年下セレブのわがまま事情

ブリリアント・ちむすぶ

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ケビンの再訪

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「じゃあ……、よろしくお願いいたします」
「ああ、わかった!」

 ケビンは嬉しそうな顔をした。
 その表情にレンは思わず笑ってしまいそうになるが、ぐっと我慢し堪える。

「サイズを測りたいんだが、メジャーはあるか?」
「はい、これでいいですか?」

 レンは以前使ってそのまま店に置いていたメジャーと共にぬいぐるみをケビンに渡す。ケビンはすぐにぬいぐるみのサイズを測る。
 その手つきは先程の言葉のとおり、手早い。
 エイダ程では無いが、テキパキとサイズを測るケビンの姿に思わず声をかける。

「慣れているんですね」
「そうか? 俺も昔の話だから、上手くいくかどうか……」
「こういうのは気持ちです。渡す子のことを思って心を込めたプレゼントはその子の心にいい影響を与えます」

 レンは不安げなケビンに笑いかける。
 ケビンはその言葉にを聞きながら、つぶやくように言った。

「……君、なんだかお母さんみたいだな」
「えっ?」
「あ! い、いいや! なんでもない!」

 ケビンは慌てた様子で首を横に振る。
 母親扱いをしたことを申し訳ないと思っているのだろうが、レンはそんなケビンに小さく笑った。

「否定はしませんよ。施設の子供たちにもよく言われますから」
「施設って、君の両親のかい? よく顔を出しているんだな」
「スタッフがいますが、手が開かない時は僕がヘルプに入ったりしますので。子供たちからは「お兄ちゃん」と呼ばれていますが、たまに「お母さん」と言い間違られたり」

 レンは笑い話のようなつもりでそう言ったのだが、なぜかケビンは呆気に取られている。
 さすがにそんな顔をされるとは思わず、困惑の気持ちになった。

「な、なんですか?」
「いや、すまない! ただ……、君は本当にいい子だなと思って……。けど無理しないで。時にはわがままも大事だ」
「ありがとうございます」
 
 そのケビンのアドバイスにレンはくすりと笑いつつ、まかない用に残していたコーヒーの余りをケビンに差し出す。
 ミルクと蜂蜜をたっぷり入れたものだ。ケビンはそれを見て、不思議そうにこちらを見上げた。

「こ、これ……」
「サービスです。ドレスを作ってくださるお礼」
「……ありがとう! もしよければ、一緒にデザインを考えてくれないだろうか?」

 ケビンはそう言いながらカバンからペンとノートを取り出す。そこから
さらさらと何種類かのドレスを描き出し、レンはケビンの手から生み出されるデザインに目を奪われる。
 いくつかのデザイン画を描いたケビンは手をとめ、どうだろうか、という顔でレンの顔を見る。
 レンはこの中で、ある一つのデザインに目を奪われた。

「これ……」

 レンが目を付けたデザインはワンピース型のものでは無く、上と下が別れているセパレートタイプのドレスだった。もともと着ているドレスやエイダが作るであろうドレスと比べるとかなりスポーティーな印象で、それをまじまじと見つめるレンにケビンが不安な顔を見せる。

「す、すまない。こういうのは得意じゃなくて」

 不安感からかそのデザインを消しゴムを消そうとするケビンにレンは慌てて違うと首を振った。

「いえ、そうじゃなくて! すごくいい、と思って。僕が思いつかなかったものですから」

 レンの言葉通り、ケビンの作るデザインはエイダとはまた違う、活発な女の子が好きそうなデザインだった。
 あげる子の事を考えるとこのほうが普段遊ぶ時にちょうどいい。
 ドレスならばフリルが多くついているのしかレンは思いつかなかったが、考えが凝り固まっているのだろう。
 女の子ならフリルいっぱいのとにかく可愛いものがいいと思考を停止していた。
 しかし、妹が居て実際に関わっているからか、ケビンのデザインは地に足が着いた印象で、これならエイダの作るドレスとはまた違ったぬいぐるみの魅力を発見できて、より喜ぶだろう。

「もしよければ、これでお願いしたいです」
「いいのか? なら、これを元に作ってみるよ」

 ケビンは嬉しそうにしながら頷く。
 どうやらこういった物作りが好きらしい。
 見た目と違い、甘いものが好きだったり、裁縫が好きだったり、不思議な人だ。

「必要なお金は言ってください。払いますから」
「気にするな。俺からのプレゼントだ」
「でも……」
「いいから」

 ケビンはミルクと蜂蜜をたっぷり入れたコーヒーを飲み干し、その甘さゆえかまた再度笑う。
 そのあまりにも無邪気な笑みにレンもつられて微笑んだ。

「それじゃ、俺は帰るよ。楽しみに待っててくれ」

 ケビンはカウンターの上に置いたままのぬいぐるみを一撫ぜした後、鞄から財布を取り出し、会計をしようとするがレンは首をふり断った。

「お代は結構です」
「で、でも……」
「ドレス代と思ってください。それに、美味しいそうに飲んでいただいて僕も嬉しかったですから」

 レンの言葉にケビンは悩む様子を見せたが、レンが本気でその気なのをわかったのだろう。少し気まずそうにケビンは頷いた。

「じゃあ、コーヒー豆を買わせてくれ。ブレンドを二百グラム。粉で」
「かしこました」

 言われたとおり、レンはブレンド用の豆を用意する。
 二百グラムとケビンはいったが、少しだけ多めに挽いておいた。
 ドレスを作ってもらうレンの気持ちだ。
 袋にいれ、ケビンに渡そうとするところで、ケビンとレンの手が触れる。

「わっ!」

 ケビンの手が引っ込める。
 まさか手が少し触れた位でここまで大袈裟な反応をされるとは思わず、レンはレンは自分の手とケビンの顔を交互に見る。

「……冷たかったですか?」
「す。すまない。そ、そういう訳じゃないんだ。まさか、触れられるとは思わなくて」
「……」
 
 何をいっているのだろう。
 他人と不意に手を触れ合うなど、誰だって1度や2度あるだろう。
 驚いたかもしれないが、そんなに過剰に反応することだろうか?
 あきれ顔のレンにケビンはコーヒー豆の金を机に置く。

「じゃあ、俺はこれで」

 ケビンはそのまま逃げるようにそそくさと店を出て行った。
 残されたレンは首を傾け、机に置かれた金を回収しながらつぶやく。

「変な人……」

 ケビンの行動に疑問を抱きつつ、テーブルを片付けた。
 いつの間に夕日が差し込む時間になっていた。この調子だと、客はもう来ないだろう。
 レンは早々とレジを締める準備を始めた。

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