モニカのお悩み相談室、通称「悪役令嬢更生センター」

ブリリアント・ちむすぶ

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モニカのお悩み相談室2

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「ただ、気がついたのです」
「気がついた?」
「はい。公爵家の娘として生まれ、エリーティズムに取りつかれていた私は、下だと思っていた階級の人達がどれだけ苦しんでいるか、分かりませんでした。無知だったのです」
「なぜ気づかれたのでしょうか?」
「神が、私の前に現れ、やり直す機会を与えてくださったのです」
神、というまさかの言葉に男は驚きモニカの言葉を繰り返す。
「神、ですか」
「ええ」
この混沌とした情勢不安により神という存在の存続が不安視されてから既に長い時が経つ。
巷には「神は死んだ」と礼拝堂を燃やす輩が現れる始末。それをその情勢により家族を失ったモニカから堂々と「神」と言ってのけたのだ。
男はモニカの言葉を否定することはせず、別の言葉に置き換えることにした。
「……神は我らを見放したと思いました。現に三大公爵家のうちベルッチ家を含む2つが消え、国の情勢もよくありませんから」
「いえ。神は見放してなどおりません。神は私たちのすぐ側にいらっしゃいます」
この敬虔な女性に男は言葉を追求することはやめた。
モニカは14の時、馬の落馬事故で1週間意識を覚まさなかった時があるらしい。
そこからモニカは人が変わったように避けていた勉強を積極的に行い、領地の状態を把握し、様々なことを領地のために行ってきた。
そのモニカの活動は王都にも届き、女性でありながら王に名指しで賞賛されたほど。意識を無くしていた1週間の内に神に出会ったというのだろうか。
にわかに信じられない話だ。
だが、あの悪名高かったモニカがここまで変わった原因は神、と言われて納得するところもある。
男の知っているモニカはどんなに自分が惨めになろうとも、自ら家事を行ったり、ビジネスを行うことはしない。そんな考えすらもない、それが男の知っているモニカだったからだ。
「最後に1つ。神は、どのような姿形をしておりましたか?」
モニカはティーカップを一口口にいれ、ゆっくりと答えた。
「そうですね。とても、お優しく、温かみのある。そんな存在でした。姿形を超越した存在、とでも言うのでしょう」
「超越した存在?」 
「ええ。今でも、この紅茶の中や、陽の光、机の上にでもいる気さえします。それらが神であり、神の子である我らを見守っているのです」
モニカの言葉に男はならば、と言った。
口の根が乾き、早口になっているのを感じる。
 「ならば、なぜ神は我らに身分、というものを与えたのでしょう。この悲劇しか産まず、上の者に虐げられる下の者は神の子ではないというのでしょうか?」
「神は人間同士に身分などは作っておりません」
モニカのその言葉に男は初めて目を開いた。
神を信じる女が身分制度などない、と言い放ったのだ。
男の常識では、貴族に生まれた者達は神から選ばれし存在で、それに生まれなかった下の身分の者が悪い、市民階級の男でさえ、そう思っていた。
「神は身分という物を神と人間の間しかお創りになっておりせん。身分というものは人が創った人工物に過ぎません」
「………」
「人工物はいずれ朽ち、脆く崩れます。貴方もそう思っているんではないでしょうか?」
「…………」
思考を読まれてしまったかと思った。
モニカは男の顔を見て、笑った。
この娘はまだ18になったばかりの小娘のはずだ。
この達観さはなんだと疑問に感じることが不自然な程、モニカは達観している。
男は更にモニカの話を聞いてみたくなった。
「……人工物だからこそ、無くなるということですか?」
「ええ。既に貴族が居ない国もあります。なぜこの国だけは例外といえるのでしょう」
「その貴族を崩すのもまた人だと?」
「ええ」
モニカはそう言って笑った。
混じり気のない純粋なその答えに男は大きく息を吐いた。
「貴女がここまでの教養のあるお方だと思いませんでした」
「日々多くの方とお話をしているので口が達者になっただけです」
このままでは本来の来訪を忘れてモニカと神について語り尽くしてしまう。ここいらで本来の目的を話さなければならない。
謙遜をしているモニカに男は薄く笑うと、自らのスーツの懐に手をいれる。
懐から手を出したのは大人の親指ほどの小さなバッジだ。
そのバッジを確認したモニカの目が大きく見開いたのを男は見逃さなかった。
「まず、先にこちらの身分を明かさず申し訳ありません」
男が手にしていたバッジは2羽の鷲が描かれた家紋が描かれている。
この国でこの鷲の家紋を使用出来るものは少ない。
男爵家、アルバーテ家のみを除いては
「私、アルバーテ家の執事を務めさせていただいております、ナッシュ、と申します。貴女に依頼をしに参りました」

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