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第二章
15.森の中へ
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結局、琴子とキィの仲だけでなく、アンドリューとの間も気まずいまま、魔物討伐の日がやってきた。
「この森で実践となります。森の入り口付近は弱い魔物ですが、奥へと行くにつれて強くなりますので、あまり奥へ行かないように」
森の入り口まで見送ってくれた枢機卿が、最後の念押しと言わんばかりに私達へ声をかけた。
その瞳は本当に心配そうで、まるで父親のようだ。
「アンドリューが先陣して、次が俺。その後ろに琴子とキィ、そしてウィル。最後尾に瑞希とデイルで良かった?」
真が最後の確認をし、皆が頷き合う。キィは真剣な表情をしつつも震えているし、琴子も震えていて顔色が悪い。
真は普通だし、私は……怖いけれど現実味がないというのが本音だろう。魔物と対峙してみないと分からないけれど、お化け屋敷に行くような気分なのだ。
怖い、嫌だと思いながらも……命の危険という危機感がない。どこか夢見心地なのだ。
「では出発する!」
アンドリューが高らかに宣言した後、森へと入っていき、その後を真がついていく。真の腰には剣がぶら下がっており、真自身が騎士のように見える。
そして、その後に琴子とキィ、そしてウィルが付いて行き、私もウィルの後ろについて森へと入る。
「森なんて初めて入るなぁ……」
「そうなのですか? 向こうの世界にはなかったのですか?」
「あるとは思う……けれど……」
山には木々が沢山あるのは知っているけれど、あれの定義は山だ。ならば森は……?
観光地みたいなので見た事はあるから、あるのだろうけれど……実際に自分の目で見た事はない。
知っているのはコンクリートの建物と道。目に見えるのは人工物ばかりの世界だ。
「……元の世界も知らない事がいっぱいあるのよ」
「……」
今更ながら実感するけれど、どうせもう戻れない世界ならば、考えるだけ無駄だ。
言うなれば……元の世界をもっと見ておけば良かったと、こうなってからの後悔だけれど、誰がこうなると予測出来ただろうか。
木々に遮られ、柔らかな陽の光が差し込む森。少しぬかるんだかのような土道。落ちている枝が歩きにくさを増すのは、平たんな道に慣れ過ぎているからだろう。
前を歩く琴子やキィも少し歩きずらそうで、その速度に合わすよう、アンドリューはゆっくりと森の中を進んでいく。
「迷子にはならないの?」
「この付近は全て把握しておりますから。なので、はぐれないようにして下さい」
うん。
一人で魔物に対峙するとか嫌だし、迷子になって森から出られなくなっても困る。
デイルが後ろにいるから大丈夫だろうけれど、私はしっかりと前についていく事に集中した。
「この森で実践となります。森の入り口付近は弱い魔物ですが、奥へと行くにつれて強くなりますので、あまり奥へ行かないように」
森の入り口まで見送ってくれた枢機卿が、最後の念押しと言わんばかりに私達へ声をかけた。
その瞳は本当に心配そうで、まるで父親のようだ。
「アンドリューが先陣して、次が俺。その後ろに琴子とキィ、そしてウィル。最後尾に瑞希とデイルで良かった?」
真が最後の確認をし、皆が頷き合う。キィは真剣な表情をしつつも震えているし、琴子も震えていて顔色が悪い。
真は普通だし、私は……怖いけれど現実味がないというのが本音だろう。魔物と対峙してみないと分からないけれど、お化け屋敷に行くような気分なのだ。
怖い、嫌だと思いながらも……命の危険という危機感がない。どこか夢見心地なのだ。
「では出発する!」
アンドリューが高らかに宣言した後、森へと入っていき、その後を真がついていく。真の腰には剣がぶら下がっており、真自身が騎士のように見える。
そして、その後に琴子とキィ、そしてウィルが付いて行き、私もウィルの後ろについて森へと入る。
「森なんて初めて入るなぁ……」
「そうなのですか? 向こうの世界にはなかったのですか?」
「あるとは思う……けれど……」
山には木々が沢山あるのは知っているけれど、あれの定義は山だ。ならば森は……?
観光地みたいなので見た事はあるから、あるのだろうけれど……実際に自分の目で見た事はない。
知っているのはコンクリートの建物と道。目に見えるのは人工物ばかりの世界だ。
「……元の世界も知らない事がいっぱいあるのよ」
「……」
今更ながら実感するけれど、どうせもう戻れない世界ならば、考えるだけ無駄だ。
言うなれば……元の世界をもっと見ておけば良かったと、こうなってからの後悔だけれど、誰がこうなると予測出来ただろうか。
木々に遮られ、柔らかな陽の光が差し込む森。少しぬかるんだかのような土道。落ちている枝が歩きにくさを増すのは、平たんな道に慣れ過ぎているからだろう。
前を歩く琴子やキィも少し歩きずらそうで、その速度に合わすよう、アンドリューはゆっくりと森の中を進んでいく。
「迷子にはならないの?」
「この付近は全て把握しておりますから。なので、はぐれないようにして下さい」
うん。
一人で魔物に対峙するとか嫌だし、迷子になって森から出られなくなっても困る。
デイルが後ろにいるから大丈夫だろうけれど、私はしっかりと前についていく事に集中した。
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