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モニカのお悩み相談室
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『モニカのお悩み相談室』
そう屋敷の前に書かれたプレートをみる人々は様々な顔をする。
1つは
「なにか悩みあったけ?」
と思案する顔。
1つは
「仮にも公爵家の娘が下働きか」
と嘲笑う顔。
1つは
「憎い公爵の娘の名前すら見たくない」
と憎しみの顔。
1つは
「元気そうでなにより」
と安心した顔。
最後は
「これから依頼をする」
と覚悟を決めた顔。
あの世紀のモニカ・フォン・ベルッチの裁判から2年経ってもモニカに対しての人々の意見は様々だ。
この屋敷を見ると人々は様々な顔を浮かべ、そのまま足早に去るのが常だった。
そんな光景の中央で、モニカの屋敷の前で男は覚悟を決めた顔をした後、屋敷の様子を見渡した。
何の変哲もない屋敷だ。
築年数は経っているが、作った時の大工の腕も確かで日常的な手入れも家主の手が行き届いていおり、清潔に保たれているのが外から見ているだけでもわかる。
男は屋敷内を確認すると、屋敷の小さな玄関口に立ち、呼び鈴を数回押した。
「…………」
緊張の面持ちの中、ドアを開け現れたのは1人の女だった。
女はメイド服ではなく、最近市民階級の娘の間で見かけるコルセットの締りが緩い動きやすいドレスを身につけていた。
シンプルに髪をまとめた姿は目鼻立ちの整った顔立ちとよく似合っている。
メイドかと思ったその女は確かに2年前よりは大人びた顔立ちになっているが、間違いなくモニカだった。
まさか家主直々に出迎えられると思わなかった男は自己紹介をするのを忘れ、そのまま黙る。
そんな男の様子など露知らず、モニカは男の顔をみて歓迎の笑みを浮かべた。
「お待ちしておりました」
そのまま部屋に案内する、とモニカに言われ、後を着いていく。男は廊下を歩きながら中の様子を観察する。
室内は清潔に保たれ、等間隔で季節の花が鮮度を保たれ置かれている。
最初に家主が出たので驚いたが、やはりこの屋敷には質のいいメイドがいるのだろう。
仮にも元公爵令嬢というわけだ。
「こちらへ。ただいま飲み物を用意致します」
「…ええ」
男はその時、屋敷内に入って始めて言葉を発したのに気がついた。そこまでに自分がモニカに対し驚愕しているのだと思い内心驚く。
男は促されるまま座ると、モニカは既に用意していた紅茶ポッドに茶を注ぐ。
「1つ、質問していいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「使用人はどちらにいるのですか?」
「今はいません」
そう簡単に言われた言葉に男は内心驚愕する。
目の前の女はほんの数年前までは人々にかしづかれるご貴族様の生活だったのだ。
それがわざわざ男のために茶をいれる姿とどうも釣り合わない。男の心を読んだかのようにモニカは言葉を続けた。
「厳密に言いますと、週に2度、私が出資している養護院から1人女の子をメイドとして雇っています。ただ、その子はまだ幼く勉強もありますから」
「それ以外を、貴女が家事をしていると?」
「ええ。無論、私の手が届かない場所はお金を払って頼んでおりますけども」
当たり前のように言ったモニカの後ろ姿を男はまじまじと見た。
一体どのようは魔術をしたら公爵令嬢だったモニカが家事をするようになるのか。
なにか嘘でもあるのかと考えたが、モニカはそれに慣れているようににこやかな笑みを浮かべながら男の前に紅茶を置いた。
「どうぞ。王都で流行っているブライア紅茶店の新フレーバーになります。お口に合うのいいのですが」
男は言われるがままに紅茶を口に運ぶ。
香り豊かな紅茶の風味は男の口内でさらに香り、それだけでこの紅茶が上等なものだとわかる。
よく見ればカップも王室御用達のカップだ。
「……美味しい、です。カップも、とても素敵だ」
この程度のものを客に出せるぐらいには資産がある、という事だろう。
男はティーカップを置き、正面の席に着いたモニカに言う。
「私は4年前、貴女を見たことがあります」
「ええ」
「貴女が乗る馬車に子供が轢かれて、泣く親に向かって貴女は窓からそのゴミを片付けろと言いました」
「……ええ」
モニカは否定せず、男の言葉に頷く。
男は言葉を続ける。
「その時、既にある貴族の屋敷で私は働いていましたが、貴女のあの発言はたとえ貴族であろうと信じがたかった。だから今、不思議でならないのです。貴女がなぜこうまで変わったのか」
「それが私と実際に会いたいと手紙に書いた理由でしょうか?」
「いえ。違います。依頼内容は別ですが、依頼する前に貴女に聞きたかったのです。あの悪名高きベルッチ家の令嬢だった貴女がなぜ客人に茶を自ら出すほどに変わったのか」
男の視線に、モニカは幾ばくかの沈黙のあと、言葉を選ぶように言った。
「……その言葉は今まで数多くの人達から言われてきました」
「何か、特別な出会いでもあったのですか?」
