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「毒の無効化は作れても、状態異常全般とするには、まだ研究が必要だなぁ」
「物理攻撃減少以外にも、魔法効果の対策が欲しいですねぇ」
あれから、日中はずっと師匠と魔法具作りに精を出している。
既に毒無効、物理攻撃減少だけでなく、よく眠れる、体調不良減少等の魔法具まで作っては師匠が手渡していた。
最初は男からの度重なるプレゼント、挙句に魔法具という事で、実験台を懸念していた王太子殿下だった。けれど、どこかに私の猫姿モチーフを入れると何故か喜々として身に着け始めたのだ。……複雑でしかない。
「簡単なところで集中力増加とか……」
「これ以上、仕事漬けにするのも……」
私の言葉に師匠が苦笑いを示した所で、魔法棟の中が騒がしい事に気が付いた。
「……なんでしょう?」
人々の驚きや悲鳴と言った声。それが判別できるくらいに、騒動の元が近づいてきた頃には、その足跡すらも耳に入った。
……どうやら、走っていると思える程の早歩きをしてのは理解したけれど……。
そんなに急ぐ事が、この魔法棟の中に?走らないという事は、貴族?
師匠と目を合わせて首を傾げていると、この部屋の扉が、バンッ!と勢いよく開いた。
「イル! 迎えに来たぞ!」
「!?」
「え」
王太子殿下が少し息を切らしながらも、平然そうな顔をして言い放つ。私は、あまりの事に硬直した。
……え?今、まだ仕事中じゃ……。
そんな私の声が聞こえたかのように、否、師匠自身も疑問に思ったのだろう、王太子殿下に問いかけた。
「お仕事はどうされたのですか?」
「早く終わったから、急いでイルを迎えに来た! もう自室へ戻るからな! 護衛を連れて行かねば!」
なんという事だ。
そして、一応護衛という事は覚えていたのか。しかも主にプライベートタイムでの護衛だと知っていたからこそ、わざわざ迎えに来たと……?……愛でる為に?
「……イルをもふりたくて仕事を早く終わらせた気しかしませんねぇ……」
師匠が呟いた言葉に、それしかないと思える。
とりあえず、王太子殿下が私に意識を向ける前に、部屋から脱出したい。そしてどこかで猫になりたい。
そんな事を思いながらも、足が動かない。視線を足元へ少し向けると、立ちすくんでいる自分の身体が、小刻みに震えているのが分かった。
――人の姿で、見知らぬ人の前に出る事が、こんなにも怖くなったのか。
そもそも伯爵家に居た時から、私が接してきた人間というのは少なく、唯一師匠だけが味方だ。魔法具屋の店主、ギルドの受付嬢などは、害がないだけで味方とは言い切れない存在なのだから。
「物理攻撃減少以外にも、魔法効果の対策が欲しいですねぇ」
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「!?」
「え」
王太子殿下が少し息を切らしながらも、平然そうな顔をして言い放つ。私は、あまりの事に硬直した。
……え?今、まだ仕事中じゃ……。
そんな私の声が聞こえたかのように、否、師匠自身も疑問に思ったのだろう、王太子殿下に問いかけた。
「お仕事はどうされたのですか?」
「早く終わったから、急いでイルを迎えに来た! もう自室へ戻るからな! 護衛を連れて行かねば!」
なんという事だ。
そして、一応護衛という事は覚えていたのか。しかも主にプライベートタイムでの護衛だと知っていたからこそ、わざわざ迎えに来たと……?……愛でる為に?
「……イルをもふりたくて仕事を早く終わらせた気しかしませんねぇ……」
師匠が呟いた言葉に、それしかないと思える。
とりあえず、王太子殿下が私に意識を向ける前に、部屋から脱出したい。そしてどこかで猫になりたい。
そんな事を思いながらも、足が動かない。視線を足元へ少し向けると、立ちすくんでいる自分の身体が、小刻みに震えているのが分かった。
――人の姿で、見知らぬ人の前に出る事が、こんなにも怖くなったのか。
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