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第一章
17話 トイレの惨劇
しおりを挟む「ああ、早く案内しておくべきでしたね。トイレはこちらです」
ランマルさんは部屋のドアを開けてあたしを招いた。
うわあ、トイレあるんだ。希望は捨ててなかったけど夢みたい。トイレの存在にこれほど大きな喜びを感じてしまう日が訪れようとは!
幸せを噛み締めながら、あたしは先に立って歩くランマルさんに付いていった。
あたしらは元の廊下に戻り、奥へと進んでいく。
突き当たった所で左の狭い回廊へ。しばらく歩くと向こうに真っ黒に塗られた扉が見えた。
「あそこです。私はしませんので、この辺で待ってますよ。終わったら軽くお城を見て回りましょう」
廊下の突き当たりにあるその扉を指差しながらランマルさんは言った。
「ありがとうございます」
あたしは小走りに駆けてって扉を開け、中に入った。
四畳半くらいの広さの石壁の部屋。高いところに窓が開いていて、入ってくる外光で中はまぁまぁ明るい。壁のあっち側は外だね。太陽石も燭台に似たスタンドの上に乗せられてはいるけど光は失っている。
奥の壁に沿ってボックスチェアのように突き出た部分がある。高さ40センチくらい。長方形のその天面には厚い板が乗せられ、ぽっかりと口を開く大きな丸い穴が四つ。そこに座って用を足すのだと感覚的に分かった。
穴の横には紙が入った小箱。部屋の手前には水の入った鉢が置いてあって、それで手を洗うんだと思われる。
うん、立派なトイレだ。ただ、穴と穴の間に仕切りはない。
これって最大四人が並んで、互いに丸見え状態で同時にいたすこともあるってことだよね。
さっきランマルさんは、私はしませんのでって言った。つまり、男女が一緒にすることも普通にある? マジか。
はあ、この世界の羞恥心の感覚どうなってんの! これも慣れなきゃいけないの・・・・・・。
しゃがむ式のトイレでないだけマシと思うべきか。和式で並んで仲良くいたすなんて最悪やん。
あたしは右端の穴の上に腰掛けた。ただ座るだけでOK。
ミニスカノーパンなので手間入らず。別にそこに喜びはないけど。
いたしたのは小ですよ、小。
で、用を済ませて腰を浮かしたその時。
お尻の下からガサガサごそごそ微かな音が聞こえてきた。
え、何?
そういえばこの穴の下はどうなってるんだろ。
ダストシュートみたいに汚物は直に外へ排出されるのか、それとも便槽になっているのか。便槽ならネズミっぽい生き物でもいるんだろうか。
あたしは屈んで穴の中を覗き見た。
暗い。当然だ。でも、四つの穴から差し込む光で真っ暗闇ってわけでもない。
あたしは目を凝らした。
確かに何かいる。想像を超えて大きなもの。最初あたしの頭はそれが何なのか認識できなかった。それは単に暗いからというより、頭が認識するのを拒否したのかもしれない。
でも。
でも認めるしかない。
それは人だ。まさかの、人間だ。
仰ぎ見る痩せた裸の男と目が合った。
ギラギラと溢れんばかりの興奮を漲らせて輝く瞳。
声を呑み込む。
穴の下の空間。そこは数メートルの高さのある便槽。たぶんトイレと同じくらいの広さで、下の階に設けられている。
その中に出歯亀が入り込んでるってこと?
どうやって? 頑張ればこの便器の穴から下に降りられそうかな。
ちょっと待って! 一人じゃない。数人がしゃがみ込んでひしめいている。
みんな長い髪を振り乱し髭ぼうぼう。そして裸。
暗さに目が慣れてくるにつれ、とんでもない状況だったのを理解した。
男達は覗き込むあたしを見上げ、目を光らせて気味の悪い薄笑いをぼんやりと顔に浮かべている。
何てこと!
見られた!! こいつらに。あたしのあそこを。
まだ誰にも見せたことなかったのに!
出すとこまで見られたのか? 最悪だよ。最悪。最悪、最悪!
でも、これは・・・・・・。
何かおかしい。
引っ掛かる。彼らのあの瞳の奥に宿る情動は性欲とは違うような。
では、単なる痴漢じゃないんだとしたら?
