全て切り捨てて自分の幸せを掴みます~都合良い駒として生きるのはやめてやる~

かずきりり

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 私を守るようにしっかりと抱きしめる温かく力強い腕と、いつも付けられている香水の匂いから、すぐに誰か分かった。

「隼人」
「梨花、大丈夫か?」

 大地と美和から私を守るように、隼人は私の前に出て二人に対峙してくれる。

「お前!」
「あの時の!」

 タクシーで無理矢理連れ出そうとしたあの日、一度だけ顔を合わせただけで覚えていたのだろう。
 しかし二人の隠れた表情は正反対で、驚きと共に怒りが大地には見えるけれど、美和はどこか頬を赤らめて嬉しそうにしている。
 美和の表情に不愉快を感じた私は、二人を無視するように隼人へと声をかけた。

「隼人、どうして此処に……?」

 大学内だ。
 今まではいつも大学の外で別れていたし、むしろ隼人がこうして校内にまで入ってきている事が気になる。
 一応、防犯的に部外者の立ち入りは禁止されているし、隼人はそれなりに一目を引き付けるから、ここまで来るのに噂となって誰かに止められていそうなのに。

「おい!」

 無視されている事に憤りを感じただろう大地が声をあげると同時に、チャイムの音が鳴り響いた。
 ふたりは別の授業を取っていたと思うのだけれど、急いで行く様子もない。
 ただ隼人の事を気にして動けないようだけれど、何をやっているんだかと呆れていれば、教授がやってきた。

「授業始まったぞ。関係ない奴は出ていけ!」

 周囲の生徒達が静かに座っているのに対し、睨み合うように立っている私達へと視線を向けて、教授の一喝が入る。

「大地……」

 美和が大地の服を引っ張り、教室から出て行こうと促した為、隼人を睨みながらも渋々ながら出て行こうと後ずさる。

「梨花、座ろう」
「うん……隼人は……」
「俺も座る」

 私を座らせた隣に隼人も腰かけるが、その言葉を聞いた大地は勢いよくこちらを振り返った。

「お前もだろ!」

 大地は隼人も一緒に教室から連れ出そうと、またこちらに歩みを進めて隼人の腕を掴む。
 私も焦って隼人の顔を見るのだけれど、隼人は何事もないような表情をして堂々と座っており、大地に掴まれた腕を払いのけた。

「杉本大地! 江口美和! 早く出て行くんだ!」

 なかなか出て行かない二人に、痺れを切らした教授は名指しで更に一喝した。
 このままではマトモに授業が出来ないのだから、教授が怒るのも当然だろう。

「だって、こいつは……!」
「余計ないざこざがないよう、一応伝えておいた方が良いか」

 何で俺達だけなんだと不満気な大地が教授に対して抗議するような声をあげると、教授は呆れたような顔をして溜息を吐いた。
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