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72.全ては本当の事だった
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「伝説は本当だったのか!」
ダンッと机を叩く国王陛下の顔には苛立ちの表情が見える。会議室という名の部屋に、円卓の机。そこへ国王王妃両陛下を中心に、国の中枢を担っている数人の人物達が集まっている。そこに事情説明の為にディアスとリディアも連れて来られていた。
「あ……あぁあ……」
王妃陛下は顔を青くして震えているのを自分自身で抱くようにして必死に抑えようとしているが、全く抑えられていない。
「伝説ではなかったという事ですよ」
王太子殿下が、そう口を開くと視線で宰相に合図した。気が付いた宰相は小さく頷くと、ある一冊の本を取って、それを読み始めた。それは王太子殿下が読んでいたのと同じもので、この国の成り立ちが書かれている本だった。
聖獣の恩恵で潤った土地。
人々に魔法を授け守護という形で見守る聖獣。
魔獣達との不可侵条約。
聖獣を大切にし祈るべき王族の義務。
そして……聖獣の赤い瞳。
「あの従者は青い瞳をしていたぞ!?」
ディアスは宰相の言葉を聞くと、否定の言葉を投げかけた。ディアスの言葉に、ハッとした国王陛下や王妃陛下も頷いている。
「……ミゼラ公爵令嬢の従者として側に居る為、瞳の色を変えていたと伝えたでしょう?キエラ伯爵令息とティアド子爵令息も証言した筈だ」
「ガルドとロドルスが!?」
王太子殿下が冷たい言葉を投げると、国王王妃両陛下は思い出したかのように口を噤んだ。反して叫んだのはリディアだった。リディアは自分が不利になるような発言を2人がしていた事に驚いたが、そういえば姿を見ていない事にも気が付いた。
「おとぎ話ではなかったのか……」
「我々は敵対しなくても良い魔獣相手に、勝手に剣を向け、自業自得の反撃にて死傷者を出していた事になりますね」
愕然とする国王陛下へ、追い打ちかのような言葉を王太子殿下が投げかける。
実際、その通りなのだ。攻撃をしてこない相手に勝手に剣を向け、向こうの正当防衛による反撃を食らっていただけなのだ。討伐だ何だと無駄に死傷者を出していただけで、こちらが相手にしなければ悲しむ者なんて出なかった。それこそ年に数回の討伐で、一体どれだけの死傷者を出していたというのだろう。その事実は、少なくとも王太子殿下の胸を痛ませていたが、国王陛下に関しては自分は悪くない!と言った後に言い訳を考えているようだった。
こんな者が国の頂点に立っているとは……そんな事を皆の頭によぎった時だった。
――やめろ。
威圧のある低く鋭い声が、王太子殿下の脳裏に響き渡った。
「!?」
「どうしました?王太子殿下」
ガタッと椅子を鳴らして周囲を見渡せば、驚いた顔をした宰相に問いかけられた。
「今……声が聞こえた」
眉間に皺を寄せて奇怪な者を見るかのような表情をする国王王妃両陛下とは違い、宰相他、大臣達は優秀な王太子殿下が何かを引き寄せたか不可思議な事が起こったのかと、真剣な表情をして次の言葉を待った。
ダンッと机を叩く国王陛下の顔には苛立ちの表情が見える。会議室という名の部屋に、円卓の机。そこへ国王王妃両陛下を中心に、国の中枢を担っている数人の人物達が集まっている。そこに事情説明の為にディアスとリディアも連れて来られていた。
「あ……あぁあ……」
王妃陛下は顔を青くして震えているのを自分自身で抱くようにして必死に抑えようとしているが、全く抑えられていない。
「伝説ではなかったという事ですよ」
王太子殿下が、そう口を開くと視線で宰相に合図した。気が付いた宰相は小さく頷くと、ある一冊の本を取って、それを読み始めた。それは王太子殿下が読んでいたのと同じもので、この国の成り立ちが書かれている本だった。
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聖獣を大切にし祈るべき王族の義務。
そして……聖獣の赤い瞳。
「あの従者は青い瞳をしていたぞ!?」
ディアスは宰相の言葉を聞くと、否定の言葉を投げかけた。ディアスの言葉に、ハッとした国王陛下や王妃陛下も頷いている。
「……ミゼラ公爵令嬢の従者として側に居る為、瞳の色を変えていたと伝えたでしょう?キエラ伯爵令息とティアド子爵令息も証言した筈だ」
「ガルドとロドルスが!?」
王太子殿下が冷たい言葉を投げると、国王王妃両陛下は思い出したかのように口を噤んだ。反して叫んだのはリディアだった。リディアは自分が不利になるような発言を2人がしていた事に驚いたが、そういえば姿を見ていない事にも気が付いた。
「おとぎ話ではなかったのか……」
「我々は敵対しなくても良い魔獣相手に、勝手に剣を向け、自業自得の反撃にて死傷者を出していた事になりますね」
愕然とする国王陛下へ、追い打ちかのような言葉を王太子殿下が投げかける。
実際、その通りなのだ。攻撃をしてこない相手に勝手に剣を向け、向こうの正当防衛による反撃を食らっていただけなのだ。討伐だ何だと無駄に死傷者を出していただけで、こちらが相手にしなければ悲しむ者なんて出なかった。それこそ年に数回の討伐で、一体どれだけの死傷者を出していたというのだろう。その事実は、少なくとも王太子殿下の胸を痛ませていたが、国王陛下に関しては自分は悪くない!と言った後に言い訳を考えているようだった。
こんな者が国の頂点に立っているとは……そんな事を皆の頭によぎった時だった。
――やめろ。
威圧のある低く鋭い声が、王太子殿下の脳裏に響き渡った。
「!?」
「どうしました?王太子殿下」
ガタッと椅子を鳴らして周囲を見渡せば、驚いた顔をした宰相に問いかけられた。
「今……声が聞こえた」
眉間に皺を寄せて奇怪な者を見るかのような表情をする国王王妃両陛下とは違い、宰相他、大臣達は優秀な王太子殿下が何かを引き寄せたか不可思議な事が起こったのかと、真剣な表情をして次の言葉を待った。
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