【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり

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第三章

28.真の力

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「何をやっているんだ! 贈り人が! 役立たずの金食い虫めが!」

 人は窮地に立たされると、その本心が表れるものだ。

「贈り人!? 魔女だ!」

 王太子の言葉で敵兵たちは警戒を一気に強めつつ、親の仇を見つめるような鋭い視線を向ける。
 生きる事を諦めた私を、王太子は問答無用で突き飛ばした。
 最後の悪あがきと言った所だろう。
 誰かを生贄にして、その隙に逃げようと。

「ミズキ様!」

 デイルの手は私に届く事がなく、キィが驚愕の表情を浮かべるのも……敵兵が私を囲むようにした上で剣先を向けるのも。全てがスローモーションのようだった。

 ――お父さん。お母さん。
 ――私も、そっちに行けるかな……。

 自分に剣が突き刺さるのを想像しながら、私は目を閉じる。
 痛いかな……もういっそ一思いに……そんな願いを込めていれば、周囲から断末魔のような叫びが聞こえた。

「ぎゃあ!」
「ぐはっ!」
「何だこれは!」
「うわぁあ!」

 ビシャリと、顔に生暖かい液体がかかって、私はそれに手を伸ばしながら目を開けた。
 ……広がるは血まみれで、色んな部分が切り裂かれた人だったもの。
 手についた液体を見てみれば、それは赤く……血液だというのが分かった。
 人の返り血……。
 一体、何が……。
 後ろを振り返れば、皆の視線は真に向けられており、真は片手を私の方へと向けた状態で、冷ややかな瞳を王太子へと向けていた。

「殺さないって難しいな……」
「ヒッ!」

 声を出して真から距離を取るように後ずさる王太子。

「あれは!?」
「一体何だ!?」
「何が起こった!?」

 敵兵も、真の方を見ながら少しだけ後ずさり、こちらへ近づこうとしない。
 ……真が、何かをしたのだろうか。
 キィも驚愕の表情で真を見ている。

「……」

 しばらく王太子を睨むように見つめていた真だが、その視線を周囲に居る敵兵へと向けて、ふぅと一息吐くと手を横に振った。

 ボコンッ! ボコボコッ!

 ただ、それだけで敵兵の足元が一気にへこんでいった。まるで巨大な落とし穴だ。
 3メートル位凹んだ地面の向こうでは、敵味方関係なく、何が起こったのかと騒めきも起こった。
 ……私だって何がなんだか分からない。理解が追い付かない。

「……え?」

 呆然としながら、私は這いつくばって凹んだ地面の方へと行って下を除けば、おおよそ5メートルくらい地面が下がっていた。
 そこに居るのは喚き混乱に陥った敵兵達と、それに混じった味方も少々。
 驚いて穴の中と向こう側へと交互に顔を向けていた私の隣に、真が立って大きな声で宣言した。

「投降しろ! 抵抗するなら容赦しない! ……手加減できないのは見ただろう!」
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