男の問いにモニカは首を横に振る。
そう屋敷の前に書かれたプレートをみる人々は様々な顔をする。
1つは
「なにか悩みあったけ?」
と思案する顔。
1つは
「仮にも公爵家の娘が下働きか」
と嘲笑う顔。
1つは
「憎い公爵の娘の名前すら見たくない」
と憎しみの顔。
1つは
「元気そうでなにより」
と安心した顔。
最後は
「これから依頼をする」
と覚悟を決めた顔。
あの世紀のモニカ・フォン・ベルッチの裁判から2年経ってもモニカに対しての人々の意見は様々だ。
この屋敷を見ると人々は様々な顔を浮かべ、そのまま足早に去るのが常だった。
そんな光景の中央で、モニカの屋敷の前で男は覚悟を決めた顔をした後、屋敷の様子を見渡した。
何の変哲もない屋敷だ。
築年数は経っているが、作った時の大工の腕も確かで日常的な手入れも家主の手が行き届いていおり、清潔に保たれているのが外から見ているだけでもわかる。
男は屋敷内を確認すると、屋敷の小さな玄関口に立ち、呼び鈴を数回押した。
「…………」
緊張の面持ちの中、ドアを開け現れたのは1人の女だった。
女はメイド服ではなく、最近市民階級の娘の間で見かけるコルセットの締りが緩い動きやすいドレスを身につけていた。
シンプルに髪をまとめた姿は目鼻立ちの整った顔立ちとよく似合っている。
メイドかと思ったその女は確かに2年前よりは大人びた顔立ちになっているが、間違いなくモニカだった。
まさか家主直々に出迎えられると思わなかった男は自己紹介をするのを忘れ、そのまま黙る。
そんな男の様子など露知らず、モニカは男の顔をみて歓迎の笑みを浮かべた。
「お待ちしておりました」
そのまま部屋に案内する、とモニカに言われ、後を着いていく。男は廊下を歩きながら中の様子を観察する。
室内は清潔に保たれ、等間隔で季節の花が鮮度を保たれ置かれている。
最初に家主が出たので驚いたが、やはりこの屋敷には質のいいメイドがいるのだろう。
仮にも元公爵令嬢というわけだ。
「こちらへ。ただいま飲み物を用意致します」
「…ええ」
男はその時、屋敷内に入って始めて言葉を発したのに気がついた。そこまでに自分がモニカに対し驚愕しているのだと思い内心驚く。
男は促されるまま座ると、モニカは既に用意していた紅茶ポッドに茶を注ぐ。
「1つ、質問していいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「使用人はどちらにいるのですか?」
「今はいません」
そう簡単に言われた言葉に男は内心驚愕する。
目の前の女はほんの数年前までは人々にかしづかれるご貴族様の生活だったのだ。
それがわざわざ男のために茶をいれる姿とどうも釣り合わない。男の心を読んだかのようにモニカは言葉を続けた。
「厳密に言いますと、週に2度、私が出資している養護院から1人女の子をメイドとして雇っています。ただ、その子はまだ幼く勉強もありますから」
「それ以外を、貴女が家事をしていると?」
「ええ。無論、私の手が届かない場所はお金を払って頼んでおりますけども」
当たり前のように言ったモニカの後ろ姿を男はまじまじと見た。
一体どのようは魔術をしたら公爵令嬢だったモニカが家事をするようになるのか。
なにか嘘でもあるのかと考えたが、モニカはそれに慣れているようににこやかな笑みを浮かべながら男の前に紅茶を置いた。
「どうぞ。王都で流行っているブライア紅茶店の新フレーバーになります。お口に合うのいいのですが」
男は言われるがままに紅茶を口に運ぶ。
香り豊かな紅茶の風味は男の口内でさらに香り、それだけでこの紅茶が上等なものだとわかる。
よく見ればカップも王室御用達のカップだ。
「……美味しい、です。カップも、とても素敵だ」
この程度のものを客に出せるぐらいには資産がある、という事だろう。
男はティーカップを置き、正面の席に着いたモニカに言う。
「私は4年前、貴女を見たことがあります」
「ええ」
「貴女が乗る馬車に子供が轢かれて、泣く親に向かって貴女は窓からそのゴミを片付けろと言いました」
「……ええ」
モニカは否定せず、男の言葉に頷く。
男は言葉を続ける。
「その時、既にある貴族の屋敷で私は働いていましたが、貴女のあの発言はたとえ貴族であろうと信じがたかった。だから今、不思議でならないのです。貴女がなぜこうまで変わったのか」
「それが私と実際に会いたいと手紙に書いた理由でしょうか?」
「いえ。違います。依頼内容は別ですが、依頼する前に貴女に聞きたかったのです。あの悪名高きベルッチ家の令嬢だった貴女がなぜ客人に茶を自ら出すほどに変わったのか」
男の視線に、モニカは幾ばくかの沈黙のあと、言葉を選ぶように言った。
「……その言葉は今まで数多くの人達から言われてきました」
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男の問いにモニカは首を横に振る。
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