何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

文字の大きさ
10 / 28
第一章

9話 そんな感じだろうなとは思ってました

しおりを挟む
 
 あたし達はようやく地獄の平原を抜け出た。もう二度と来たくない。
 その後は大きな街道をまた長いこと進む。
 道々、尋ねられるままに東方の英雄や合戦のことなど簡単に話す。伯爵は目を輝かせて聞き入り、唸ってたな。
 まあ、語ったのは三国志とか史記とか、その辺の話ですよ。
 途中、伯爵の太陽石の光が弱まってきて、あたしとチドルはまた石擦りのお仕事に励むこととなった。擦れば擦るほど長持ちするらしい。
 やがて、あたしらは二股に道が分かれた所に行き着いた。

「城はこっちだ」
 伯爵が左の道を指し示した。
 言われなくても、そのずうっと先にあの大きなお城が見える。
「村はこっちだよ」
 チドルは右の道を指す。
「なのでここでいったんお別れだよ。約束した通り二日後の朝に迎えを行かせるから準備を整えておきなさい」
「はいっ!」
 伯爵の言葉に、あたしとチドルは声を揃えて返事した。
 ま、あたしは別に準備することなんてないんだけど。
 
 伯爵はあたしの荷物を見て言ったんだ。
『その中には東方の珍しい物も入っているだろう。金に変えようと狙う不届き者がおるやもしれぬ。城では君の荷に許可なく手を触れてはならぬと厳命を出そう』って。
 あたしの不安を先読みするかのように気を遣ってくれる。
 まさかカイゼル髭のおっさんにキュンとする日が来るとは思ってなかったよ。
 つっても恋心なんてのとは全然違うけど。

 伯爵は獣を肩に担いでここまで歩いてきたにも関わらず、ちっとも疲れた様子はない。
 そのままズンズン左の道を歩調を早めて進んでく。今まではあたしらの足に合わせてくれてたんだなあ。
「行こっ!」
 チドルはあたしの手を取って、右の道へと引っ張った。
 あさっての朝まであたしはチドルの家で過ごすんだ。
 あたし達はチドルの村への道を進む。




 決して豊かそうには見えない古い木造の簡素な家が並ぶ通り。
 その中の小さな一軒がチドルの家だった。
 
 高台の森から眺めた時の感じでは、この一帯の家の数は五十戸もなかったと思う。
 家屋の多くはチドルの家がある辺りに集まっていて、あと何軒かが周りに点在してたかな。
 田畝に囲まれてるから、農民が大多数なんだろうね。共同農地で働くような。
 チドルが住む小さな通りの家には何か記号が描かれた看板を出してるとこもあって、そこは何らかの工商を生業としてそう。
 チドルの話では、この村のような集落が国内各所にあるっぽい。
 都市的な地域は向こうに見える城を囲む、広大な城壁の中。城塞都市ってやつ。
 チドルのお姉さんが妹に語ったという話から想像すると、それなりにちゃんと都市機能を備えている。
 つってもその人口は五千から一万人程度なんじゃないかな。推測だけど。


 チドルの家の中に入れてもらう。入口には布が吊されてるだけ。ドアなんてないよ。
 おじゃましまーす。
 部屋は二つあった。居間兼台所と寝室。
 木製のテーブルは粗末なつくり。あとは椅子に長方形のチェスト。鍋や食器。
 そして、40センチくらいの高さの木枠を組んだ上にシーツを掛けたものがベッドね。木枠の内側にはたぶん干し草かなんか詰まってる。
 壁は漆喰塗り。土の地面をそのまんま固めただけの床には藁が敷かれ、居間には囲炉裏があって家の中は煤だらけ。煙突ないからね。
 んで、覚悟はしてたけど、やっぱりお風呂なんかないのね。ぶっちゃけチドル臭いもん。トイレも桶で用を足すんだって。ま、この世界に来てから野外でしてたわけで、贅沢は言えないね。

