4 / 28
モニカのお悩み相談室2
しおりを挟む
「ただ、気がついたのです」
「気がついた?」
「はい。公爵家の娘として生まれ、エリーティズムに取りつかれていた私は、下だと思っていた階級の人達がどれだけ苦しんでいるか、分かりませんでした。無知だったのです」
「なぜ気づかれたのでしょうか?」
「神が、私の前に現れ、やり直す機会を与えてくださったのです」
神、というまさかの言葉に男は驚きモニカの言葉を繰り返す。
「神、ですか」
「ええ」
この混沌とした情勢不安により神という存在の存続が不安視されてから既に長い時が経つ。
巷には「神は死んだ」と礼拝堂を燃やす輩が現れる始末。それをその情勢により家族を失ったモニカから堂々と「神」と言ってのけたのだ。
男はモニカの言葉を否定することはせず、別の言葉に置き換えることにした。
「……神は我らを見放したと思いました。現に三大公爵家のうちベルッチ家を含む2つが消え、国の情勢もよくありませんから」
「いえ。神は見放してなどおりません。神は私たちのすぐ側にいらっしゃいます」
この敬虔な女性に男は言葉を追求することはやめた。
モニカは14の時、馬の落馬事故で1週間意識を覚まさなかった時があるらしい。
そこからモニカは人が変わったように避けていた勉強を積極的に行い、領地の状態を把握し、様々なことを領地のために行ってきた。
そのモニカの活動は王都にも届き、女性でありながら王に名指しで賞賛されたほど。意識を無くしていた1週間の内に神に出会ったというのだろうか。
にわかに信じられない話だ。
だが、あの悪名高かったモニカがここまで変わった原因は神、と言われて納得するところもある。
男の知っているモニカはどんなに自分が惨めになろうとも、自ら家事を行ったり、ビジネスを行うことはしない。そんな考えすらもない、それが男の知っているモニカだったからだ。
「最後に1つ。神は、どのような姿形をしておりましたか?」
モニカはティーカップを一口口にいれ、ゆっくりと答えた。
「そうですね。とても、お優しく、温かみのある。そんな存在でした。姿形を超越した存在、とでも言うのでしょう」
「超越した存在?」
「ええ。今でも、この紅茶の中や、陽の光、机の上にでもいる気さえします。それらが神であり、神の子である我らを見守っているのです」
モニカの言葉に男はならば、と言った。
口の根が乾き、早口になっているのを感じる。
「ならば、なぜ神は我らに身分、というものを与えたのでしょう。この悲劇しか産まず、上の者に虐げられる下の者は神の子ではないというのでしょうか?」
「神は人間同士に身分などは作っておりません」
モニカのその言葉に男は初めて目を開いた。
神を信じる女が身分制度などない、と言い放ったのだ。
男の常識では、貴族に生まれた者達は神から選ばれし存在で、それに生まれなかった下の身分の者が悪い、市民階級の男でさえ、そう思っていた。
「神は身分という物を神と人間の間しかお創りになっておりせん。身分というものは人が創った人工物に過ぎません」
「………」
「人工物はいずれ朽ち、脆く崩れます。貴方もそう思っているんではないでしょうか?」
「…………」
思考を読まれてしまったかと思った。
モニカは男の顔を見て、笑った。
この娘はまだ18になったばかりの小娘のはずだ。
この達観さはなんだと疑問に感じることが不自然な程、モニカは達観している。
男は更にモニカの話を聞いてみたくなった。
「……人工物だからこそ、無くなるということですか?」
「ええ。既に貴族が居ない国もあります。なぜこの国だけは例外といえるのでしょう」
「その貴族を崩すのもまた人だと?」
「ええ」
モニカはそう言って笑った。
混じり気のない純粋なその答えに男は大きく息を吐いた。
「貴女がここまでの教養のあるお方だと思いませんでした」
「日々多くの方とお話をしているので口が達者になっただけです」
このままでは本来の来訪を忘れてモニカと神について語り尽くしてしまう。ここいらで本来の目的を話さなければならない。
謙遜をしているモニカに男は薄く笑うと、自らのスーツの懐に手をいれる。
懐から手を出したのは大人の親指ほどの小さなバッジだ。
そのバッジを確認したモニカの目が大きく見開いたのを男は見逃さなかった。
「まず、先にこちらの身分を明かさず申し訳ありません」
男が手にしていたバッジは2羽の鷲が描かれた家紋が描かれている。
この国でこの鷲の家紋を使用出来るものは少ない。
男爵家、アルバーテ家のみを除いては
「私、アルバーテ家の執事を務めさせていただいております、ナッシュ、と申します。貴女に依頼をしに参りました」
ーーーーーーーーーー
「気がついた?」
「はい。公爵家の娘として生まれ、エリーティズムに取りつかれていた私は、下だと思っていた階級の人達がどれだけ苦しんでいるか、分かりませんでした。無知だったのです」
