104 / 106
エピローグ
しおりを挟む
昼過ぎの一番日が高く昇る頃、窓の多いこの店は明かりをつける必要が無くなるほどに明るくなる。自然に照らされる店内の光景はレンのお気に入りだ。
普段ならその光をめいいっぱい取り込み、店の雰囲気を明るくさせるところだが、さすがに眩しすぎた。
レンは客が眩しいと言う前にライトグレーのカーテンを閉める。
思いのほか鳴ったカーテンレールの音は常連客の話し声で完全にかき消された。
「グラハムさん、元気そうだったわ。お孫さんに囲まれて毎日楽しそうにしているみたい」
「よかったわねぇ。双子ですっけ? 1人でも大変なのに2人なんてもっと大変よ」
「ええ、私たちが話している間も構えか構えってうるさいのなんのって。まだ3歳だからこれからもっと騒がしくなるわね。息子さんも案外それを目的でお父さんをこっち呼びよせたのかも」
「まあでも、あの時はリースさん亡くなって寂しそうにしていたから、いいんじゃない?」
「孫と言えばあんたの所もでしょう? 毎週毎週連れてきて」
「私のところはほら、娘が付きっきりでみてるから。そのおかげでこっちにうるさくなくて随分快適にーー」
常連客のエイダとカーラの世間話は今日も止まるところを知らない。
最近はカーラの娘が子供を産んでしまい、あまり自分の母親に構わなくなったせいで2人の会話を止める人間がエイダの夫しかいなくなったせいでおしゃべりの勢いもここ数年でさらに増している。
最初は気になっていた2人のおしゃべりだがこの店を開いて5年もすれば特に何も思わずに仕事が出来るがーー、今日だけはそうもいかない。
レンは壁にかけられた時計をちらりとみる。
まだ正午を過ぎたばかりの時間だ。予定まであと5時間ほどあるというのにどうも落ち着かない。
今日だって、本当は店を開けるつもりはなかったのだ。だが、どうにも落ち着かず、結局店を開けることになってしまった。
それでも落ち着きは消えない。やはり店ではなく、施設の手伝いをすべきだっただろうか。
だが、それをしたら両親に「ここはいいから家で待っていろ」と言われてしまうだろう。
だから店を開けたというのに、落ち着きが全く戻らない。 落ち着け。3年ぶりだ。
さすがに大人のレンくらいは落ち着いていなくてはどうするのだ。
ああ、5杯目のコーヒーを飲んでしまおうか。いい加減胃腸に悪い気がするが今日くらいはーー。
「レン」
「は、はい!」
考え事をしている最中にエイダとカーラに呼ばれ、思わず声が上擦ってしまう。
流石の2人もレンの様子がおかしいと思っただろう。
どう誤魔化そうか、そう考えているレンをよそに2人はやってきたレンにコーヒー2杯分の金を渡した。
意味のわからない2人の行為にレンはま抜けた顔をする。
「……え?」
「ちょっと早いけど今日は帰るわ」
「ちょ、ちょっと、早くないですか!?」
「ですけど……、貴方のお父さんに言われているし」
「父が何か言ったんですか!?」
「ええ、『今日はレンには予定があって、昼頃には店を閉める』って」
「な……!?」
まさかマークがそんなことを事前に言っていたとは思わなかった。
確かにそうも言わなければエイダとカーラは帰らないだろう。
しかし、正直そんな気遣いしないで欲しかった。
「も、もっといませんか!? なんならサービスでコーヒーでもーー」
「残念だけど、これから娘家族が来て食事会をするのよ。エイダ達と一緒にね」
「そうそう、だからまた明日ね」
「そ、そんな……!」
客にそう言われてしまえば、レンは引きとめるわけにはいかない。
レンは後で父親にクレームを入れることを決意しながら頷く、
「レン、また来るわ」
「……はい」
出ていく2人に手を振った後、思わずため息をつく。
しばらく2人の世間話を聴きながら落ち着こうと思った計画が台無しだ。
1人になった店内ーー、2人の世間話で忘れていた緊張がレンを蝕み始める。
落ち着けと自分に言い聞かせるが、緊張はどんどん強くなってくる。
「……ああもう!」
レンはむしゃくしゃな気持ちになりながら、店の窓を全部開けた。
強い風がレンの体を通り抜ける。
カーテンで隠れていた外の景色があらわになり、レンはいつも通りの光景を目の当たりにしたがーー、そこにガランがいた。
