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第3章:南海の決闘

第139話:南方領土の問題

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「ちょ、ちょっと待ってください、そんなことを急に言われても困ります。それに僕らはただ休暇で来ているだけですので、そのような権限もありませんし」

 ルークは慌てて手を振った。

 オミッドの悩みも理解はできるが流石にこれはルークの手に余る問題だ。

 フローラには南方領土を観察してほしいと頼まれているがそれとこれとは話が違うだろう。

「そ、そうですな、突然無理なことを言って申し訳ない」

 オミッドは大きくため息をついた。

「しかしこれだけはわかってほしいのです。私の願いはこの国を想ってこそなのだと。魔界により南方領土侵略は既にこの地域だけの問題ではないのです。いずれ王国を蝕む災禍となりかねないのです」

「わ、わかりました、わかりました」

 ルークはオミッドの迫力にたじろぎながらもなんとか頷いた。

「とりあえず僕にできることでしたら協力は惜しみません。今回の旅行で見聞したこともフローラ様に伝えましょう」

「おおっ!」

 オミッドの眼が輝く。

「でもそれはあくまで一個人としてです。僕自身国政に携わっている身ではないのでできることには限りがあることを承知してください」

「もちろんですとも!ありがとうございます!ありがとうございます!それではよろしくお願いしましたぞ。何かありましたらいつでも仰ってください」

 オミッドは千切れんばかりにルークの手を振り回すと何度も頭を下げながら去っていった。

「参ったな」

 オミッドが去った後でルークは大きなため息をついた。

 成り行きとはいえなんだかとんでもないことを頼まれてしまった気がする。

「大丈夫?あんなことを頼まれちゃって」

 アルマも心配そうにルークの顔を覗き込んできた。

「うーん、正直あまり気は進まないけど……でもどうしたってこうなっていたような気はするんだよね」

 ルークは肩に手を当てると首をゴキゴキと鳴らした。

 数回言葉を交わしただけなのに何だか肩が張っているような気がする。

 フローラが頼んできたのはおそらくこのことなのだろう。

 フローラ含め王族が安易に話を進めていないということはオミッドが説明していない別の事情がある可能性が高い。

 そのためにはもっと情報を集める必要がある。

「ひとまず部屋に戻ろうか。アルマに話しておきたいこともあるし」

 アルマの手を取るとルークは静かに大広間を出ていった。


「話って?」

 ルークに腕を絡ませながらアルマが聞いてくる。

「うん、その前に着替えさせてくれないかな。気慣れない恰好をしてると肩が凝っちゃって」

「私も。足は痛いしみんなにじろじろ見られてる気がして落ち着かなくって」

 そんなことを話しながら廊下を歩いていると後ろから足音が近づいてきた。

「ちょっと、ちょっと待ってよ!ねえってば」

 振り返るとそこにいたのはキールだった。

「君は……」


「あたしはキール、キール・クリシャ・クランケン。助けてもらったお礼を一言いいたくて」

 キールは肩で息をしながら2人に笑顔を向けた。

「さっきはどうもありがとう。あんな奴どうってことないんだけど、それでもお礼は言っておかないとね」

「僕はルーク・サーベリー、そしてこちらはアルマ・バスティーユ。別に礼を言われるほどのことはしてないよ」

「そんなことないよ!

 キールは大きく手を振った。

「あの魔族のエロ親父、ダンデール・ダンドーラっていうんだけど、あいつ本当にムカつく奴でさ、それでも権力ちからだけは持ってるから誰も逆らえないんだ。オミッドさんだけは別だけど。とにかく、あたしたち島の者を見下してやがんだよ。ほんとにムカつく奴!」

「あのダンデールという魔族も君のことを島娘と言ってたけどここの出身じゃなんだ?」

「キールで良いよ!君なんて言われたら痒くなっちゃう。そ、あたしはイアムから少し沖にあるオステン島ってところに住んでるの」

 近隣の貴族が出席するパーティーに参加しているということはこのキールという娘は村でもかなりの有力者なのだろうか。

 ダンデールはそんなキールを人目も憚らず侮辱してのけたということになる。

 単なる力関係によるものという可能性もあるが人族に魔界にオステン島、どうやら南方領土には一筋縄ではいかない事情があるのかもしれない。

「ねえ、2人ともここにはどの位いる予定なの?」

「え?あ、ああ、実はまだ決まってないんだ。1週間になるか2週間になるか……」

 急に尋ねられて慌てながら答えるとキールの顔に満面の笑顔が浮かんだ。

「それなら2人ともうちの島に来てみない?きっと気に入るよ!」

「島に?僕らが?」

「そう!オステン島はすっごく良いところだよ!青い海に白い波、青い空に輝く太陽!オステン島はこの世の楽園と呼ばれてるんだから!」

 誇らしそうにくるくると回るキールを見ながらルークは逡巡していた。

 正直海に出るのは気が進まないどころの話ではない。

 想像しただけで汗がじんわり出てきそうな気分だ。

 それでも南方領土のことを知るにはまたとない機会なのも事実だ。

 キールからならオミッドや南方領土の人々からとはまた違った角度でこの地域のことを知れるかもしれない。

 ルークは覚悟を決めることにした。

「わかった、喜んでご招待に預かるよ」

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