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「あの子はどうしようもなかったわ」
「本当にね」
急ぎ行われた戴冠式を終えた後、王太后とエマはパウラと共にお茶をし、そんな事を口にした。
二人共、何とかしようと必死だったのだ。だからこそ何度もホセに訴えてきていたし、苦言も呈していた。
それなのに変わらなかったどころかラウラを追い詰めた上に、国王としても無能だったのだ。
血の繋がった家族相手に薄情と言われるかもしれないが、二人はやっと心労がなくなった安堵感に包まれていた。
「まぁ……もう全て終わった事だよ」
ミケルはそう言って紅茶を飲み干すと、立ち上がった。
「もう行くの?」
エマの含んだ言葉に、ミケルは不敵な笑みを浮かべただけで何も言わず、部屋を後にした。
「あの子も相当歪んでるわよね……」
王太后は呆れたように呟くが、どこか安心したように微笑んでいた。
ミケルが向かった先は離宮の更に奥、遥か昔の国王が愛人の為に建てたという温室に併設された隠家だ。
自然に囲まれ、小さな湖もあり、陽当たりも良い。
この場所を知っているのは王族のみで、知っていたとしても立ち入った事のある王族は少ないだろう。
言われなければ使用人達は隠家がある事すら知らない為、掃除だってされていないのだ。
だけれど……今はとても綺麗に整えられている。
「ミケル様!」
ミケルが来た事に気が付いた女性が、声をあげ、嬉しそうに駆けてきた。
「戴冠、おめでとうございます!」
所作もなく、言葉遣いも少々崩れており、表情がとても豊かな女性。
だけれどその女性の顔は……ミケルが焦がれても手に入らない人だった。
「ありがとう」
「しかし……そうなると、どこの誰かも分からない私を、いつまでもこうやって置いておいては問題なのでは?」
首を傾げ、そんな言葉を口にする女性……そう、その顔はラウラだ。
「大丈夫だよ。安心して。君はここでゆっくり過ごして良いんだよ……」
「でも……」
「記憶も取り戻さなくて良いから」
にっこりと微笑みながら、有無を言わせないミケルの迫力に、ラウラは口ごもったけれど大人しく甘えておこうと思ったのか、小さく頷いた。
働いて生活しろと言われて放り出されても、戸惑うだけだからだ。
「なら、お言葉に甘えて!」
にっこりと微笑むラウラ。
そう……ラウラは死んでなんかいなかったのだ。
――たった一人、君に似た人が犠牲になっただけ。
ミケルは心の中で、そう呟く。
たまたま似ている人が亡くなった。
たまたまラウラを間一髪で助けられた。
そしてラウラは辛かった記憶を全て無くした。
とても都合の良い偶然だ。
「……生きてさえいれば……」
「何? ミケル様。何か言った?」
「ううん、何でもないよ」
ラウラが悲し気な顔をして言った言葉をミケルは呟いていた。
そして……もう悲し気な表情をしている少女は居ない。
今は、とても嬉しそうな表情で笑う女性が一人居るだけだった。
「本当にね」
急ぎ行われた戴冠式を終えた後、王太后とエマはパウラと共にお茶をし、そんな事を口にした。
二人共、何とかしようと必死だったのだ。だからこそ何度もホセに訴えてきていたし、苦言も呈していた。
それなのに変わらなかったどころかラウラを追い詰めた上に、国王としても無能だったのだ。
血の繋がった家族相手に薄情と言われるかもしれないが、二人はやっと心労がなくなった安堵感に包まれていた。
「まぁ……もう全て終わった事だよ」
ミケルはそう言って紅茶を飲み干すと、立ち上がった。
「もう行くの?」
エマの含んだ言葉に、ミケルは不敵な笑みを浮かべただけで何も言わず、部屋を後にした。
「あの子も相当歪んでるわよね……」
王太后は呆れたように呟くが、どこか安心したように微笑んでいた。
ミケルが向かった先は離宮の更に奥、遥か昔の国王が愛人の為に建てたという温室に併設された隠家だ。
自然に囲まれ、小さな湖もあり、陽当たりも良い。
この場所を知っているのは王族のみで、知っていたとしても立ち入った事のある王族は少ないだろう。
言われなければ使用人達は隠家がある事すら知らない為、掃除だってされていないのだ。
だけれど……今はとても綺麗に整えられている。
「ミケル様!」
ミケルが来た事に気が付いた女性が、声をあげ、嬉しそうに駆けてきた。
「戴冠、おめでとうございます!」
所作もなく、言葉遣いも少々崩れており、表情がとても豊かな女性。
だけれどその女性の顔は……ミケルが焦がれても手に入らない人だった。
「ありがとう」
「しかし……そうなると、どこの誰かも分からない私を、いつまでもこうやって置いておいては問題なのでは?」
首を傾げ、そんな言葉を口にする女性……そう、その顔はラウラだ。
「大丈夫だよ。安心して。君はここでゆっくり過ごして良いんだよ……」
「でも……」
「記憶も取り戻さなくて良いから」
にっこりと微笑みながら、有無を言わせないミケルの迫力に、ラウラは口ごもったけれど大人しく甘えておこうと思ったのか、小さく頷いた。
働いて生活しろと言われて放り出されても、戸惑うだけだからだ。
「なら、お言葉に甘えて!」
にっこりと微笑むラウラ。
そう……ラウラは死んでなんかいなかったのだ。
――たった一人、君に似た人が犠牲になっただけ。
ミケルは心の中で、そう呟く。
たまたま似ている人が亡くなった。
たまたまラウラを間一髪で助けられた。
そしてラウラは辛かった記憶を全て無くした。
とても都合の良い偶然だ。
「……生きてさえいれば……」
「何? ミケル様。何か言った?」
「ううん、何でもないよ」
ラウラが悲し気な顔をして言った言葉をミケルは呟いていた。
そして……もう悲し気な表情をしている少女は居ない。
今は、とても嬉しそうな表情で笑う女性が一人居るだけだった。
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