何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

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第一章

11話 黄金の一日

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 まぁ、細かい成り行きはいいや。
 実際のとこ、あたしは異世界の古書を無料で入手しちゃったことで気持ちが浮き立っていた。鼻唄出そう。
 足取り軽くチドルの家に戻る。
 チドルは・・・・・・まだ帰ってないな。
 あたしは部屋の隅の暗がりにうずくまり、本を開いた。

 文字は読める。何となく。
 だけど、だけどね、その意味がよく分からん。
 何ていうか、日本語の文でもガチガチの古文の意味がよく分かんないのと同じ。
 これ、相当古い時代に書かれたものなんじゃないか。
 どのページを開いても、ぎっしり書き込まれた文字の文章のつながりが読み取れない。でも、単語単位で分かる部分はけっこうある。それらを手掛かりにあたしは考え、推測した。
 どうもこれは魔導書の類いではないか?
 おばあさんの台詞もそれを裏付けてるように思う。
 でも、これじゃ書の言葉に耳を傾けようがありません。要するにあたしは選ばれし者とやらじゃなかったってことでしょ?



「ただいまー」
 チドルが帰ってきた。
「遅くなっちゃった。もう起きてる? パン買うついでに知り合いの人達にお城に行くこと報告してきたの」
「そっかぁ」
 あたしは立ち上がり、本をテーブルの上に置いた。
「あれっ? これ」
  チドルがちょっとびっくりしたような声を上げる。
「あー、うん。井戸を使いに行ったら風変わりなおばあさんに会ってね、なんでかくれたんだよ~」
 あたしはおばあさんの容姿の説明を付け加えた。
「あっ、それサマンサさんだよ」

 チドルによると、サマンサさんは薬を調合したり祈祷や産婆をしたりして生計を立てているらしい。代々そうやって生きてきた家の女で、サマンサさんの代までみんな私生児を産んでその娘に後を継がせた。
 ・・・・・・男の子が生まれた時はどうしてたんだろ。その子の運命は・・・・・・。
 で、サマンサさんは三人の娘を産んだけど、一人は家出し、二人は流行り病で亡くなってもう後継ぎはいないという。
「サマンサさんがいなくなったら、遠くまで薬貰いに行かなきゃならないって皆困ってる。最近もうろくしてきてるし」
 要するに魔女的な立場の人だ。話を聞くと迫害されたりはしてないようだけど。

 あたしは思い切って聞いてみた。
「サマンサさんは魔女ではないの?」
 チドルはキョトンとした。
「何で? 悪いことはしないよ。チドルも怪我を治してもらったことあるよ」
 そっか。魔女狩りは心配したような段階までは進んでないのかな。
 地球の歴史のようにならなければいいけど。無実の人が狩られ、魔女だとでっちあげられ、拷問で自白を強要され処刑される狂騒。報奨目当ての密告社会。弱者が憂さ晴らしの生贄にされる胸糞悪い世界。

「本のことは何か聞いたことない?」
「んー、あっ!」
「何?」
「すごい思い出したよ。そういえばお姉ちゃん言ってた」
「何、何?」
「サマンサさんは酔っ払うとね、家業を継いだ時に嫌な本を押し付けられたってよく愚痴ってたらしいよ」
「ほ~? 嫌な本ね」
「毎日最初から最後までしっかり目を通すのが習わしで、苦行みたいでもううんざりって」
「嫌々勉強しなきゃならなかったんだね」
「ちょっと違うみたい」
「ん?」
「代々誰も、サマンサさんのお母さんもちゃんと読めなかった本なんだって。意味分かんなくて。でも、目を通してればそのうち理解できるようになるかもしれないからってそうするの」
 えー、つまり?
 サマンサさん・・・・・・あんたも読めなかったんかい!
 ただ、この本が禍々しい、悪魔に連なるものだってことだけは分かってたんだね。
「にしても読めないもんはいくら目を通したって読めないよね。そりゃサマンサさんもへたるわ」
 あたしはちょっと同情する。そのうち分かるかもって無茶苦茶だ。
「でも、なんかお家に言い伝えがあるらしいよ? いつか読める者が現れるって。だからやるんでしょー」
 ふうん。そんな伝承があるなら単純に古文というわけじゃないのかな。分かる人が限られるメタファーとかアレゴリーとかシンボルとかアナグラムとか暗号とか隠語がてんこ盛りだったり?

「魔女といえばね」
 思い出したようにチドルが言った。
「今聞いてきたんだけど、東の村で薬草売って暮らしてた女の人が魔女捜索隊に連れてかれたらしいよ」
「えっ!!」
 マジか・・・・・・。
「親切な良い人だったらしいけど、裏では人を呪ったりしてたんだね。怖い怖い」

 あたしは考えた。
 その噂を聞いたサマンサさんは危機感を抱いた。で、自分が魔女と疑われそうな証拠を隠滅する為、タイミングよく見かけた余所者のあたしにこれ幸いと本を押し付けたって線はないか?
 うーん、分かんないけどアリそ~。
 家に古くから伝えられてきた、いわくありげな謎の書を焼き捨てたりするのはなんか怖いだろうしね。
 だとしたら運命のおなごとか何とか全部口から出まかせ?
 いや、それがホントなわけないけどさ、よくまぁ、アドリブであんなスラスラと。


「朝パンするよー」
 チドルがテーブルに黒いパンを置く。
 朝パン? そんな言い方するんだ。
「ちょっと待ってね」
 あたしは本をリュックの中に突っ込んだ。
 サマンサさんの意図は別にどうでもいいや。
 この中はもうあたし以外誰も手を触れられない安全地帯なんだから問題ない。

