこちらを見守っている。

 数十名の評議委員は既に着席していてその中にはクラヴィもいた。

 既に勝利を確信しているのかふんぞり返りながらこちらをニヤニヤ見つめている。

 その背後には《蒼穹の鷹》の3人が控えていた。

 3人とも頭に包帯をぐるぐる巻いている。

「あいつら、間違いなく何かを企んでいるようだな」

 ミランダが眉をしかめながら呟いた。




「それではこれより第9回メリカポリス評議会を開催します」

 議長が宣言を行い、評議会が始まった。

「第一の議題は現在我が国を苛んでいる病禍、黒斑熱に対する対策についてです」

 傍聴席からブーイングが巻き起こる。

「それもこれも獣人共のせいじゃねえか!」

「奴らを街から、この国の周囲100kmから追い出せ!」


「静粛に!閲覧席からの発言は禁止されています!守らない者は退場させます!」

 議長が必死になって観客を静めているがなかなか収まる様子がない。

「どうやらクラヴィが人を呼び集めたらしい。まったく抜かりのない男だ」

 ミランダがルークに耳打ちをしてきた。

 ようやく静かになったのは5分ほども経った後だった。

「え~、それでは黒斑熱についてですが、現在唯一の特効薬となっている《アンチール》を公費にて購入して治療に充てるという案が出されています。これは《アンチール》の独占販売権を有するセルフィス商会から購入することになります。こちらに異議はありませんか?」

 誰も手を上げる者はいない。

 クラヴィはというとあからさまな笑みを隠そうともしていない。

「え~、それではこれは可決……」

「異議あり!」

 手を上げたのはミランダだった。

 議長が怪訝な顔でミランダを見る。

「……あなたは評議委員ではないようだが?」

「私はメルカポリス警備隊西地区小隊長ミランダ・コールズです。発言の許可を得たいのですがよろしいでしょうか」

「そ奴はただの警備兵だ!さっさと黙らせろ!」

 クラヴィが叫んだ。

 しかしミランダは動じない。

「私は黒斑熱対策班長としてこの評議会に召喚されました。その立場から申し上げたいことがございます」

「……発言を許可します」

「ありがとうございます」

 ミランダは立ち上がると一礼して演壇に進み出た。

「発言の場をいただけたことにお礼申し上げます。我が国で猛威を振るって黒斑熱ですが、既に収束していることを対策班長として評議委員の皆様に報告いたします」

「なんだとっ!?」

 クラヴィが眼を剥いた。

 評議会場も騒然となっている。


「本当なのか?昨日までは今後半年、長ければ1年は感染が続くと言われていたのだぞ?」

「国民の半分が感染すると言われていたのに、既に治っただと?」

「でたらめだ!」


「静粛に!静粛に!」

 議長がミランダの方を向いた。

「先ほどの発言は事実なのですか?俄かには信じられませんが……」

「事実です。その報告は医療局へも届いているはずです」

 ミランダの発言に評議委員席にいた白髪の老人の顔色が変わった。

「医療局長、先ほどのコールズ女史の言葉は事実ですか?」


「う……あ~、え~、そ、そうそう、確かにそのようです」

 白髪の老人が鞄の中から羊皮紙の束をまさぐりながらもごもごと返事をする。

「今朝報告書が届いていたようですな。評議会の準備に忙しくて見落としておりました」

 この発言で会場は再び興奮の渦に巻き込まれた。

「なんだと?本当に治ったのか?」

「出鱈目に決まっている!」

「だが公式の場でそんなことをするか?調べればすぐにわかるのだぞ?」

「だとすると本当なのか?」

「そうなると……薬はもう必要ないということに……?」


 会場の視線が議長とクラヴィに注がれていた。

 クラヴィは苦虫を噛み潰したような顔でミランダを睨みつけている。

 議長が冷や汗を拭きながら言葉を絞り出す。

「え~、え~、つまり、もう黒斑熱が収束しているということは……」

「《アンチール》はもう必要ないということです」

 ミランダは澄ました顔で締めくくった。

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