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23.楽しそうなベル

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 ……ならば、私らしい虐めというものを見せてあげましょう。

「虐め……ね」

 私の言葉に、伯爵令嬢含めた全員がビクリと身を竦める。私が居ないと思っての発言だったのだろうから、怯えるのは仕方がない。
 教室に居る全員が狼狽えている間に、私は伯爵令嬢の元まで歩いていき……机にあったインクを、伯爵令嬢の頭からかけた。
 ベビーピンクの髪がじわりと黒くなり、インクは顔にまで垂れてくる。

「…………あ……」

 教室全体が無音となり、皆が呆然と立ちつくしている中、伯爵令嬢だけは自分の身に起きた事が信じられないのか、喉の奥から震える声で一言だけ発した。そうしている間にも、インクは制服にまで垂れていっているのだけどね。
 私は伯爵令嬢に満面の笑みを送ると、そのまま教室を立ち去った。背後からは正気を取り戻した人々の叫びや悲鳴が聞こえる。

「お嬢様。バケツを用意しましょう」

 次はどうしようかな、なんて思っていれば、ベルが声をかけてきた。バケツ……なるほど。
 ジェンは身を隠す事が出来るだろう場所を指さし、ベルはバケツを用意しに行った。
 王太子が居ない所でやってしまったけれど、あれだけ人目に晒されれば、すぐに耳へ入るだろう。一刻も早く婚約破棄を言ってきてほしいものだ。








「うぅうう……」
「大丈夫?アメリア」
「ほんっと!酷い女よね!」

 ベルの目論見通り、噴水でインクの汚れを落とす伯爵令嬢を発見する。着替えは……まだのようだ。まぁ、あの制服はもう着る事が出来ないけども。
 泣きながらハンカチを濡らし、必死で自分の髪を拭いている。周囲に居る友達二人も一緒になって拭いているが、インクの汚れだからか、なかなか落ちない。

「お嬢様、行きましょう」

 楽し気に声をあげ、バケツを手に立ったベルは、瞳を輝かせているように見える。……まぁ、やっと仕返しが出来るとでも思ってそうだ。そして、その変な匂いに気が付く。

「……これは?」
「汚水です。不浄の場所を掃除してきました」

 ……何てこと。
 掃除までして手に入れてきたという、この徹底ぶり。私よりもベルの方が素質あるのではないか。……いや、虐めの素質なんて誰も欲しくないわね。

「ひっ!」
「きゃっ!」

 気を取り直して、私は伯爵令嬢の方へ歩み寄れば、お友達だろう二人は顔を青くさせて小さな悲鳴をあげたが、伯爵令嬢は思いっきり私の方を睨んでいる。
 睨む程度なら私に害はないと、そのまま歩み寄り、ベルへ対し目で合図する。

 バシャンッ!

「……え?」
「臭っ!」
「何これ!?」

 ベルにバケツの水を駆けられ呆然とした伯爵令嬢だが、隣に居た友達はすぐ匂いに気が付いて距離を取った。

「インクを取るお手伝いをしようと思いまして……」
「お嬢様、不浄場の汚れた水でした」

 ……掃除した水ではなかったの?
 ベルの貯め込んだ静かな怒りに少し驚きを感じる。ベルを怒らせると、こういう事になるのだと、しっかり覚えておかないと……。

「きゃああああ!!!!」
「私達にもかかってしまいましたわ!」
「ひ……ひどいぃいい!!!!」

 ベルの言葉に、友人だろう二人は悲鳴をあげ、スカートにかかってしまった場所を広げて嫌そうにする。
 頭から思いっきり水をかけられ、ずぶ濡れになった伯爵令嬢は涙を流し始めたが、誰も近づこうとはしない。
 まぁ、汚水にまみれていて匂いもするから当然だろう。

「ひ……ひどいです!私が何をしたって言うのですか!?あ……あんまりじゃないですか!」

 ……何をしたのかも理解していないというの?
 まぁ、周囲に居る誰もが教える事もできない程だから、自分の行いを悔い改める機会など与えてもらえないでしょうね。
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