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第三章
03.キィの焦り
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「……訓練してくる!」
「へ?」
「え、ちょっと……」
いきなりそんな事を言いだし、私は間抜けな声をあげた。
琴子はキィを制止しようと手を差し伸べるが、それより先にキィは扉の方へ向かってしまう。
「キィ! ちょっと待てって! 休む時は休めよ!」
ウィルがすぐ動いてキィの腕を掴むも、キィは力いっぱいその腕を振りほどいた。
「良いの! 訓練してくる!!」
「休むのも訓練なんだぞ!?」
「ほっといて!」
バタンッ!!
ウィルの説得も空しく、キィは大きな音を立てて扉を閉め出て行った。
「くそっ! キィ!」
その後を舌打ちしながらウィルはキィの後を追いかけていく。
あぁなったキィは止められないだろう。もはや見守る一択しかないだろうけれど、ここはウィルに任せた方が懸命か。
きっと私達が付いていった所で、頑固さは変わらない。
「……まだ聖女を目指しているのかな」
扉の方へと視線を向けたままの琴子が、ぽつりと呟いた。
キィは最初からずっと聖女の地位を欲していた。
だから、褒められている琴子を見て、焦ったのかもしれない。
かと言って、そんなドエム的な行動に出られてもと、私は溜息を吐きながら口を開く。
「頑張っているのは分かるけれど」
「無理して身体を壊さないと良いのだけれどね……」
「少しは気を抜く事を覚えないとね」
「真面目なのは良いけれど真面目すぎるというか」
「「……はぁ~……」」
琴子と言葉を交わしていれば、デイルやアンドリューは小さく何度も頷いており、それを視野にいれた私達は最後に盛大な溜息を吐いた。
……キィもまた、心に何かを抱えているのだろうか。
年の割には大人っぽい所があって……何かを必死に掴み取ろうとしている感じがする。
自分の名前が嫌だと言っていたけれど、それも何かあるのかもしれない。
――幼いからと言って、心に傷を負っていないなんて事はない。
そんな思いが浮かび上がってはきた。
画面の向こうで流れる、虐待等のニュース。
自分とは全くもって遠い所で行われており、いまいち現実味さえないような感じがしていたけれど、琴子のDVもあるのだ。
現実味がないだけで、現実に行われていない事ではない。
そう思って少し心配はしていたのだが、キィはこの日から恒例のお茶会どころか、街へ遊びに行こうと誘っても、訓練するからと頑なに断ってきた。
「ねぇ、もうこっちから会いに行かない?」
キィに会う事なく過ぎて行く日々に心配で焦りを感じていたのは私だけではなく、琴子も同じだったようで、そんな提案をしてきたのだ。
「へ?」
「え、ちょっと……」
いきなりそんな事を言いだし、私は間抜けな声をあげた。
琴子はキィを制止しようと手を差し伸べるが、それより先にキィは扉の方へ向かってしまう。
「キィ! ちょっと待てって! 休む時は休めよ!」
ウィルがすぐ動いてキィの腕を掴むも、キィは力いっぱいその腕を振りほどいた。
「良いの! 訓練してくる!!」
「休むのも訓練なんだぞ!?」
「ほっといて!」
バタンッ!!
ウィルの説得も空しく、キィは大きな音を立てて扉を閉め出て行った。
「くそっ! キィ!」
その後を舌打ちしながらウィルはキィの後を追いかけていく。
あぁなったキィは止められないだろう。もはや見守る一択しかないだろうけれど、ここはウィルに任せた方が懸命か。
きっと私達が付いていった所で、頑固さは変わらない。
「……まだ聖女を目指しているのかな」
扉の方へと視線を向けたままの琴子が、ぽつりと呟いた。
キィは最初からずっと聖女の地位を欲していた。
だから、褒められている琴子を見て、焦ったのかもしれない。
かと言って、そんなドエム的な行動に出られてもと、私は溜息を吐きながら口を開く。
「頑張っているのは分かるけれど」
「無理して身体を壊さないと良いのだけれどね……」
「少しは気を抜く事を覚えないとね」
「真面目なのは良いけれど真面目すぎるというか」
「「……はぁ~……」」
琴子と言葉を交わしていれば、デイルやアンドリューは小さく何度も頷いており、それを視野にいれた私達は最後に盛大な溜息を吐いた。
……キィもまた、心に何かを抱えているのだろうか。
年の割には大人っぽい所があって……何かを必死に掴み取ろうとしている感じがする。
自分の名前が嫌だと言っていたけれど、それも何かあるのかもしれない。
――幼いからと言って、心に傷を負っていないなんて事はない。
そんな思いが浮かび上がってはきた。
画面の向こうで流れる、虐待等のニュース。
自分とは全くもって遠い所で行われており、いまいち現実味さえないような感じがしていたけれど、琴子のDVもあるのだ。
現実味がないだけで、現実に行われていない事ではない。
そう思って少し心配はしていたのだが、キィはこの日から恒例のお茶会どころか、街へ遊びに行こうと誘っても、訓練するからと頑なに断ってきた。
「ねぇ、もうこっちから会いに行かない?」
キィに会う事なく過ぎて行く日々に心配で焦りを感じていたのは私だけではなく、琴子も同じだったようで、そんな提案をしてきたのだ。
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