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声を聞くだけで心が震える。
――好き。
――大好き。
――だけど……。
脳裏に蘇る光景は、愛しさ以外の苦しみを私に与える。
好きだから。ただそれだけで突っ走っていた頃が懐かしいとさえ思える。今は……全てにおいて不安が付きまとう。
「……カラルス」
やっとの事で声を振り絞れば、カラルスはもうすぐ側まで来ていた。
久しぶりに近くで見たカラルスの姿に、心臓は高鳴り、喜びすら感じてしまう。この複雑な心情から、言葉を紡ぐ事も身体を動かす事も出来ない。……どうして良いのか、どうしたいのかすら分からない。
「ランテス男爵令嬢が無視されたと言って泣いていた。話を聞いてやってくれ」
――ズキンッ。
鈍く響いた心の痛みは、全身にジワジワ広がるように……手足が先から冷えていく感じがする。
……今、何て言ったの……?
理解したくない言葉だからこそ、脳の処理速度が追い付いていない気がする。だけど、理解したくはないけれど……これは現実で……否、本当に現実なのだろうか……?
いっそ夢であれば……。
「呼び止めて悪かった。気を付けて帰ってくれ」
「待って……」
カラルスは言いたい事だけ言うと、素早く立ち去ろうとする。
――このままじゃダメだ。
そんな思いから、何とか声を絞り出して呼び止める。
ちゃんと話をしなきゃ。ちゃんと話を聞かなきゃ。ランテス男爵令嬢との間柄をハッキリさせなきゃ。じゃなきゃ……誤解されたままになる!私が悪いままになる!
むしろ何でカラルスに相談してるんだという憎悪すらも沸き起こってくるが、それ以上にカラルスから嫌われてしまうのではないかという恐怖が身体を支配する。
「悪い。忙しいんだ、もう行かないと」
……目の前が真っ暗になると言うのは、こういう事なのだろうか。
一瞬で谷底に落とされたような……絶望というものに支配されるのは、こういう事なのだろうか。
私の話を聞く事すらなく、言いたい事だけ言い終えたカラルスは足早に学園の方へと戻って行った。……呆然自失の私を置いて。……きっと、カラルスは気が付いていないだろう、私が今こんな状態である事を。ただ突っ立ったまま、何も動けず呆然としている事を……。
――話する価値すらない女なのかな。
ネガティブな思考は更にネガティブな考えを呼び、どんどん深みにはまっていく。
会う事や話す事も必要なく、ただ婚約者という肩書を背負っただけの女……。貴族の宿命、愛のない結びつき。そこに絆や情なんてものはない……。
自分自身が並びたてた言葉に傷つきながら、そこからどう帰ったのかすら分からない。唯一、ルアが心配そうに私を呼んでいたような気がする……だけだ。
――好き。
――大好き。
――だけど……。
脳裏に蘇る光景は、愛しさ以外の苦しみを私に与える。
好きだから。ただそれだけで突っ走っていた頃が懐かしいとさえ思える。今は……全てにおいて不安が付きまとう。
「……カラルス」
やっとの事で声を振り絞れば、カラルスはもうすぐ側まで来ていた。
久しぶりに近くで見たカラルスの姿に、心臓は高鳴り、喜びすら感じてしまう。この複雑な心情から、言葉を紡ぐ事も身体を動かす事も出来ない。……どうして良いのか、どうしたいのかすら分からない。
「ランテス男爵令嬢が無視されたと言って泣いていた。話を聞いてやってくれ」
――ズキンッ。
鈍く響いた心の痛みは、全身にジワジワ広がるように……手足が先から冷えていく感じがする。
……今、何て言ったの……?
理解したくない言葉だからこそ、脳の処理速度が追い付いていない気がする。だけど、理解したくはないけれど……これは現実で……否、本当に現実なのだろうか……?
いっそ夢であれば……。
「呼び止めて悪かった。気を付けて帰ってくれ」
「待って……」
カラルスは言いたい事だけ言うと、素早く立ち去ろうとする。
――このままじゃダメだ。
そんな思いから、何とか声を絞り出して呼び止める。
ちゃんと話をしなきゃ。ちゃんと話を聞かなきゃ。ランテス男爵令嬢との間柄をハッキリさせなきゃ。じゃなきゃ……誤解されたままになる!私が悪いままになる!
むしろ何でカラルスに相談してるんだという憎悪すらも沸き起こってくるが、それ以上にカラルスから嫌われてしまうのではないかという恐怖が身体を支配する。
「悪い。忙しいんだ、もう行かないと」
……目の前が真っ暗になると言うのは、こういう事なのだろうか。
一瞬で谷底に落とされたような……絶望というものに支配されるのは、こういう事なのだろうか。
私の話を聞く事すらなく、言いたい事だけ言い終えたカラルスは足早に学園の方へと戻って行った。……呆然自失の私を置いて。……きっと、カラルスは気が付いていないだろう、私が今こんな状態である事を。ただ突っ立ったまま、何も動けず呆然としている事を……。
――話する価値すらない女なのかな。
ネガティブな思考は更にネガティブな考えを呼び、どんどん深みにはまっていく。
会う事や話す事も必要なく、ただ婚約者という肩書を背負っただけの女……。貴族の宿命、愛のない結びつき。そこに絆や情なんてものはない……。
自分自身が並びたてた言葉に傷つきながら、そこからどう帰ったのかすら分からない。唯一、ルアが心配そうに私を呼んでいたような気がする……だけだ。
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