赤い花を手折る

ブリリアント・ちむすぶ

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出会い

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 15年前のあの日は今でも昨日のように思い出すことが出来る。
 少年だったカイラスをバグダスは興味深く見つめていた。

 母譲りの褐色の肌、王譲りの灼熱の赤髪、瞳は母親と父親を足したような濃い赤の瞳。

―あぁ、美しい。

 バグダスは幼き日のカイラスを一目見た時にそう思った。

―なんて美しいのだろう。燃えるような赤髪。力強い褐色の肌。そして、この瞳は。

 カイラスの瞳は濁っていた。
 紅茶を煮詰めたような濃い赤の瞳は澄むということを知らない。
生まれた時から血なまぐさい権力の犠牲となり、そして今、自身の男性としての可能性すらもその犠牲になろうとしていた。
しかし、濁った瞳の奥にはあきらめではなく、燃え盛る憎悪の炎が確かにあった。
ああ、欲しい。
バグダスは心のそこからそう思った。

「悔しいですか? カイラス王子」

 皮肉を込めてあえて正式な少年の名を呼んだ。
 愚鈍な王が侍女に手を出し生まれたのがこのカイラスだった。
 カイラスの母親の一族はカイラスを武器に国の権力の一端を担おうとしたに違いない。
 しかし、それでも限られた地域を統括することを許されたのみ。
母親の一族がそれに満足するほど物知らずだったことカイラスにとって唯一の幸運だったにちがいない。

 この国で生まれた王子は、正妃から生まれた子以外、特に平民から生まれた王子は権力を持たぬように去勢される。
 その悲劇を気にも留める者はカイラスの母親ですらもいなかった。
 もし仮に知っていても、無駄だっただろう。
 
「……早く始めろ」
 
手術台に寝るカイラスの声はなんと平坦なことか。
しかし、瞳の奥の憎悪は一層強くなったのは見逃さなかった。
その瞳を更に燃え上がせたい。
バグダスは饒舌に口を開いた。

「ねえ、教えてあげましょうか。貴方がなぜ、こうなったのか」

口元が真横に歪む。
笑いが止まらない。

「弱いから。貴方が弱いからですよ。カイラス様」

 カイラスは瞳だけバグダスをみた。
一層バグダスを射殺すほどの圧力で見つめる。
 しかし、今のカイラスはどうしようもない。

「…うるさい虫だ」
「それはそれは、大変申し訳ありません」

 丁寧に腰を折っての礼もカイラスにとっては不快にしかならないだろう。
 カイラスは瞳は天井に戻る。
 もうバグダスと話す気もないようだった。
 バグダスの上機嫌さと大違いだ。
 バグダスは歌うようにベッドの上のカイラスにいった。

「カイラス様、始めましょう。貴方の新たなる一歩のために。大丈夫。痛みなんかありません。目が覚めたら、新たなる貴方がいます。私はその貴方が楽しみですよ」

 カイラスは答えなかった。 
 己の弱さをただ耐えることしか知らない少年の地獄はここから始まったのだ。

「始めなさい」
「かしこまりました」

バグダスは傍に控えていた白髪の部下に命じた。
カイラスの新たな人生の誕生を、バグダスは興味深く見ていた。
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