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第3章:南海の決闘
第155話:2つ目の条件
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「……わかった、貴様の実力を認めよう」
「ではこれで僕たちを帰していただけるんですね」
ほっと一息ついたルークだったが続くバルバッサの言葉は意外なものだった。
「帰す?それは一体なんのことだ」
「な!?でもあなたは……」
「私は実力を見せろと言っただけだ。勝てば帰してやるなどとは一言も言っていない」
「……!」
これにはルークも黙るしかなかった。
確かにバルバッサは仕合をすれば帰すとは言っていない。
「……あなたは、一体何が望みなのですか」
「ふ、そう怖い顔をするでない、誰も帰さぬとは言っておらん」
険しい顔をするルークにバルバッサがにやりと笑いかける。
「だが先ほども言ったように例外として貴様らの帰国を認めるにはそれなりの口実が必要なのだ。例えばそう、我が領民のために貢献した、と言うような実績などがな」
「……つまり、あなたのために働けと」
「私のためではない、我が領民のためだ。だがまあどう取ってもらっても構わぬがな」
バルバッサはそう言うと踵を返した。
「立ったまま話すようなことでもあるまい。ここから先は食事でもしながら話そうではないか」
◆
テーブルには魔界の珍味が所狭しと並んでいた。
干したスライムを水で戻して冷製にしたサラダ、若いバロメッツを使ったステーキ、マンドラゴラの根菜スープ、子供の身長ほどもある巨大ロブスター、どれも見たこともないものばかり、しかも見ただけでかなりの贅を尽くしたご馳走だと分かる。
「これは一体どういうことなのですか?」
「言ったであろう、食事を出してやると。遠慮せずに食べていいのだぞ」
上座に座ったバルバッサが鮮やかな青色をしたパンを切り分けている。
「先ほどの答えをまだもらっていません。僕に働けというのはどういうことなのですか」
「そう話を急ぐな。人族がせっかちなのは寿命が短いゆえなのか。まずは食事を楽しむのだ。毒など入っておらぬから安心するがいい」
バルバッサはルークの問いも悠然と聞き流しながら食事を始めた。
「……これって大丈夫なのかしら」
隣に座ったアルマが心配そうな顔で並んだ料理を眺めている。
ルークもそれは同意だった。
捉われたと思ったら仕合を挑まれ、今はテーブルいっぱいのご馳走を振る舞われている。
ルークはバルバッサの意図を測りかねていた。
「……」
それでもルークはやがて意を決したようにロブスターへと手を伸ばした。
解析で毒がないことはわかっている。
おそらくバルバッサはルークたちの反応を楽しんでいるのだろう。
ならば徒に慎重になってその意図に踊らされる謂れはない。
「……美味い」
巨大なロブスターの肉を一口頬張ったルークは驚きに目を見張った。
大味かと思われたがそんなことは全くなく、繊細な肉の旨味が口いっぱいに広がる。
おそらく一緒に蒸し焼きにしたであろう香草や香辛料の香りが鼻腔をくすぐり、肉の旨味を更に引き立てている。
ルークの反応を見てアルマとキールも恐る恐る食べ物に手を伸ばした。
「「!?」」
一口食べて目を見張り、すぐに二口、三口と続いていく。
「それでいい」
バルバッサは口元を微かにゆがめると再び食事に戻っていった。
◆
「貴様らに協力してもらいたいことがある」
口元を拭いていたたナプキンをテーブルに置くとバルバッサが切り出した。
「それを達成できたらすぐにでも帰してやろう」
「その要件と言うのは何ですか。それを聞かないことには答えようもありません」
硬い表情のルークにバルバッサがにやりと笑いかけた。
「そう身構えるな、やってもらいたいのはただの山賊討伐だ」
「山賊討伐?なんでそんなことを?わざわざ僕らに頼むようなことでもないのでは?」
バルバッサの要求はルークにとって意外なものだった。
山賊討伐のようシンプルな依頼ではなくもっと外交的に繊細な問題を要求されるのかと思っていたのだ。
それこそアロガス王国にとって不利になるような……
「その山賊というのはここ数年我が領土を荒らしまわっているのだが根城が貴様らの国との国境沿いなのだ。何度か討伐を試みたがそのたびに貴様らの国から横槍が入って未だに成功しておらん」
バルバッサはそこまで言うとじろりとルークを睨み付けた。
「正直言うと私はその山賊は貴様らの国が支援しているのではないかと疑っている」
「馬鹿な!」
アルマが立ち上がった。
「私たちの国が、アロガス王国がそんなことをする訳がない!」
「ならばこそ貴様らがこの問題を解決するのにうってつけというわけだ」
激高するアルマに涼しい顔でバルバッサが答える。
「そういうことですか」
ルークはため息をついた。
ルークたちが山賊討伐に協力するならばアロガス王国側からの抗議も躱せるという算段なのだろう。
「それにこれは貴様らの国にとっても利となるはずだ。私の調査ではその山賊は貴様らの国内でも暴れまわっているという話だからな。もっともそれは我々の目を欺くための方便かもしれぬがな」
バルバッサの言葉にルークはオミッドが言っていたことを思い出した。
オミッドは山賊や海賊が南方領土を荒らしていてそれは魔族の差し金だと言っていた。
オミッドは裏で手を引いているのはダンデールだと言っていたが、その山賊は魔界でも暴れているらしい。
だとするとそこには何かの思惑があるのかもしれない。
