祓ってはいけない

牧神堂

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エピローグ

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 各地で地味に行われている地域の怪談会。
 令和元年夏、地元のライブハウスで行われたその会で当時二十歳の絵美さんは以上の話を語った。
 その後のことを知りたくなった私は会が終わった後、絵美さんに話しかけた。
 絵美さんはにこやかに言った。
「それからはもう特に何もなかったですよ。あったら話してます」
 私はちょっと聞きにくいことを質問した。
「体験談なんですよね? もう吹っ切れてるんですか?」
 少し表情を曇らせた絵美さんを見て、私はしまったと思った。
「そうでもないんですけど・・・・・・あれから随分経ってますから」
 言葉を選ぶようにして続ける。
「ずっと自分の胸にしまっておいたことですが、成人しましたし。区切りとして、この辺で人に話して・・・・・・むしろ、そうすることで吹っ切ろうと思ったんです」
 なるほどと私は頷いた。

 別れの挨拶を交わしての去り際、後ろで絵美さんが「あれっ」と声を上げた。
 私は立ち止まり、再び声を掛ける。
「どうかしましたか?」
 絵美さんの顔は青ざめていた。
「お守りが・・・・・・」
 絵美さんの手には小さな赤い袋が握られていた。
 話に出てきた、霊能者に渡されたお守りだと察せられた。
 ずっと持ってたんだ。

「何だか、砕けてるみたいで・・・・・・」
 絵美さんは小刻みに震える声で言う。

「・・・・・・月日が経ってますから。たまたまですよ」
 そう言うしかなかった。



 その翌年の夏は感染症の影響で怪談会は行われなかったが、私は主催者に電話して絵美さんのことを尋ねてみた。
 彼女がどうしているか、どうにも気になっていたのだ。
 主催者は声のトーンを落として言った。

「詳細は知りませんが、春先に亡くなられたようですよ」

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