【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第三章

27.敵兵に囲まれる

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「ギャッ!」

 思っていたのと違う男の図太い声での悲鳴に、私は恐れながらも瞳を開けた。
 そこには、血にまみれた真が、剣を赤く染めて立っていた。

「……真……」
「生きる為だ! 早く!」

 呆然と呟く私と違って、真は急いでキィを立たせる。
 もたもたしている時間なんてないのだろう、だってそこまで敵が来ているのだから。
 だけど……自分の甘さに呆然とする。
 真は生きる為だと言って、ちゃんとその手に剣を握った。生きる為に動いている。
 ……なら、私は?
 結局、何を言った所で流されていただけではないか。
 言われたから、この場に立っているだけ。
 覚悟を決めたと言ったって、何も出来ていなかったのだ。

「っ!」

 今、初めて気が付いた。それとも、今やっと視野が広げられたのだろうか。
 デイルやウィルの身体が血にまみれている事にも気が付いた。
 ……白い服なんて血が目立つと最初思っていたのに……今の今まで気が付かなかった自分に驚いた。
 返り血なのか……それとも怪我をしたのか。
 思わず涙が零れ落ちるが、泣いている場合ではない。涙で前が見えなくならないように、私はグッと堪えた。

「王太子の首を取れ!」
「士気を下げろ!」

 敵兵の活気づいた声が聞こえる。
 気が付けば、すぐそこに王太子が居て、その身体も血にまみれている。
 こちらが不利なのは、状況から見ても確実だ。
 最前線に居た筈の兵達は、もうここまで下がってきていたのだ。
 陣営が崩れているのは明らかだ。

「……はっ」

 思わず笑いのような声が漏れた。
 いくら膨大な力を持っていたとしても、使う人間の心が気丈でなければ意味なんてない。
 恵は負の遺産を残していったけれど、ある意味であれ程の執念と気持ちがなければ、あんな大きな事は成し遂げられないのだ。

 ――でも、人を殺す事に力なんて使いたくない。

 所詮、凡人には無理なのだ。
 頭のネジが外れていたり、強固な感情を持っていないと、何も出来ないんだと痛感した。

「もぉ嫌だ……」

 キィが泣きだす。
 気が付けば周囲は敵に囲まれており、王太子も側に居た。
 私達を守るようにデイルとウィル、王太子の護衛らしき人……そして真が囲ってくれているけれど……時間の問題だろう。
 多勢に無勢だ。

 ――魔物ではなく、人間の手で終わるのか。

 こっちの世界に来て、訓練を受けている時には、そんな事を考えすらしなかった。
 魔物に屠られた贈り人の話は聞いたけれど……戦争で命を落とすなんて事……教えられなかっただけであったのかもしれない。
 枢機卿の「生きていてさえくれれば良い」という言葉を思い出したけれど……ごめんなさい枢機卿。
 それは出来ないようです。
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