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 王太子殿下の執務中は、執務室に側近と従者が居る。扉の外には護衛も居るし、王城という事でメイドや執事など人の目も多々ある。だからこそ、その時間は報告を兼ねて魔法棟に出向きたいのだが……まぁ、王太子殿下に阻止され続け、時間になっても来ない私を師匠が迎えに来るわけだ。

「それでは、失礼いたします」

 王太子殿下の返事を待たず、師匠は執務室から出て、魔法棟へ向かう。流石に王太子殿下も追いかけてくるという事はしない……というか、本当に自分のプライベートな空間以外では私にデレデレしないのだ。まるで周囲にバレたくないと言った様子で。



「弱点だと思われたくないのでしょうね」
「弱点?」

 魔法棟にある師匠の部屋に着き、その事を伝えてみれば、そんな言葉が返ってきた。

「イルを人質……基、猫質にしようとか、そういう意味で……まぁ、無理でしょうけれど」
「あ~……いや、それこそ意味がないような……いや、王太子殿下への精神的攻撃を考えると有効……?」

 思わず首を傾げたくもなるけれど、王族が弱みを見せないのは当たり前の事なのだろう。私自身も侯爵夫人となる為に学んだ知識の中にも、感情を外に出さない、弱みを見せないとあった。本当に面倒くさい以外の何ものでもない。無機物にでもなれというのか。

「それで……昨夜はどうでした?」

 紅茶やケーキが机の上に置かれ、私は人の姿に戻り、食べながら質問に答える。
 変わらない猫可愛がりの、女性としての何かがゴリゴリと削られる毎日……の中でも、私はきちんと自分の役目を果たしているのだ。

 ――そう、護衛として。

「二人。一人は城内に忍び込んで、食事に毒を盛ろうとしてたわ。一人は寝静まってから寝首をかこうとしたのか、寝室の屋根裏。どちらも返り討ちにして、いつもと同じく魔法棟の地下牢に送っておいたけれど」
「じゃあ後で確認しておきますね~」

 ケーキを頬張りながら、笑顔で答えれば、師匠も紅茶を飲みながら、にこやかに答える。

「しかし……毒ですか」

 そこまで城内に侵入しているという事は、それだけ城内に手足となる駒を多数置けているという事なのだろうか。そこはよく分からないけれど。
 そもそも、ただバルコニーから侵入してくる初期に比べれば、屋根裏に居るとか、刺客もある意味で城内に潜り込みすぎだろ!とは確かに思う。

「常に状態異常無効化の魔法が発動する装飾品なんて欲しいですね」
「っ! ならば、ちょっとした物理攻撃を無効化する装飾品を改造して、即死回避なんて物も作れないかな!?」

 私の言葉から、師匠は顔を輝かせる。
 勿論、言うまでもなく、その日から魔法具作りに明け暮れる幸せな日々となったのは、言うまでもない。
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