普段ならその光をめいいっぱい取り込み、店の雰囲気を明るくさせるところだが、さすがに眩しすぎた。
レンは客が眩しいと言う前にライトグレーのカーテンを閉める。
思いのほか鳴ったカーテンレールの音は常連客の話し声で完全にかき消された。
「グラハムさん、元気そうだったわ。お孫さんに囲まれて毎日楽しそうにしているみたい」
「よかったわねぇ。双子ですっけ? 1人でも大変なのに2人なんてもっと大変よ」
「ええ、私たちが話している間も構えか構えってうるさいのなんのって。まだ3歳だからこれからもっと騒がしくなるわね。息子さんも案外それを目的でお父さんをこっち呼びよせたのかも」
「まあでも、あの時はリースさん亡くなって寂しそうにしていたから、いいんじゃない?」
「孫と言えばあんたの所もでしょう? 毎週毎週連れてきて」
「私のところはほら、娘が付きっきりでみてるから。そのおかげでこっちにうるさくなくて随分快適にーー」
常連客のエイダとカーラの世間話は今日も止まるところを知らない。
最近はカーラの娘が子供を産んでしまい、あまり自分の母親に構わなくなったせいで2人の会話を止める人間がエイダの夫しかいなくなったせいでおしゃべりの勢いもここ数年でさらに増している。
最初は気になっていた2人のおしゃべりだがこの店を開いて5年もすれば特に何も思わずに仕事が出来るがーー、今日だけはそうもいかない。
レンは壁にかけられた時計をちらりとみる。
まだ正午を過ぎたばかりの時間だ。予定まであと5時間ほどあるというのにどうも落ち着かない。
今日だって、本当は店を開けるつもりはなかったのだ。だが、どうにも落ち着かず、結局店を開けることになってしまった。
それでも落ち着きは消えない。やはり店ではなく、施設の手伝いをすべきだっただろうか。
だが、それをしたら両親に「ここはいいから家で待っていろ」と言われてしまうだろう。
だから店を開けたというのに、落ち着きが全く戻らない。 落ち着け。3年ぶりだ。
さすがに大人のレンくらいは落ち着いていなくてはどうするのだ。
ああ、5杯目のコーヒーを飲んでしまおうか。いい加減胃腸に悪い気がするが今日くらいはーー。
「レン」
「は、はい!」
考え事をしている最中にエイダとカーラに呼ばれ、思わず声が上擦ってしまう。
流石の2人もレンの様子がおかしいと思っただろう。
どう誤魔化そうか、そう考えているレンをよそに2人はやってきたレンにコーヒー2杯分の金を渡した。
意味のわからない2人の行為にレンはま抜けた顔をする。
「……え?」
「ちょっと早いけど今日は帰るわ」
「ちょ、ちょっと、早くないですか!?」
「ですけど……、貴方のお父さんに言われているし」
「父が何か言ったんですか!?」
「ええ、『今日はレンには予定があって、昼頃には店を閉める』って」
「な……!?」
まさかマークがそんなことを事前に言っていたとは思わなかった。
確かにそうも言わなければエイダとカーラは帰らないだろう。
しかし、正直そんな気遣いしないで欲しかった。
「も、もっといませんか!? なんならサービスでコーヒーでもーー」
「残念だけど、これから娘家族が来て食事会をするのよ。エイダ達と一緒にね」
「そうそう、だからまた明日ね」
「そ、そんな……!」
客にそう言われてしまえば、レンは引きとめるわけにはいかない。
レンは後で父親にクレームを入れることを決意しながら頷く、
「レン、また来るわ」
「……はい」
出ていく2人に手を振った後、思わずため息をつく。
しばらく2人の世間話を聴きながら落ち着こうと思った計画が台無しだ。
1人になった店内ーー、2人の世間話で忘れていた緊張がレンを蝕み始める。
落ち着けと自分に言い聞かせるが、緊張はどんどん強くなってくる。
「……ああもう!」
レンはむしゃくしゃな気持ちになりながら、店の窓を全部開けた。
強い風がレンの体を通り抜ける。
カーテンで隠れていた外の景色があらわになり、レンはいつも通りの光景を目の当たりにしたがーー、そこにガランがいた。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる