全て切り捨てて自分の幸せを掴みます~都合良い駒として生きるのはやめてやる~

かずきりり

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 死んだ、と思った。
 熱い、苦しい、痛い、辛い。
 悲しい、許せない、悔しい。
 私の人生は何だったのだろうと思ったが、これで苦しみから解放されるのかという安堵感もあった。

 ――もし、戻れるならば、今のような人生は絶対に選ばない。

 そんな決意をしていたと思う。
 来世では絶対、幸せになるんだという決意を込めて……の、筈だったのに。





 ピピピッ ピピピッ

「……ん~……」

 懐かしいアラームの音が聞こえて、私はうっすらとした意識の中、スマホへと手をのばした。
 心地いい朝日が、部屋を明るく照らし出す。
 見えるのは、結婚するまで暮らしていた、懐かしい実家の自室だ。

 ――実家の自室?

 違和感を覚え、疑問符が頭を埋め尽くし思考が止まった瞬間、思い出した。
 焼け付くような炎の痛み。裏切られた心。絶望と憎悪に染まった感情。

「っ!?」

 勢いよく飛び起き、私は自分の腕を見た。
 火傷の痕なんて、ひとつもない。
 それどころか、シミや皺もなく、張りのある肌が見えた。

「……死後の世界というやつ……?」

 死んでまでも痛みを引きずる事がないなら大歓迎だ。
 血を吐くのも、もうごめんなのだから。
 軽く身体を動かしても痛みが走る事はなく、関節も自由に動く。肩だって上がる。
 若返ったような気がして嬉しさで心が弾み、そのままドレッサーの前へと行けば、鏡にうつった私の姿に驚いた。

「若っ!?」

 45だった筈の私。
 目の下にクマはなく、シミや皺もない。ピチピチの肌を持つ私は、確実に若かりし頃の私そのものだ。

「死後の世界って凄い……痛っ!?」

 あまりの事に喜びより驚きが勝り、これは現実かと、更にドレッサーに歩み寄った瞬間、見事足の小指をぶつけてしまった。
 痛みに思わず顔を顰めたが、死んでまで痛みがある事に疑問を持つ。
 いや、そういうものなのかな?
 死んだのは初めてだから分からないし、答えなんて見つかるわけもないのだが、私は鏡の前で考えこむ。
 しばらくそうして居れば、階下から足音が聞こえてきて、部屋の前で止まった。

「梨花? いつまで寝てるの、珍しい……って、起きてるじゃない」

 ノックもなしに入って来たのは、若返った母。
 ……まだ、生きている筈の母だ。

「え!? お母さんも死んだの!?」
「はぁ!? 寝ぼけてるの!? 失礼ね!」

 驚き声を上げれば、母が怒りで少し顔を赤らめた。

「早く起きてきて、顔を洗いなさい! 遅刻するわよ!」

 寝ぼけていると判断されたのだろう、そんな事を言って母は部屋から出て階下へと戻って行った。

「……一体、どうなってるの……?」
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