しばらく逡巡していたルークだったが、やがて顔をあげると正面からバルバッサを見つめた。
「……わかりました。その依頼をお受けします」
「ではこれで僕たちを帰していただけるんですね」
ほっと一息ついたルークだったが続くバルバッサの言葉は意外なものだった。
「帰す?それは一体なんのことだ」
「な!?でもあなたは……」
「私は実力を見せろと言っただけだ。勝てば帰してやるなどとは一言も言っていない」
「……!」
これにはルークも黙るしかなかった。
確かにバルバッサは仕合をすれば帰すとは言っていない。
「……あなたは、一体何が望みなのですか」
「ふ、そう怖い顔をするでない、誰も帰さぬとは言っておらん」
険しい顔をするルークにバルバッサがにやりと笑いかける。
「だが先ほども言ったように例外として貴様らの帰国を認めるにはそれなりの口実が必要なのだ。例えばそう、我が領民のために貢献した、と言うような実績などがな」
「……つまり、あなたのために働けと」
「私のためではない、我が領民のためだ。だがまあどう取ってもらっても構わぬがな」
バルバッサはそう言うと踵を返した。
「立ったまま話すようなことでもあるまい。ここから先は食事でもしながら話そうではないか」
◆
テーブルには魔界の珍味が所狭しと並んでいた。
干したスライムを水で戻して冷製にしたサラダ、若いバロメッツを使ったステーキ、マンドラゴラの根菜スープ、子供の身長ほどもある巨大ロブスター、どれも見たこともないものばかり、しかも見ただけでかなりの贅を尽くしたご馳走だと分かる。
「これは一体どういうことなのですか?」
「言ったであろう、食事を出してやると。遠慮せずに食べていいのだぞ」
上座に座ったバルバッサが鮮やかな青色をしたパンを切り分けている。
「先ほどの答えをまだもらっていません。僕に働けというのはどういうことなのですか」
「そう話を急ぐな。人族がせっかちなのは寿命が短いゆえなのか。まずは食事を楽しむのだ。毒など入っておらぬから安心するがいい」
バルバッサはルークの問いも悠然と聞き流しながら食事を始めた。
「……これって大丈夫なのかしら」
隣に座ったアルマが心配そうな顔で並んだ料理を眺めている。
ルークもそれは同意だった。
捉われたと思ったら仕合を挑まれ、今はテーブルいっぱいのご馳走を振る舞われている。
ルークはバルバッサの意図を測りかねていた。
「……」
それでもルークはやがて意を決したようにロブスターへと手を伸ばした。
解析で毒がないことはわかっている。
おそらくバルバッサはルークたちの反応を楽しんでいるのだろう。
ならば徒に慎重になってその意図に踊らされる謂れはない。
「……美味い」
巨大なロブスターの肉を一口頬張ったルークは驚きに目を見張った。
大味かと思われたがそんなことは全くなく、繊細な肉の旨味が口いっぱいに広がる。
おそらく一緒に蒸し焼きにしたであろう香草や香辛料の香りが鼻腔をくすぐり、肉の旨味を更に引き立てている。
ルークの反応を見てアルマとキールも恐る恐る食べ物に手を伸ばした。
「「!?」」
一口食べて目を見張り、すぐに二口、三口と続いていく。
「それでいい」
バルバッサは口元を微かにゆがめると再び食事に戻っていった。
◆
「貴様らに協力してもらいたいことがある」
口元を拭いていたたナプキンをテーブルに置くとバルバッサが切り出した。
「それを達成できたらすぐにでも帰してやろう」
「その要件と言うのは何ですか。それを聞かないことには答えようもありません」
硬い表情のルークにバルバッサがにやりと笑いかけた。
「そう身構えるな、やってもらいたいのはただの山賊討伐だ」
「山賊討伐?なんでそんなことを?わざわざ僕らに頼むようなことでもないのでは?」
バルバッサの要求はルークにとって意外なものだった。
山賊討伐のようシンプルな依頼ではなくもっと外交的に繊細な問題を要求されるのかと思っていたのだ。
それこそアロガス王国にとって不利になるような……
「その山賊というのはここ数年我が領土を荒らしまわっているのだが根城が貴様らの国との国境沿いなのだ。何度か討伐を試みたがそのたびに貴様らの国から横槍が入って未だに成功しておらん」
バルバッサはそこまで言うとじろりとルークを睨み付けた。
「正直言うと私はその山賊は貴様らの国が支援しているのではないかと疑っている」
「馬鹿な!」
アルマが立ち上がった。
「私たちの国が、アロガス王国がそんなことをする訳がない!」
「ならばこそ貴様らがこの問題を解決するのにうってつけというわけだ」
激高するアルマに涼しい顔でバルバッサが答える。
「そういうことですか」
ルークはため息をついた。
ルークたちが山賊討伐に協力するならばアロガス王国側からの抗議も躱せるという算段なのだろう。
「それにこれは貴様らの国にとっても利となるはずだ。私の調査ではその山賊は貴様らの国内でも暴れまわっているという話だからな。もっともそれは我々の目を欺くための方便かもしれぬがな」
バルバッサの言葉にルークはオミッドが言っていたことを思い出した。
オミッドは山賊や海賊が南方領土を荒らしていてそれは魔族の差し金だと言っていた。
オミッドは裏で手を引いているのはダンデールだと言っていたが、その山賊は魔界でも暴れているらしい。
だとするとそこには何かの思惑があるのかもしれない。
しばらく逡巡していたルークだったが、やがて顔をあげると正面からバルバッサを見つめた。
「……わかりました。その依頼をお受けします」
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