 あっ、そうだ。
 ふと思い立ってリュックの中にあったものをポケットに入れた。


 朝食を食べ終わった後、隠し持っていたものをチドルに差し出した。
 キャンディだ。
「食べてみて。噛まずに舌の上で転がして」
 チドルは受け取ったピンク色のキャンディをしばらく不思議そうに眺め、やがて恐る恐る口の中に入れた。
「何これえ!!」
 チドルは悶絶した。
「美味しいいい!!」
 手足をバタバタさせながら喜ぶ。
 よしよし、この世界にキャンディはまだなかったな。砂糖は庶民には届いてないか? ぬふっふっふっ、たまにはあたしがチドルを驚かせたかったんだもんね。
「ねえ、ねえ、これ東方の木の実?」
 チドルは目を輝かせて聞いてくる。
「んー・・・・・・そうだよ」
 説明がちょっとややこしくて出来なかった。
「いいなあ、東方に行ってみたいなあ。今度連れてって?」
 気楽に言うなよ~。あたしだって戻りたいよ。
「ま、もっと色んな味あるからね。食べな」



 午前中はチドルに村を案内して貰った。
 水車小屋があったり、共用の大型かまどがあったり。
 想定の範囲内です。
 田んぼの穀物はもう刈り入れが済んでて見れなかったけど、地球の穀物と大差ないんだろうな。

 犬っぽい動物を何度か見かけた。目が猫な以外は犬だ。
「チドルぅ。あの動物は? なんていうの?」
「んー、犬だよ~」
 やっぱそのまんま犬か。
 頭なでなでしたいけど、近付いてったらニャワンニャワン吠えるう。
 大型の家畜はもっと離れた所で放牧されてるんだって。
 馬があんなだったから牛も奇っ怪なデザインなんでしょう、きっと。

 すれ違う人達はあたしのことを二度見する。
 みんないかにも中世ヨーロッパの農民って感じの服装だ。
 地味色チュニックの腰にベルトを巻き、革のズボン穿いた男性。
 地味色ショールを肩から足まで長く掛け、頭巾を被った女性。
 基本はそんなか。裸足で歩く人もいる。
 で、戸惑ったのが髪の色。皆さん色とりどりなのよ。
 赤、青、黄、緑、紫、オレンジ、ピンクとアニメキャラ並にやりたい放題。髪型は普通なのに。染めてるのかと思い、チドルに聞いた。違った。生れつきなんだって。
 この世界では、人間もあたしらと完全に同じってわけじゃないんだね。
 そのうちすごい肌の色した人種とか出てくんじゃない?
 あ、赤髪の父親と青髪の母親が、赤と青が入り混じった髪の子供連れて歩いてる。変なの。そこは素直に紫になっとけよ。
 もちろんチドルや伯爵のように、あたしの目にも奇異に見えない髪色の人も多いよ。まぁ髪色はともかく、特にキャラが際立ってる人はいなかったな。
 うん、普通が一番。
 て、ここじゃあたしが一番異物なんだよね・・・・・・。
 それでもガン見される以外、別に絡まれたりはしない。チドルと一緒にいるから害のある存在とまでは思われないんだろう。

 それよりもさ。
 のどかでいいなぁ、ここ。
 気分いい。



 原っぱでチドルと追いかけっこして遊んだ。
 無邪気に、単純な追いかけっこ。
 楽しい。すごく楽しい。
 腹の底から笑った。
 転移前の日々から考えても、こんなに笑ったのメチャクチャ久し振り。

 追いかけてきたチドルがつまずいて、あたしを巻き込んだ。
 二人でコロコロすっ転び、ついでにそのまま草の上で大の字になる。
 手を繋ぎ、息切らしながら見上げる青空。
 ひゃー、透き通ってるな~。
 寝転んだまんま、持ってきた木の実を二人でもぐもぐ。
 お日様ポカポカ暖かい。
 どこかで鳥が鳴いた。


 秋の蝶が乱れ飛んでいる。
 小さな蝶だけど、色とりどりで凄く綺麗。最初、紙吹雪かと思った。
 よく見ると、この世界の蝶は羽のかたちがコウモリに似てる。

「チドルー、ちょっとそこ立ってて」
 あたしは起き上がると、小さな草花が咲き乱れて蝶が集い舞う一角を指差した。
 ポッケからスマホを取り出す。
「ええっ、何それ?」
 当然、チドルはスマホを見て驚く。
「東方のおふだだよ。あたしの国の習慣でね、これでチドルに悪魔が寄って来ないようにしたげる」
 しゃあしゃあと言うあたし。
「う、うん。ありがと」
 戸惑いながらチドルは指定した場所に立った。
 あたしは東方のお札を顔の前に掲げてチドルに向ける。
「はい、笑って~」
 カシャカシャカシャ。

 にひひ、いい写真撮れた。天使のはにかんだ笑顔。
 取り囲む無数の蝶と花はカラフルな装飾のよう。
 これチドルに見せたい! すんごい見せたい! 体固まるくらいビックリするだろうなぁ。でもね、そこまでやるのはまずいよね・・・・・・。
 説明できないもん。東方ではこれ普通の技術だよと言い張るには、レベルに差が有りすぎて無理がある。
 魔法と言っちゃえば簡単だけど、それだとあたし魔女になっちゃうし。
 魔女ダメ。ゼッタイ。

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