あたしの直感が告げる。
これはもっと怖い、やばい、切迫した、深刻な・・・・・・。
ふと、ある可能性に思い至る。
もしかしたらアクティブな変態達の覗き見なんかよりレベルが遥かに上の最悪の状況なのかも。
あたしはついに悲鳴を上げた。
「ひぎゃあああああーーーーーーーーっ!!!」
トイレから転がり出るあたし。
足がもつれてでんぐり返り、一回転して床に尻餅ついた。
「どうしました?!」
ランマルさんが駆け寄ってくる。
あわあわするあたしの正面に。
「大丈夫ですか? 何がありました?」
あたしは・・・・・・足おっ広げたままやん! スカート思いっきり捲れ上がってるし。
ランマルさんにも性器見られた・・・・・・。顔から火が出る。
見られた。豪快に見られた。がっつり見られた。
でも、今はそれどころじゃない。
でも見られた。
会った初日に同僚男性に性器見られた。
うう。
あたしはもう号泣したい気持ちを押さえつつ、あと足を閉じて股間も押さえつつ、今目にしたことを訴えた。
「たっ、大変です! 便槽の中に侵入者がいます!」
溜まった汚物を城外に排出する為のシュートが便槽から外へ、地上まで通じているとしたら。水路なんかに流せるように。そんな構造なら外部の者が水路経由で城壁を潜り抜け、更にシュートの中を通って城内へ入ってくることは可能だ。
中世ヨーロッパの歴史で、トイレのシュートから敵兵に侵入されてしまった例はいくつかある。あんな風に痩せ細った男が裸になれば、狭い穴を這い登ってくることもできるんだろう。
これは覗きじゃなく、そっちだと思った。
最初に目が合った男は、顔の真ん中に大きな横一文字の傷跡があった。あれは刀傷だ。兵士なんだ。それも忍者みたいな侵入スキル持った厄介な相手。
事態は逼迫している。便槽まで入り込めば、後はカギ縄でも便器の穴に引っ掛けて上ってくればいいだけなんだから。忍者的スキル持ってりゃそれくらい簡単にやってのけるに違いない。
そうやってあちこちのトイレから中に侵入してきた敵兵達が既に何人も城内に潜んでいるとしたら? いずれ大変なことになる。それこそ公爵と謁見してた時に感じたあの殺気っぽいのは、どこかに隠れて伯爵暗殺の機会を窺っていた侵入者によるものだったかもしれない。
目撃されてしまったそこのトイレのあいつらもすぐに便槽から出てくるだろう。そして、あたしは口封じに殺される! 良くても便槽に引きずり込まれて監禁か?
パニック寸前のあたしを前に、ランマルさんは一瞬困惑した表情を見せた。が、物腰はあくまでも落ち着いた様子を崩さない。
少しは慌てろっ、てちょっと苛立った。
あたしの言うこと、信じてくれてないの? あなたも一緒に殺されるよ!
あたしは立ち上がり、ランマルさんの手を掴んで引っ張る。
「とにかく! 見に来て下さい。上がってくる前に! ホントなんです」
が、ランマルさんは動かない。
「いえ、その必要はないでしょう」
そう一言。
えっ? 何で?
「私の落ち度です。驚かせて申し訳ありません」
ランマルさんは静かに言葉を紡ぐ。
何を言ってるの? それってまるでランマルさんはあいつらがいることを予め知っていたかのようじゃない? そんな口ぶり。
ランマルさんは顔に微笑みを浮かべた。
微笑むとこじゃないでしょ? あたしは混乱する。
「便槽にいるのは隣国の敵兵ですよ」
ランマルさんは、澱みなくはっきりとそう言った。
ランマルさんの言葉にあたしはめまいを覚えた。
か弱い乙女のように失神して崩折れそう。でも、それは出来ない。ノーパンだから。ぐっと踏み止まる。
ランマルさんの言葉の意味は? 意味。
何故、確認してもいないのに普通に彼らの正体を断言できるの?
つまり、ランマルさんは、便槽のあいつらとグル・・・・・・。
ランマルさんが手引きして敵を城内に引き入れた。
そういうことなの?
ランマルでなくミツヒデなの?
落ち度というのは、敵兵が侵入してくるタイミングの意思疎通ができてなくて、あたしとニアミスさせてしまった事を言ってるの?
それで、秘密を知ってしまったあたしは? どうなるの?
ランマルさんが一歩近づいてきた。
嘘・・・・・・嘘・・・・・・。
マジ、で?
じょっ、冗談じゃない!!
城へ来てまだ少ししか経ってないのに、いきなりそんなのないよ・・・・・・。
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