パンサー

2年目 夏

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　夏は寝た気がしないから嫌いだ。　
　夏の17時はまだ明るい。上海は時計を眺めながら店を何時に開けるかについて思考を巡らせていた。寝起きでじっとりと汗をかいた背中が気持ち悪い。しかし起き上がってシャワーを浴びるのはめんどくさいし第一時間がまだ早い。

　携帯電話のメッセージアプリを開いた。普段使う3つのメッセージアプリに寝ている間に溜まっていたメッセージを全てチェックする。

　鈴木さんからのメッセージが30分前に届いている。勤め先であるバー「パンサー」のオーナーである鈴木さんへの連絡を最初に返す。

「今日何時開けでもいいよ」
「了解です。今起きたんで19時過ぎには開けときます」

　鈴木さんは最近パンサーには来ていない。今年の年度はじめにできた新しいダイニングバーに店を任せられる人材がおらず、オーナー自ら店に立たなければならないからだ。

　もともとパンサーも上海が任されるようになる前は鈴木さんと上海が2人でやっていた。上海に任せられてからは鈴木さんは自分の仕事に集中できるようになり、パンサーの売り上げもなぜか安定するようになった。軍資金がたまったタイミングでダイニングバーをオープンしたため、見切り発車だった。スタッフもおらず、上海も料理は一切できない。そのためイタリアンの経験がある鈴木さんが当面の間は1人で切り盛りする、という具合になってしまった。


　たまったメッセージの返信を終えないまま、上海は携帯電話を裏返した。


やっぱり背中が気持ち悪いからシャワーを浴びよう。


　シャワーを浴び終え、コンタクトをつけた。時間は18時。鈴木さんに19時過ぎには開けると言ってしまった手前、なんとなくその時間には開けたい。そろそろ支度をしよう。上海はメイクを始めた。
　
　今日も1日が始まる。
少しずつ夜の帳が降りてくる街に安心しながら上海はパンサーへ向かった。