上 下
24 / 48

24

しおりを挟む
 入学して一週間。
 未だにルイスとヒロインの接触はない。
 そして、柱や木の陰に隠れているのだろうヒロインは、ずっと私の事を睨み続けている……のだけれど。

「うぅう……勿体ない……」
「完食していますよ?」
「そうだけど、そうじゃない」

 それ以上に重大な問題が私に直面しているのだ。

「? 残されてはいないようですが……片付けてきますね?」
「うぅう……はい……」

 首を傾げて不思議そうに言ったルイスの……推しの言葉に否と言えない私よ!
 ただ下げられていく食器を名残惜しそうに見送った。

 ――ルイスの使用済み食器。

 邸のはルイス個人のだから、無くなったら不便だし、ルイスしか使わないのだからと思っていたのだけれど! ここでは違う!
 皆が共通の食器を使うのだ。勿論洗ってはいるけれど、次の日に誰が使うか分からないのだ羨ましぃいい!
 そんなのだったら、私が貰っても良いよね!? 良いんじゃないかな!? という誘惑に毎食後惑わされる。
 既にルイスがカフェ等で飲食した場合、私はこっそり食器を高額で買い取ってコレクションしているのだ。……お母様にバレた時はドン引きされたけれど。
 推しが! リアルに! 使用したもの!
 それは宝以外に何だというのだ! 別に舐め回したりしていないのに!
 まさにゲテモノを見るようなお母様の目が忘れられないけれど、仕方ないというものだ。

「……義姉上? 大丈夫ですか?」
「……大丈夫……」

 いつの間にか戻って来たルイスの手に、使用済み食器はないわけで……これを卒業まで耐えろというのか。

「次の授業は男女別なので心配です……くれぐれも! 気を付けて下さいね?」
「優しいルイス尊い……」

 私はこんなに邪なのに。
 ルイスの優しさで浄化されていくような感覚を得ながらも、チラリとルイスの視線が逸れた事に気が付き、その視線の先を見れば、ヒロインがこちらに睨むような視線を向けていた。
 あれ? ルイスは、もうヒロインの事が気になっている? まだ出会っていなさそうだったのに?
 あれだけ目立つピンク頭に、可愛い顔立ちならば、それだけ印象に残ったというのもあるのかもしれない。

「……クソが……」

 ボソリと低く暴言を吐いただろうルイスに視線を戻すが、そこにあるのはいつものルイスだった。

「俺はもう行きますけど、無理そうならば休んでいてくださいね」

 先ほどの声は幻聴だったのだろうかと思える優しい声。
 食堂でルイスと別れて、私は自分が受ける授業の教室へと向かう。次は男女別の授業なので、高位貴族と下位貴族のクラス合同で行われるのだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

大賢者アリアナの大冒険~もふもふパラダイス~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:519

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:46,923pt お気に入り:54,525

【番外編集】てんどん 天辺でもどん底でもない中学生日記

青春 / 完結 24h.ポイント:910pt お気に入り:2

初恋の人が妹に婚約者を奪われたそうです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,931

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,961pt お気に入り:13,936

結婚三年目、妊娠したのは私ではありませんでした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35,464pt お気に入り:1,215

必要ないものは「いりません」と言うことにしました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:710pt お気に入り:2,872

処理中です...