「なぜ気づかれたのでしょうか?」
「神が、私の前に現れ、やり直す機会を与えてくださったのです」
神、というまさかの言葉に男は驚きモニカの言葉を繰り返す。
「神、ですか」
「ええ」
この混沌とした情勢不安により神という存在の存続が不安視されてから既に長い時が経つ。
巷には「神は死んだ」と礼拝堂を燃やす輩が現れる始末。それをその情勢により家族を失ったモニカから堂々と「神」と言ってのけたのだ。
男はモニカの言葉を否定することはせず、別の言葉に置き換えることにした。
「……神は我らを見放したと思いました。現に三大公爵家のうちベルッチ家を含む2つが消え、国の情勢もよくありませんから」
「いえ。神は見放してなどおりません。神は私たちのすぐ側にいらっしゃいます」
この敬虔な女性に男は言葉を追求することはやめた。
モニカは14の時、馬の落馬事故で1週間意識を覚まさなかった時があるらしい。
そこからモニカは人が変わったように避けていた勉強を積極的に行い、領地の状態を把握し、様々なことを領地のために行ってきた。
そのモニカの活動は王都にも届き、女性でありながら王に名指しで賞賛されたほど。意識を無くしていた1週間の内に神に出会ったというのだろうか。
にわかに信じられない話だ。
だが、あの悪名高かったモニカがここまで変わった原因は神、と言われて納得するところもある。
男の知っているモニカはどんなに自分が惨めになろうとも、自ら家事を行ったり、ビジネスを行うことはしない。そんな考えすらもない、それが男の知っているモニカだったからだ。
「最後に1つ。神は、どのような姿形をしておりましたか?」
モニカはティーカップを一口口にいれ、ゆっくりと答えた。
「そうですね。とても、お優しく、温かみのある。そんな存在でした。姿形を超越した存在、とでも言うのでしょう」
「超越した存在?」
「ええ。今でも、この紅茶の中や、陽の光、机の上にでもいる気さえします。それらが神であり、神の子である我らを見守っているのです」
モニカの言葉に男はならば、と言った。
口の根が乾き、早口になっているのを感じる。
「ならば、なぜ神は我らに身分、というものを与えたのでしょう。この悲劇しか産まず、上の者に虐げられる下の者は神の子ではないというのでしょうか?」
「神は人間同士に身分などは作っておりません」
モニカのその言葉に男は初めて目を開いた。
神を信じる女が身分制度などない、と言い放ったのだ。
男の常識では、貴族に生まれた者達は神から選ばれし存在で、それに生まれなかった下の身分の者が悪い、市民階級の男でさえ、そう思っていた。
「神は身分という物を神と人間の間しかお創りになっておりせん。身分というものは人が創った人工物に過ぎません」
「………」
「人工物はいずれ朽ち、脆く崩れます。貴方もそう思っているんではないでしょうか?」
「…………」
思考を読まれてしまったかと思った。
モニカは男の顔を見て、笑った。
この娘はまだ18になったばかりの小娘のはずだ。
この達観さはなんだと疑問に感じることが不自然な程、モニカは達観している。
男は更にモニカの話を聞いてみたくなった。
「……人工物だからこそ、無くなるということですか?」
「ええ。既に貴族が居ない国もあります。なぜこの国だけは例外といえるのでしょう」
「その貴族を崩すのもまた人だと?」
「ええ」
モニカはそう言って笑った。
混じり気のない純粋なその答えに男は大きく息を吐いた。
「貴女がここまでの教養のあるお方だと思いませんでした」
「日々多くの方とお話をしているので口が達者になっただけです」
このままでは本来の来訪を忘れてモニカと神について語り尽くしてしまう。ここいらで本来の目的を話さなければならない。
謙遜をしているモニカに男は薄く笑うと、自らのスーツの懐に手をいれる。
懐から手を出したのは大人の親指ほどの小さなバッジだ。
そのバッジを確認したモニカの目が大きく見開いたのを男は見逃さなかった。
「まず、先にこちらの身分を明かさず申し訳ありません」
男が手にしていたバッジは2羽の鷲が描かれた家紋が描かれている。
この国でこの鷲の家紋を使用出来るものは少ない。
男爵家、アルバーテ家のみを除いては
「私、アルバーテ家の執事を務めさせていただいております、ナッシュ、と申します。貴女に依頼をしに参りました」
ーーーーーーーーーー
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した
無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。
静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる