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第一章
8話 そして、なるようになった
しおりを挟む「歩きながら話そうか」
伯爵に促され、あたし達は再び死体の森へと歩を進める。
伯爵の太陽石のおかげで周囲がすんごい明るいのは助かる。
でもその分、死体がはっきり見えすぎだよ。
ただね、ちょっと感覚が麻痺して死体慣れしてきた感はあったりする。
いいことなんだろうか。
ああ、それよりも、それよりも。
それにしても、それにしても。
この大ピンチ。あたしどうしたらいいの。ここにいる事実をどう説明しよう。
不運すぎる。これ、ゲームの序盤でラスボスに遭遇したようなもんでしょ?
この世界について詳細な情報を得た後だったならまだ何とかなったかもだけどさ。知識レベルが生まれたての赤ん坊にも等しい今はどうしようもない。どこそこの国から来ましたとすら言えないんだもん。
お手上げ。詰んだ。うまい嘘のつきようがない。
もしも正直に別の世界から来ちゃいましたって言ったらどうなる?
そうかそうかと納得してくれる?
過去にあたしと同じようなことになった人がいっぱいいて、異世界からの転移がこの世界では割りと普通のことだったならいいよ。それならそんな風に普通に受け入れてくれるかもしんない。でも、それってすごい賭けだよね。そういう前例がなかった時は・・・・・・頭おかしいと思われるか、まかり間違えば異界と行き来する魔女扱いされかねない。怪しいにも程があるので、そうなる可能性は充分高そうな。
そうなったら?
火炙り?
やっ、やめてえええええ!!
せめて殺してから炙って下さい。
「東方から来たのかい?」
伯爵が聞いてきた。
「あうっ、はっ、はい」
とりあえず肯定。
うう、遂に尋問が始まる。ボロ出さないようにしなきゃ。
誤魔化すんだ。ただ、ひたすら、何か、こう、とにかく、最善を尽くして誤魔化せ、あたし。
で、何? 東方?
「やはり! その魅惑の肌色とエキゾチックな美しい顔立ちは東方人特有のものだ。艶やかな黒髪は小鳥を誘い、切れ長の眼から放たれる妖艶の眼差しは獅子の心をも蕩けさせる。愛らしい小さな鼻に聖霊は踊り、玉の唇にはマルテンシェの花も咲こう」
伯爵は声高らかに天を仰いで歌うように言った。
荷がなければきっと両手を真一文字に広げていただろう。
で、ええと、何言い出してんの? この人。
「だが、私の知る東方人とは随分衣装の趣が違うね。つまり、東方にも様々な文化があるということだね?」
「あー、はい、そうです」
肯定、肯定。
「なるほど。東方の情報はあまり入らないのでね。無知で申し訳ない」
「あ、い、いえっ、あたしも西方のこと良く知らないですしぃ」
うおっ、何か勝手に先回りして納得してくれて助かる。
それに伯爵も東方とやらの知識をろくに持たないのが判明。こりゃ付け入る隙はありそうだね。
「あんな遠方の地から何故このような西の田舎へ来たのだね?」
うっ、これどういう設定にしよう? チドルには旅してるって言ったけど、中世レベルの世界でそんな遠くから女の一人旅って無理あるよね。東方がどれくらい遠いのか知んないけど、適当言うのは危険だ。どうしよう・・・。
「いっ、言いたくありません」
もうほぼヤケクソ。
「そうか、すまぬ。当然深い事情があってのことであるな」
わっ、うまく伯爵の性格の隙を突けたみたい。
「この王国では東方人は珍しくてね。私も帝都に船で来る商人一行しか見かけたことはなかったよ」
「そ、そうですかぁ」
「彼らが皇帝に献上するために連れてきた東方の女奴隷達はそれはもう美しく・・・・・・あ、いや、失礼」
ん? もしかしてあたしのこと逃亡奴隷とかって思ってるのかな??
詮索してこないならそれでもいいけど、帝都に通報したりしないよね・・・・・・。
「彼らとは言葉が通じず話すこともなかったが。通詞を持てるのは皇帝の特権だからね」
なるほど。勝手に色々情報くれてありがと。
「しかし、君は言葉が分かる」
はうっ!!
「あー、えー、そのぉ」
「言いたくないことを言わなくてよい。今どうやって生活しとるね。天使のお嬢ちゃんの家にいるのかい?」
「えー、いえ、これまでは野宿してまして。チドルとは今日知り合ったばっかりで、お世話になるのは今夜からの予定です」
今夜からって何だ。ずっとチドルの家に居候するつもりか、あたし。
ん? 何かチドルがちょっと嬉しそうな顔した。
「金はあるのかい?」
「・・・・・・ないです」
「ずっとこの国に留まるのかな?」
「そ、それは未定です。別に目的もないですし」
「ならば私に仕えないかね? 城に住み込みで」
「ふえっ! ええっ!?」
これは驚いた。この国の文化すらろくに知らない人間を雇ってどうする?
「率直に言う。言葉が分かる東方人は宝だ。東方のことを色々と教えて欲しいのだ」
そうか。稀少な情報は武器にもなるし、領主としちゃそりゃ喉から手が出るほど欲しいよね。
「客として城に迎えてもよいが、雇用する形なら堂々と給金も払えるからね。領主といえど勝手な金の使い方はできぬのだよ」
へえ、そこんとこちゃんとしてるんだ。いいことやん。
でもあたし、雇われたとしてパチモン情報しか提供できないんですけど。それはねぇ、さすがに良心が痛むよ。
「いつかこの地を去るならそれまででよい。いずれにせよ金はいるだろう? 給金は弾むがどうだね?」
ん・・・・・・。
うーん。
「行った方がいいよ」
チドルが言った。
えらく寂しそうな顔で言った。
「村には外国の女の人が働けるとこないと思う」
うっ。そりゃそうか。何も知らない謎の小娘の面倒なんて誰も見てらんないよ。
「そういえばチドルはお金あるの?」
あたしは聞いた。
「お姉ちゃんが残してくれたお金があと少し・・・・・・」
「ん? どういうことだね?」
伯爵が口を挟んできた。
「あ、この子、親ももういなくて一人なんです」
あたしが答える。
「何と、そうだったか。ならば天使のお嬢ちゃんも城に来ないかね? 子供にできる仕事もあろう」
「えっ! ホントに! ですか?」
チドルはすぐに食いついた。
「もちろんだとも」
伯爵が妙に魅力的な微笑みを見せる。
ん、この展開は喜ぶべきとこだよね。よかった、チドル。
で、あたしはどうしよう。どうする?
「ねぇ、ミチル」
迷うあたしにチドルは言う。
「財産も仕事も頼れる相手もいない女の人はみんな・・・・・・娼館に行くしかないんだよ。チドルも覚悟してた」
うえっ?!
ひ、ひえ~~~っ!!
あああ、言われてみりゃそうだよね。
基本的にぬるま湯に浸かって生きてきた軟弱なあたしは、まだそこまで腹をくくれないよ。
第一、中世レベルのこの世界でそのお仕事は・・・・・・病気もらい放題でしょ?
無理。絶対無理。
あー、もう決めた!
うん!
生きるためにはしたたかになんなくちゃ。
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「お城に行きますっっ!」
あたしはきっぱりと言った。
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