 天井からは小さな木製の皿が吊り下げられてた。真ん中に穴が開いてるやつ。
 チドルは持ってた太陽石をその上に乗せる。穴は石が落ちないサイズに調整してあるんだ。室内を照らすにはこれで充分。火を使う照明と違って油は必要ないのでリーズナブル。火事の心配もない。
 こんな風に庶民も普通に使ってるし、このアイテム凄い。暗くなるとろくに何も出来なかった地球の中世ヨーロッパとは違うわ。しかも、太陽石の光にはあたしが心配してたノミ・ダニ・シラミに類する蟲を寄せ付けない効果もあるんだって。素晴らしい!


「ミチルー、お姉ちゃんの服あるから着替えたら? あげるよ」
 チドルが言った。
 それはありがたい。いつまでも人目を引く格好していたくなかったし。
「でもお姉さんの形見だよね? いいの?」
「いいの。お城には持ってけないし」
「そう。じゃ大事に借りとく。いつか返すからチドルが大きくなったら自分で着ればいいよ」
「うんっ!! ミチルはお姉ちゃんと身長あんまり変わらないから丁度いいと思うよ」
「そうなんだ」
「あっ、でも胸はブカブカになるかも」
「・・・・・・・・・」
 ベタだな。

 借りた服でファッションショー。
 お姉さんは都市でお城勤めしてただけあって、垢抜けた服も多少持っている。
 まずは純白のゆったりしたロングワンピース。
 次に上半身はぴっちりとして襟ぐりは開き、腰は締まり、スカートはふんわりな赤いコタルディ。これ勝負服かな?
 修道女が被るようなウィンプルもあるね。
 何かの毛皮の茶色いショールは、干からびた肉片付き。
 他、次々と身に纏ってポーズをキメるとチドルは大喜び。
「似合う、似合うよ。ミチル!」
 で、最後は・・・。
 ん?
「それお城でお仕事する時の制服だよ」
 チドルが説明してくれる。
 へえ。ふーん。

 完全にメイド服です。
 黒のドレスとエプロンドレスとヘッドドレス。
 19世紀ヴィクトリア朝時代の服がなぜかここにあるうー。
 いや、地球の歴史と同じわきゃないから、別にあってもいいんですけどね。
 あと着替える時にパンツとブラをチドルに見られた。すっごく不思議そうにしてた。聞いたら、やっぱりこの世界にパンツは存在しないみたいだ・・・・・・。

 あ、チドルは粗末な服着てるけど、実はお姉さんに買ってもらった可愛らしい服も持っていた。
 着ないでチェストの中に宝物のように大事にしまってあるんだよね。
 気持ちは分かるけど、すぐに成長して着れなくなるぞ。


 あたしはとりあえずベージュの筒型貫頭衣姿で落ち着いた。これが普段着。
 で、夕食だー。チドルが作ってくれた木の実のスープと焼いた玉虫肉。固くて黒いパン。
 木を削った荒い造りのフォーク・スプーン・ナイフがテーブルに並んでる。中世ヨーロッパより進んでるね。手づかみでなくて助かる~。
 玉虫は虫とは思えないボリュームのお肉感で普通に美味しい。ちょっと生前のお姿を見てみたいな。
 食べ終わったらあたし達はもう眠くなってしまってた。疲労困憊なのだ。
「いっぱいお話したいけど、今日はもう寝よ?」
 チドルが言う。
「うん。賛成~」
 あたしが答えると、チドルはさっさと素っ裸に。
 あー、そうきたか。まぁ、知ってた。中世ヨーロッパと同じね。
 しゃーない。
 あたしもすっぽんぽんになる。
 そして、二人で一つのベッドへ。
 枕はない。

 毛織りの掛け布団は薄いけど、身体くっつけてると裸でもあったかいね。
 チドルは妙にもぞもぞ、あたしにしがみついてくるな。
 よしよし。
 やがて可愛い寝息が聞こえてきた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...