【完結】ストーカーに召喚されて溺愛されてます!?

かずきりり

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「遅い!今日は舞の練習をすると言っていたでしょう!」

帰宅すると案の定、母からのおかえりはなく、罵声が第一声となった。
日直の仕事をしていたと言えば、毎日じゃないかと言われた為、毎日変わっているのだと伝えると、更に目を釣り上げられた。

「断る強さを持ちなさい!」

そんな事を言われても。なんて、心で思えど口には出さない、否、出せない。
それからはお決まりの説教を受ける。曰く神社だけでは生活出来ない、社会人になる為に必要な強さだ、精神を強く持て、全てを受け入れるなと。
分かっている、理解できる。だけれど幼い頃に叩き込まれた他者を思いやり受け入れるという奉仕が、既に私という個を形成していて、なかなか抜け出す事が出来ないのだ。

「全く……舞の準備は出来ているの?」
「……はい」

全く反応を示さず、返事もしない私に対し、母はため息をついたかと思うと舞の話を振ってきた。
うちの神社は空間の神を祭るとされていて、十年に一度、世界の歪みを正す舞を行う。
異次元だのパラレルワールドだのという言葉があるように、空間に歪みが生じて良くないものが入ってこない為とされていて、とても大切にされている行事だ。

「失敗は許されません。早く練習に向かいなさい」
「はい」

母に一礼して、着替える為に自室へ向かう。失敗は許されない、大切な舞。幼い頃から何度も何度も練習を繰り返してきている。もはや日課のような舞は、私の身体に染み付いている。
十年前は、母の舞を見た。神へ祈りを乞い、世界の歪みを正すとされる舞は、とても美しく、指先から裾の先まで、鈴の音からリボンの先まで、全てが計算され尽くしているのではないかと思われる程に優雅だった。

「そういえば……」

ふと思い出す、十年前に一度だけ出会った男の子。
母の舞が始まる前、舞台から少し離れた木々の合間に居たのだ。近所の子かと思いきや、それっきり会う事はなかったけれど。
ほんの数分か数十分、一緒に居て話をしただけの男の子。もう何を話したのかも覚えていないけれど。

「また……会えるかな」

なんとなく、そう願ってしまった。
舞の時に会ったのなら、舞の時に会えるのではないかと。
もしかして、どこかの世界からこちらへ落ちてきた良くないものだったのかな、なんて思いながらも、悪い影響を与えるものなんかではなかった筈だ。もしそうであれば、自分は今ここに存在していない。
否、自分という定義であれば存在なんてしていないも同義だけれど。

シャランッ

思考を切り替え、鈴を握り、毎日身体に覚え込ませている舞を舞う。
この時ばかりは全ての雑念が払える、唯一の時なのだ。
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