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光が勢いを増し、陽炎の揺らめきが見える。
これはクレハが精いっぱい、自分の居場所を炎で教えてくれているのだろう。
「山火事……にはなっていないようだな。さすがクレハ」
「親父! この崖けっこうきついぞ! 滑り落ちる!」
妙に感心するブルーノとは違い、ルイは注意の言葉を放つ。
滑り落ちて無事に受け身を取れるとは言い難い。そういう意味がある事に気が付いたブルーノだが、ソフィアをこのままにしておくわけにもいかない。
「わしが……!」
もうすぐ崖に到達する。
そのまま飛び込もうと心に決めたブルーノだったが、先に到達したノエルが地面に手を翳した瞬間、足元の土が形を変えた。
崖まで下っていた緩やかな坂は直線になり、足もともしっかりする。
そして、側にある木へとノエルが手をつくと、太くしなやかな蔓が伸びた。
「ノエル……っ!」
ルイが声をかける間もなく、ノエルは蔓をしっかりと掴んだまま、崖の下へと飛び降りた。
やっと追いついた二人は地面にへばりついて、崖下を覗き込む。
記憶の中では、断崖絶壁だったはずなのに、今では少しなだらかになっている。そして、そこを蔦を伝って飛び降りて行くノエル。
「……あいつの属性、緑と土だったか……?」
「攻撃は出来なくても、すっごく便利じゃないか……」
器用に、軽やかに下りていくノエルを、尊敬や憧れと共に期待を込めた瞳で眺める二人。
そこで、ただ、ソフィアと共に帰ってくるノエルを待った。
◇◆◇
「……ん……」
何か全身が痛い。
そう思いながら、瞼に当たる光で目が覚める。
「ソフィア嬢!!」
瞳を開けると、そこには視界いっぱいに広がる最推し、ノエル様の顔。
起きてすぐの破壊力。そして名前を呼ばれる幸福。
……ありえるか? 否、ありえない。
いくら夫婦とはいえ、部屋は別だし、眠るレディの部屋に男がいるわけない。家族が入れさせるわけない。
「夢か……もう一回」
こんな目覚めの瞬間ならば、何回……いや、何十回何百回と繰り返して見たい私は、再度眠りに着こうとした所、温かいものに手を包まれる。
「ソフィア嬢……大丈夫ですか? 痛いところは?」
……夢なのに、温もりがある……?
そして全身の痛みもある?
痛みを意識したからか、徐々に現実だという実感が私の中に湧いてきた。
「……ノエル様!?」
「あ、いきなり起きては……!」
「つぅううっ!」
驚きすぎて、いきなり動いた私の全身に激痛が走った。
ノエル様は心配そうな顔をして私の手をさすってくれ、侍女に私が目覚めたと声をかけてくれている。
優しい……優しいのだけれど……今はその優しさに浸っていられない。
これはクレハが精いっぱい、自分の居場所を炎で教えてくれているのだろう。
「山火事……にはなっていないようだな。さすがクレハ」
「親父! この崖けっこうきついぞ! 滑り落ちる!」
妙に感心するブルーノとは違い、ルイは注意の言葉を放つ。
滑り落ちて無事に受け身を取れるとは言い難い。そういう意味がある事に気が付いたブルーノだが、ソフィアをこのままにしておくわけにもいかない。
「わしが……!」
もうすぐ崖に到達する。
そのまま飛び込もうと心に決めたブルーノだったが、先に到達したノエルが地面に手を翳した瞬間、足元の土が形を変えた。
崖まで下っていた緩やかな坂は直線になり、足もともしっかりする。
そして、側にある木へとノエルが手をつくと、太くしなやかな蔓が伸びた。
「ノエル……っ!」
ルイが声をかける間もなく、ノエルは蔓をしっかりと掴んだまま、崖の下へと飛び降りた。
やっと追いついた二人は地面にへばりついて、崖下を覗き込む。
記憶の中では、断崖絶壁だったはずなのに、今では少しなだらかになっている。そして、そこを蔦を伝って飛び降りて行くノエル。
「……あいつの属性、緑と土だったか……?」
「攻撃は出来なくても、すっごく便利じゃないか……」
器用に、軽やかに下りていくノエルを、尊敬や憧れと共に期待を込めた瞳で眺める二人。
そこで、ただ、ソフィアと共に帰ってくるノエルを待った。
◇◆◇
「……ん……」
何か全身が痛い。
そう思いながら、瞼に当たる光で目が覚める。
「ソフィア嬢!!」
瞳を開けると、そこには視界いっぱいに広がる最推し、ノエル様の顔。
起きてすぐの破壊力。そして名前を呼ばれる幸福。
……ありえるか? 否、ありえない。
いくら夫婦とはいえ、部屋は別だし、眠るレディの部屋に男がいるわけない。家族が入れさせるわけない。
「夢か……もう一回」
こんな目覚めの瞬間ならば、何回……いや、何十回何百回と繰り返して見たい私は、再度眠りに着こうとした所、温かいものに手を包まれる。
「ソフィア嬢……大丈夫ですか? 痛いところは?」
……夢なのに、温もりがある……?
そして全身の痛みもある?
痛みを意識したからか、徐々に現実だという実感が私の中に湧いてきた。
「……ノエル様!?」
「あ、いきなり起きては……!」
「つぅううっ!」
驚きすぎて、いきなり動いた私の全身に激痛が走った。
ノエル様は心配そうな顔をして私の手をさすってくれ、侍女に私が目覚めたと声をかけてくれている。
優しい……優しいのだけれど……今はその優しさに浸っていられない。
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